健康を提供する農村 ワーケーションに“農”力発揮 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏

 宮城県最南端、阿武隈山地にある丸森町は昨年、台風19号の記録的集中豪雨で河川の堤防決壊や土砂崩れが起こり、10人の犠牲者を出す大災害に見舞われました。まもなく1年を迎えますが、今なお復旧工事があちこちで続き、250世帯が仮設住宅や仮のアパートで暮らしています。

 復興をバネに町はどんな未来を描くのか。先週末、町民やボランティアで町に来る人たちに向けた大人の社会塾「熱中小学校丸森復興分校」が開かれ、参加してきました。

 丸森の農業といえば、水田、酪農、畜産などがありますが、他にもあんぽ柿や、輪切りにした大根を竹串に通して干す「へそ大根」など、気候風土に根差した食文化が受け継がれています。

 驚いたのは日本の棚田百選になっている「大張沢尻棚田」で、土砂や流木でのり面は崩れましたが江戸時代に築かれた見事な石垣に損傷はありません。もともと棚田には、地滑り防止や治水など減災の機能があります。

 災害多発時代において必要なのはレジリエンス(回復する力)です。生態系や里山の農業などの営みは、グリーンインフラと呼ばれ、世界的にも注目されています。

 同町の再生をかけた新しい動きとして先週、ワーケーションの実証実験がありました。ワーク(仕事)×バケーション(休暇)の融合で、働き方改革と感染症対策に伴い、地域と都市の双方で関心と需要が高まっています。

 実験は、前出の社会塾を全国17地域で仕掛ける一般社団法人熱中学園が、町、東北医科薬科大、情報機器大手・内田洋行(東京)との共同で、社員11人が5日間、滞在しました。血圧などの健康データを測定し、よい結果が得られれば、企業の福利厚生にも役立ちます。

 今、最も人々が求めているのは、感染しない環境、ストレスなく過ごせる居場所、つまり心の健康(安心)です。

 阿武隈川支流での森林浴やキャンプ、温泉、新鮮な空気と水、豊かな自然を感じる滞在期間に、農業や食との関わりを加えれば、充実感はもっと増すでしょう。

 消費だけでなく生産を知れば、地域課題を解決する関係人口となり、互いの自己肯定感も高まります。自社の健康だけでなく、地域も元気にならないと、関係は長くは続きません。農の力を発揮するワーケーションが実現できれば、都市と地域が互いの存在を喜び合い、双方の活性化と生き残り策になるはずです。

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