NZ輸送船沈没から1カ月 中国向け“初妊牛5800頭” 背景に牛乳需要拡大

 今月2日、鹿児島県の奄美大島沖合を航行していたパナマ船籍の貨物船が遭難し、沈没した。43人の乗組員のうち、2人が救助され1人の死亡が確認された。ニュージーランドの港で積み込まれたのは5867頭の乳牛。向かっていたのは中国河北省の唐山港だった。(特別編集委員・山田優)

 遭難した「ガルフ・ライブストック1号」は、コンテナ船から2015年に家畜運搬専用の貨物船に改装された。総トン数は1万1947トン。船の写真を見ると、遠目には旅客フェリーのようにも映るが、実際には甲板から4階建ての金網で囲われ、一度に数千頭の家畜を運ぶことができる構造。ニュージーランドからの「乗客」の多くは初妊牛だった。日本の海上保安庁の巡視船 「しきしま」が、4日午前7時すぎ、海上に漂う1頭の牛の死骸を発見している。

 ニュージーランド政府の調査では、15年以降、平均で牛3万頭が海を毎年渡っている。一部はフィリピンやベトナムにも運ばれたが、95%以上が中国向けだ。ほとんどが乳牛とみられている。年間の輸出額は日本円で約140億~200億円に達していると指摘する専門家の声を現地メディアは報じている。今年は注文が増え、さらに拡大する見通しだという。

 日本でも、オーストラリアから18年に1700頭余りの初妊牛を輸入している。輸入関係者によると「乳価が堅調で都府県の酪農家が手当てしている」のが理由だが、中国に比べれば1桁少ない。

 中国が数万頭もの初妊牛を毎年輸入するのは、伸び続ける牛乳需要を賄うのが理由だ。中国の1人当たりの年間乳製品の消費量は35キロ(19年)で、25年には43キロに増える見通し。現在でも中国は90万トンの牛乳を輸入する世界最大の輸入国だ。国内供給を増やすため酪農の近代化が急務だ。米農務省によると、中国の酪農メーカーは、1農場で1万頭を超える大型の酪農施設を相次いで建設している。100頭以上の酪農家が供給する生乳は既に全体の65%を占め、1頭当たりの年間泌乳量は8000キロに達するなど、生産性は向上している。

 中国政府の農業農村部が今年1月に出した行動計画では、酪農家や酪農協同組合への支援を通じて、22年までに毎年1500の酪農経営と100の牛乳加工施設の増改築を実施する。増産に欠かせない質の高い乳牛を短期間で入手するには、海外産の初妊牛に頼らざるを得ない。

 中国は酪農の海外投資にも力を入れる。15年までの5年間に、中国企業はニュージーランドで乳牛が1万頭を超える巨大牧場を2カ所で買収してきた。乳製品工場などの買収も進めている。

 ニュージーランド国内では、アニマルウェルフェア(快適性に配慮した家畜の飼育管理)の観点から、牛の生体輸出に批判的な声もある。中国企業の牧場買収にも警戒感が高まっている。一方で農家の間には、乳製品や乳牛を大量に買ってくれる顧客として中国に期待する声も大きい。
 

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