政治の季節“風” 政策 冷静に見極めを 元農水省官房長 荒川隆氏

 突然の総理辞任表明からちょうど1カ月、総裁選の告示も待たず派閥主導で勝ち馬に乗る構図は、国民の理解が得られただろうか。対する野党も、第1党と第2党が合流し新党首が選ばれたが、原発政策での路線対立や支持母体の「連合」との関係など、舞台裏が丸見えだった。政権構想を示し総選挙に勝利した党の代表が首班指名され内閣を構成するという「憲政の常道」の総理交代でなかった以上、来年10月が任期の衆議院については、早晩、国民に信を問わざるを得まい。いよいよ「政治の季節」がやって来た。

 政治の季節となれば、各党はマニフェストなど政策提案を示し、選挙に臨むことになる。農業・農村政策についても、さぞや耳に心地良い提案が示されるだろうが、われわれ有権者には、その実現可能性を含めて、1票を投じた先で実際にどんな政策運営が行われるのかの想像力が求められる。

 というのも過去に苦い経験があるからだ。11年前には、時の野党民主党が「戸別所得補償政策」を農政の柱として打ち出した。米麦はもとより、畜産・酪農や水産まで所得補償の対象かと見まがうようなマニフェストで生産現場に大きな夢を与え、政権交代の原動力となった。だが、3年3カ月に及ぶその政権では、戸別所得補償の法制化はもとより、無駄を省けば生み出されるはずだった16兆円余の財源確保もままならず、米戸別所得補償モデル事業予算は、土地改良を犠牲にして農林予算の中で賄われた。結果、商系業者による米の買いたたき、1万5000円/10アールの交付金目当ての農地の貸しはがしによる集積・集約化の遅れ、土地改良事業の工期延伸など、負の遺産が残された。その政権で官房長官や経済産業大臣の要職を務めていたのが、今度の野党第1党の党首だ。

 そして、8年前には、最大の関心事項の環太平洋連携協定(TPP)への対応が焦点だった。時の野党自民党は農業団体の反対姿勢を背景に、「『聖域なき関税撤廃』を前提とする限り、TPP交渉参加に反対」と訴え、農業・農村現場の支持を獲得し政権復帰につなげた。だが、その後の8年間の農政運営はご承知の通りで、電光石火、TPP交渉参加にかじを切るとともに、日欧EPA(経済連携協定)、日米貿易協定と続く国境措置の脆弱(ぜいじゃく)化や中間管理機構、農協改革、生乳改革、市場改革など、現場の実態から乖離(かいり)した奇妙な「改革」が続いた。新総理がその安倍農政の実質的責任者だったことは周知の事実だ。

 何ともやるせない2度の政権交代だったが、われわれ有権者は、選挙を通じてしか自らの意思を示せない。携帯電話料金の引き下げや不妊治療無料化など、早速いい話が聞こえてきているが、過去の反省に立てば、政治の季節“風”に乗って流れてくるおいしい話に幻惑されることなく、誰に任せると何が行われるのか、冷静に分析し判断する必要がある。農業・農村の真の味方は誰なのか、この際じっくり考えたい。

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