止まらぬ農産物盗難 子豚、シャインに集中 件数は増加傾向?

果樹園の盗難被害を防ぐためパトロールに当たるJAや防犯協会のメンバー(福島市で=JAふくしま未来・渡邊塁特別通信員写す)

 全国で農畜産物や農機の盗難が止まらない。新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が出された4月から相次ぎ、被害は豚や牛といった家畜、梨やリンゴなどの果実、露地栽培の野菜、収穫直後の米、ミツバチの巣箱、トラクターと幅広い。だが、農業被害に絞った統計がないため全体像は不明だ。識者は、全国的な対策を図るには被害の実態把握が不可欠だと指摘する。(栗田慎一)
 

全国統計なし 対策へ実態把握を


 警察庁統計によると、今年1~8月の刑法犯認知数は27万8619件で、過去5年で最低となった。このうち窃盗も前年同期比で3割以上減っており、背景として警察の取り締まり強化や新型コロナウイルス禍による営業自粛などが挙げられる。ただ、窃盗被害の中で分類されていない農家の被害は「例年より確実に多い印象だ」(捜査関係者)という。

 犯行は大胆だ。群馬県太田市で4月中旬、ビニールハウス1棟で収穫直前のホウレンソウが根元から丸ごと消えた。北海道では8月末、砂川市のビニールハウスからミニトマトが、大空町ではタマネギがそれぞれ100キロも盗まれた。

 

 家畜盗難は子豚が中心だ。前橋市の養豚場で1~7月に計400頭の被害が判明したのを端緒に、群馬、栃木、茨城、埼玉の隣接4県で9月までに子豚や子牛など計900匹近くが被害に遭った。群馬県の養豚場では侵入する男女3人や軽乗用車が、栃木県の和牛牧場では男3人が子牛の脚を縛って盗み去る姿が、防犯カメラに捉えられている。

 果実は高級ブドウ「シャインマスカット」の被害が多く、山梨県南アルプス市、長野県須坂市、東京都清瀬市など広範に及ぶ。梨は産地の埼玉県神川町、リンゴは青森市に集中した。短期間に被害が多発したのは群馬県高崎市で、10日間に4農園から梨1650個と「シャインマスカット」200房が盗まれた。

 逮捕された容疑者は、現行犯がほとんどだ。長野県中野市では「マスカット」を盗んだベトナム人の女2人を管理人が発見、1人が管理人の右腕をかんで強盗致傷で逮捕された。福岡県八女市でも「シャインマスカット」を盗んだとして男(79)が現行犯逮捕されている。

 新潟県三条市では倉庫から玄米120キロが、茨城県神栖市では新米3・7トンが盗まれた。農機も群馬県で1~8月に十数件のトラクター盗難があり、1台1000万円の高額機種もあった。

 各地のJAや防犯協会などは、車庫の施錠やハンドルロックの使用など自衛策を呼び掛ける一方、警察と連携してパトロールの強化に取り組んでいる。
 

「性善説」付け込んだか 筑波大学教授(犯罪心理学)原田隆之氏


 農村は本来、身近には悪いことをする人などいないという性善説で成り立っている。そのため、防犯意識や防犯対策が希薄になりがちなところを狙われた可能性が大きい。盗難被害が続き、防犯対策を厳重にする必要に迫られると、開かれた農村社会が閉じられる。畑などを厳重に囲めば、人々の意識も風景も一変する。

 問題は、農畜産物の盗難は農家にとって死活問題なのに、全国の被害実態が分かる統計がないことだ。対策を講じるには、被害の全体像を把握する必要がある。


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