止まらぬ農産物盗難 子豚、シャインに集中 件数は増加傾向?
2020年10月14日

果樹園の盗難被害を防ぐためパトロールに当たるJAや防犯協会のメンバー(福島市で=JAふくしま未来・渡邊塁特別通信員写す)
全国で農畜産物や農機の盗難が止まらない。新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が出された4月から相次ぎ、被害は豚や牛といった家畜、梨やリンゴなどの果実、露地栽培の野菜、収穫直後の米、ミツバチの巣箱、トラクターと幅広い。だが、農業被害に絞った統計がないため全体像は不明だ。識者は、全国的な対策を図るには被害の実態把握が不可欠だと指摘する。(栗田慎一)
警察庁統計によると、今年1~8月の刑法犯認知数は27万8619件で、過去5年で最低となった。このうち窃盗も前年同期比で3割以上減っており、背景として警察の取り締まり強化や新型コロナウイルス禍による営業自粛などが挙げられる。ただ、窃盗被害の中で分類されていない農家の被害は「例年より確実に多い印象だ」(捜査関係者)という。
犯行は大胆だ。群馬県太田市で4月中旬、ビニールハウス1棟で収穫直前のホウレンソウが根元から丸ごと消えた。北海道では8月末、砂川市のビニールハウスからミニトマトが、大空町ではタマネギがそれぞれ100キロも盗まれた。
家畜盗難は子豚が中心だ。前橋市の養豚場で1~7月に計400頭の被害が判明したのを端緒に、群馬、栃木、茨城、埼玉の隣接4県で9月までに子豚や子牛など計900匹近くが被害に遭った。群馬県の養豚場では侵入する男女3人や軽乗用車が、栃木県の和牛牧場では男3人が子牛の脚を縛って盗み去る姿が、防犯カメラに捉えられている。
果実は高級ブドウ「シャインマスカット」の被害が多く、山梨県南アルプス市、長野県須坂市、東京都清瀬市など広範に及ぶ。梨は産地の埼玉県神川町、リンゴは青森市に集中した。短期間に被害が多発したのは群馬県高崎市で、10日間に4農園から梨1650個と「シャインマスカット」200房が盗まれた。
逮捕された容疑者は、現行犯がほとんどだ。長野県中野市では「マスカット」を盗んだベトナム人の女2人を管理人が発見、1人が管理人の右腕をかんで強盗致傷で逮捕された。福岡県八女市でも「シャインマスカット」を盗んだとして男(79)が現行犯逮捕されている。
新潟県三条市では倉庫から玄米120キロが、茨城県神栖市では新米3・7トンが盗まれた。農機も群馬県で1~8月に十数件のトラクター盗難があり、1台1000万円の高額機種もあった。
各地のJAや防犯協会などは、車庫の施錠やハンドルロックの使用など自衛策を呼び掛ける一方、警察と連携してパトロールの強化に取り組んでいる。
農村は本来、身近には悪いことをする人などいないという性善説で成り立っている。そのため、防犯意識や防犯対策が希薄になりがちなところを狙われた可能性が大きい。盗難被害が続き、防犯対策を厳重にする必要に迫られると、開かれた農村社会が閉じられる。畑などを厳重に囲めば、人々の意識も風景も一変する。
問題は、農畜産物の盗難は農家にとって死活問題なのに、全国の被害実態が分かる統計がないことだ。対策を講じるには、被害の全体像を把握する必要がある。
全国統計なし 対策へ実態把握を
警察庁統計によると、今年1~8月の刑法犯認知数は27万8619件で、過去5年で最低となった。このうち窃盗も前年同期比で3割以上減っており、背景として警察の取り締まり強化や新型コロナウイルス禍による営業自粛などが挙げられる。ただ、窃盗被害の中で分類されていない農家の被害は「例年より確実に多い印象だ」(捜査関係者)という。
犯行は大胆だ。群馬県太田市で4月中旬、ビニールハウス1棟で収穫直前のホウレンソウが根元から丸ごと消えた。北海道では8月末、砂川市のビニールハウスからミニトマトが、大空町ではタマネギがそれぞれ100キロも盗まれた。

果実は高級ブドウ「シャインマスカット」の被害が多く、山梨県南アルプス市、長野県須坂市、東京都清瀬市など広範に及ぶ。梨は産地の埼玉県神川町、リンゴは青森市に集中した。短期間に被害が多発したのは群馬県高崎市で、10日間に4農園から梨1650個と「シャインマスカット」200房が盗まれた。
逮捕された容疑者は、現行犯がほとんどだ。長野県中野市では「マスカット」を盗んだベトナム人の女2人を管理人が発見、1人が管理人の右腕をかんで強盗致傷で逮捕された。福岡県八女市でも「シャインマスカット」を盗んだとして男(79)が現行犯逮捕されている。
新潟県三条市では倉庫から玄米120キロが、茨城県神栖市では新米3・7トンが盗まれた。農機も群馬県で1~8月に十数件のトラクター盗難があり、1台1000万円の高額機種もあった。
各地のJAや防犯協会などは、車庫の施錠やハンドルロックの使用など自衛策を呼び掛ける一方、警察と連携してパトロールの強化に取り組んでいる。
「性善説」付け込んだか 筑波大学教授(犯罪心理学)原田隆之氏
農村は本来、身近には悪いことをする人などいないという性善説で成り立っている。そのため、防犯意識や防犯対策が希薄になりがちなところを狙われた可能性が大きい。盗難被害が続き、防犯対策を厳重にする必要に迫られると、開かれた農村社会が閉じられる。畑などを厳重に囲めば、人々の意識も風景も一変する。
問題は、農畜産物の盗難は農家にとって死活問題なのに、全国の被害実態が分かる統計がないことだ。対策を講じるには、被害の全体像を把握する必要がある。
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「音農家」の遠藤さん(遠藤さん提供)
北見市の遠藤正人さん(40)は小麦などを35ヘクタールで栽培する傍ら、ギタリストとして精力的に活動する。自ら「音農家(おんのうか)」と名乗り、東京でもライブをして、オホーツク地方や農業の魅力を発信している。
2008年にメジャーデビューしてCD2枚、DVD4枚を発売。東京で10年間、ライブ活動やバックバンドなどをした後、32歳で畑作農家の後継者としてUターンした。今は高齢者施設や教育施設での演奏など、農作業の合間に音楽活動を展開。スタジオミュージシャンとして録音にも携わる。遠藤さんは「“音農家”として、農業の魅力や格好良さを広げていきたい」と語る。
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2021年03月06日

コンサル職員を育成 経営課題の解決へ 組合員に適切助言 滋賀中央会
JA滋賀中央会は2020年度、農家組合員の経営上の課題を指摘してその解決策を提案するコンサルティング能力を備えたJA職員の育成に乗り出した。営農指導員などを対象に、講義や実習を織り交ぜた研修を実施。組合員の農業経営に関して適切な助言や指導ができる人材を育てる。中央会によると、こうした人材育成に県域で取り組むのはJAグループでは全国的に珍しい。
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2021年03月03日
コロナと田園回帰 共生できる環境整備を
新型コロナウイルス禍で田園回帰への関心が高まっている。政府や自治体などは農山村への人の流れを加速させようと懸命だ。しかし、人口を増やすことだけが目的だと一過性に終わりかねない。移住者と住民が互いに共生できる地域づくりが欠かせない。
都市は「3密」になりやすく、新型コロナの感染リスクが高い。このため人口密度の低い農山村の価値が見直され、東京一極集中に是正の兆しもみられる。人口移動に関する総務省の統計では、東京都から出て行く転出者は2020年が40万人を超え、前年より4・7%増えた。比較可能な14年以降で最多だ。一方、東京都への転入者は43万人で同7・3%減った。
この流れを「ビックウエーブ」と歓迎する声もあるが、疑問だ。北海道のある自治体の移住担当者は「都市からの一時避難として移住する人を増やしても、地域にとって意味がないのではないか」と冷静に捉える。
テレワークが普及し、都市に住んでいた時と同じ仕事をしながら住居だけを変える「引っ越し感覚」の移住では、地域とあまり関わらないままになる可能性がある。農的な暮らしがしたいなど、希望を持って移住してくる人の受け入れ態勢をどうつくるかが重要である。
参考になるのが、酪農ヘルパーの労働環境改善に向けた北海道での取り組みだ。酪農家の休暇や冠婚葬祭時などに欠かせず、道外からの移住者らが担い手になっている。多くの酪農家には従来、作業員や労働力としての捉え方が強かったという。
一方、インターンシップの受け入れができなかったことなどで酪農ヘルパーの希望者が減少。北海道酪農ヘルパー事業推進協議会(事務局=JA北海道中央会)は、道全域の組合で、就業規則の整備率100%を目指し運動を始めた。地域によっては、酪農ヘルパーをしながら他の仕事もする「半酪農ヘルパー半X」も活躍している。
道東の酪農家は「労働環境を改善し、酪農ヘルパーが生き生きと地域で暮らすことで、他の人もこの地域に関心を持ち、地域全体に良い影響をもたらす」と期待する。
北海道では、酪農ヘルパーだけでなく、新規就農者に加え、学生や地域おこし協力隊、他に仕事を持っている人、1日契約など週末だけ農業でアルバイトをする主婦ら、多様な人が農業への関心を高めている。農家や産地も専業農家の確保・育成だけでなく、そうした人たちを大切にし、受け入れようとの意識に変わってきている。
しかし農業の労働環境の整備・改善や、ライフスタイルや価値観が多様な人たちの受け皿づくりは一朝一夕にはできない。農家や産地、地域の取り組みが必要だ。一方で「引っ越し感覚」で移住して来た人に、地域社会の一員としての意識と関わりを持ってもらう取り組みも求められる。
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2021年03月03日
農政の新着記事
規制会議議論始まる 准組利用「組合員の判断」 農水省が方向性表明
政府の規制改革推進会議農林水産ワーキンググループ(WG)は5日、改正農協法施行5年後の見直しに向けた議論を始めた。農水省やJA全中などから意見を聴取。同省は今後の検討の方向性として、JA准組合員の事業利用については「組合員の判断に基づく」との考えを示した。WG側は、農家所得増大に向けたJAの自己改革の成果を詳細に示すよう求め、数値目標による進捗(しんちょく)管理の必要性も指摘した。
WG 所得増「数値目標を」
会合は非公開。同省は各分野の改革の実施状況を総括し、方向性を示した。……
次ページに農水省が示した農協改革の検討方向の表があります
2021年03月06日
有機農業 50年に100万ヘクタール 新戦略中間案 環境負荷軽減へ 農水省
農水省は5日、環境負荷の軽減と農業生産力向上の両立を目指す中長期的な政策方針「みどりの食料システム戦略」の中間取りまとめ案を公表した。2050年までに①化学農薬の使用量半減②化学肥料の使用量3割減③有機農業を全農地の25%に拡大──といった意欲的な数値目標を提示。技術革新や農家・消費者らの理解などを前提とし、生産体系を大きく転換する方針を打ち出した。
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2021年03月06日
食料安保など重点に 中国の全人代が開幕
中国の全国人民代表大会(全人代=国会)は5日、北京で開幕された。2021年からの14次5カ年計画に加え、35年までの長期目標も議論し、食料安全保障などを柱に政策を定める見通しだ。食料安全保障では、種子と耕地が重要と強調。種子の遺伝資源の保護や優良品種の選抜、普及を強化し、農家支援も拡大する。……
2021年03月06日
農地所有適格法人 現行要件 「支障」2割 規制会議に調査示す 農水省
政府の規制改革推進会議農林水産ワーキンググループ(WG)は5日、農地所有適格法人の議決権要件緩和を巡り、農水省に意見を聞いた。同省は、現行要件では資金調達などに「支障がある」とする法人が約2割だったとの調査結果を提示。農業関係者が今後も経営権を確保する必要性を示しつつ、一定の条件下で出資による資金調達の在り方についても検討する必要があるとの考えを示した。
同会議は、「農業者の資金調達の円滑化」を名目に、同法人の議決権要件緩和に関心を示す。……
次ページに調査結果の表があります
2021年03月06日

[米のミライ](7) 消費拡大 米卸・ミツハシ 「ご飯食=健康」発信 アスリートに照準
米の消費減少の要因の一つが、「米は太る」といった健康に関するマイナスイメージだ。しかし、米は健康的な体づくりには欠かせない食べ物。スポーツ選手をターゲットとし、米を売り込む動きが出てきた。
米卸のミツハシ(横浜市)は、大学の運動部などスポーツチーム向けの米飯宅配事業を2019年から始めた。運動前後に不足する栄養を補う「補食」に、米の需要を見いだしたためだ。……
2021年03月05日
広域捕獲 国が支援 鳥獣特措法改正で骨子案
自民党が議員立法に向けて検討している鳥獣被害防止特別措置法改正案の骨子案が4日、判明した。都道府県が市町村の枠を超えて広域的に捕獲を進める際に、国が財政支援を行うことを明記。猟銃所持許可を更新する際に必要な技能講習の免除特例の延長や、捕獲した鳥獣の有効利用の促進強化も盛り込んだ。
特措法は2007年に議員立法で成立し、今国会で4回目の改正を目指している。……
次ページに骨子案のポイントの表があります
2021年03月05日

[米のミライ](6)加工用米 産地と地元実需 協力 活用の裾野広げる 新潟、熊本県
「パンやカップ麺のように、手軽に食べてもらえる商品にしたい」。JA熊本経済連は、県産の加工用米を使った冷凍米飯を売り込む。ご飯を炊く手間から国内の精米消費量が落ち込む中でも、電子レンジで調理できる商品ならば、消費者の簡便ニーズに応えられると商機をみる。
2009年から冷凍米飯事業に乗り出し、現在の「熊本県産こだわり炒飯」は、焼き豚やニンジンなど県産品の利用にこだわった5種類を展開。……
2021年03月04日

[米のミライ](5) 地産地消 生産者自ら積極PR 官民連携で手応え 北海道深川市 ふかがわまい生産組合
米の消費量が落ち込む中、各主産地が販路拡大を模索する。北海道は、府県産米から北海道米への消費の切り替えを進める「米チェン!」運動など、地産地消を強力に展開してきた。現在、道民の9割近くが地元の米を食べている。
ふかがわまい生産組合は、JAきたそらちや深川市と連携し、生産者自らが米の営業活動に力を入れる。減農薬・特別栽培の「ゆめぴりか」「ななつぼし」「ふっくりんこ」の地産地消を推進。「産地一丸で深川産の米をPRしよう」と、2019年9月に水稲農家の統一組合を設立した。……
2021年03月03日

[震災10年 復興の先へ] 「戻らない」5割 避難先での生活定着 復興庁など 福島県4町住民意向調査
東京電力福島第1原子力発電所事故の影響を受ける双葉、大熊、富岡、浪江4町の住民のうち、避難先から「戻らない」と考える人が5割を占めることが復興庁などの2020年度調査で分かった。19年度と比べて4町とも帰還した住民は増えているが、戻らない人の割合の方が依然高い。既に避難先での生活が定着し、帰還しにくい人が多いことが背景にある。
「戻らない」の割合を町別にみると、双葉町が62・1%、大熊町が59・5%、富岡町が48・9%、浪江町が54・5%。いずれも19年度調査とほぼ同じ水準のまま変わっていない。
帰還しない理由は、富岡町では「既に生活基盤ができている」が最多の60・1%。大熊、浪江各町も同様に最多だった。双葉町も「避難先で自宅を購入し、今後も住む予定」がトップだった。避難生活が長期化する中、仕事が定着したり、友人が増えたりしたことで、元の町に戻るのを見合わせるケースは多い。
一方、4町とも帰還するかどうか「まだ判断がつかない」が2割程度いた。帰還を判断するのに必要な条件として多く挙がったのが医療・介護施設の確保。「医療・介護の復旧時期のめど」が最多の56・8%だった浪江町を含め、各町とも同様の回答がトップだった。
避難指示が一部解除された大熊、富岡、浪江各町は、いずれも10%未満ながら「戻っている」との回答があった。最も高かったのは富岡町の9・2%で、前年度から1・7ポイント増えた。各町とも19年度を上回った。
帰還を決めた理由は「(帰還先の)生活は気持ちが安らぐ」が多く、浪江町は68・8%、富岡町は52・4%だった。大熊町は「役場機能が再開した」が最多の43・5%。故郷を思う気持ちに加えて、行政機関が機能していることが帰還の動機になっている。
今回の調査は4町に加えて、川俣町山木屋地区も対象。「戻っている」との回答は37・8%で、19年度調査と同様に一定数が帰還している。避難指示区域が解除されていることも影響しているとみられる。
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2021年03月03日
コロナ下販促支援 2次募集 7月末分まで対象に 農水省
農水省は、新型コロナウイルス禍で売り上げが2割以上落ち込んだ農産物の販売促進活動を支援する「国産農林水産物等販路多様化緊急対策事業」の2次募集を行う。近く募集を始め、締め切りは4月上旬とする方針。4月中下旬から7月末までの取り組みを対象とする。
2020年度第3次補正予算で250億円を計上した事業だが、緊急事態宣言の再発令による影響なども踏まえ、21年度も支援することにした。……
2021年03月02日