熊被害が深刻化 「餌」の放置地域で防げ

 熊による人身被害が今年度も相次いでいる。命に関わるだけに、中山間地域や山際に田畑や畜舎を持つ農家は特に警戒が必要だ。農作業中を含め、安全確保には餌となる農作物を放置しないなど、農地や集落に近づけない工夫が欠かせない。地域ぐるみでの対応が鍵を握る。

 環境省によると、2020年度の人身被害は8月時点で60人。公表されている08年度以降で最も多かったのは19年度の年間157人だが、既にその4割に達している。20年度の捕獲頭数も8月時点で3207頭に上り、過去最高だった19年度の年間6285頭の5割を超えた。

 人身被害や捕獲頭数が19年度に大きく増えた背景の一つが、秋の餌となるドングリ(堅果類)の凶作だ。同省のまとめでは、19年秋の結実状況は、情報提供のあった25都道府県のうち、ブナでは9割が凶作だった。冬眠を控える熊にとって山のドングリは貴重な栄養源だ。それが少ないと、餌を求めて動き回る。山間部や山際の田畑に放置されている農作物を見付けたら、即座に食い付く。人里に近づくきっかけとなり、畜舎を襲うことにもつながる。

 20年度のドングリの全国的な豊凶は、同省が取りまとめ中だが、複数の市町村の担当者が「今年も少ない」と警戒する。

 イノシシや鹿も人にけがをさせることはあるが、より巨大な獣である熊と遭遇し、襲われれば、命に関わる。そうした事態を避け、安全に農作業を続けるにはまず、餌になる農作物を屋外に放置しないことが大事だ。傷があるなどの理由で出荷しない農作物であっても、必ず持ち帰る。

 農水省が示す熊対策では、野菜や果物の残さ、生ごみは「熊を誘引する」として除去を促す。また、農産物の倉庫に入り込むこともあるため施錠を徹底し、農作業中はラジオなど音が出る物を携行して人がいることを認識させるなど、熊を近づけないことを重視する。

 一連の対策は、地域を挙げて実践することで効果が高まる。長野県軽井沢町では、熊があさることができない頑丈なごみ箱を町内に複数設置したところ、目撃情報が減ったといった成果が出ている。

 地域単位の対策には、農家を含む住民の協力が欠かせない。現場に近い市町村には主導的役割が求められるが、職員が減り体制が弱まっているところも少なくない。住民同士で声をかけ合ったり、農作物の残さの回収に協力したりするなど、地域の協働が被害防止に貢献する。

 これと並んで重要なのが捕獲を担う狩猟者の存在だ。高齢化や担い手不足が進む中、後継者育成が急がれる。環境省は、次世代の狩猟者を育成する狩猟インストラクター制度の構築などを目指し、21年度予算概算要求に新規で3000万円を盛り込んだ。熟練の狩猟者が培ってきた熊捕獲の経験や技術を若手に引き継ぐ仕組みが求められる。
 

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