教頭・赤シャツが言う

 教頭・赤シャツが言う。「あの松を見たまえ。幹が真直(まっすぐ)で上が傘のように開いていてターナーの画にありそうだね」▼漱石が『坊っちゃん』で瀬戸内の小島を〈ターナー島〉と名付ける場面である。漱石が感銘を受けた英国の画家ターナー。あさってまで東京・上野の国立西洋美術館での「ロンドン・ナショナルギャラリー展」にも秀作が来日。漱石が留学中にロンドンで鑑賞した作品を以前、間近に見た。確かに大きな傘松が印象深い▼200年前のターナーが生きた時代は大きく揺れ動く。ナポレオン戦争で英仏が激突した。英国は歴史的な海戦で勝利し、産業革命を背景に発展する。こんな中で芸術の宝庫・イタリア旅行を通じ才能は花開く。冒頭の作品はこうして生まれた▼「雨中を進行する汽車を描くや瞑朦(めいもう)として色彩ある。水を行く汽車の如(ごと)し」。漱石はターナーの代表作「雨・蒸気・速度」をこう絶賛した。最晩年には空と海の境界は消え、まばゆい光のみが微細な色彩と共に残る。一方で「だから清(きよ)の墓は小日向(こびなた)の養源寺にある」と近代日本文学で最も美しいとされる『坊っちゃん』最後の行。無鉄砲の〈おれ〉を慈しみ世話をしてくれた清。その慕情で筆を置く▼漱石とターナーには芸術探究へ“一途(いちず)”の2字が合う。そして奥深い。
 

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