基本計画 消えた「食料産業」 農業との連携 大前提 新潟食料農業大学教授 武本俊彦

武本俊彦氏

 今回の食料・農業・農村基本計画では、「農業・食料関連産業」という用語が2回出てくる。これは、「農業と食品産業(加工、流通、外食など)」を包括した概念であり、農水省は、これを食料産業と名付け食料産業局を設置した経緯がある。
 

買い手優位懸念


 高度成長期以降、食の成熟化による食料消費の量的拡大から質的充足への変化、女性の社会進出による家事労働の外部化の結果、生産―加工・流通―消費をつなぐフードシステムが形成され、多様な消費者ニーズにかなった財・サービスを提供し得る食料産業が形成された。食料産業は売り手と買い手による自由で公正な競争を通じ、買い手にとって最も望ましい財・サービスを提供するのである。

 しかし、例えばチェーンストアシステムと販売時点情報管理(POS)を装備した大規模量販店の登場は、売り手と買い手の対等な関係を損ない、不当な価格引き下げなどをもたらした。こうした時には政府の介入により、市場メカニズム機能を補完する必要が出てくる。

 今回の基本計画では、食料産業は登場しない。2021年度組織要求で食料産業局などを廃止し、官房に新事業・食品産業部を設置するとのこと。農水省の組織から食料産業を冠した組織がなくなるのだ。

 国内農業を起点として消費者のニーズに応じ加工・流通業を通じて高付加価値化を図る食料産業は、農業と食品産業の密接な関係と連携を前提とし、両者の間に公正な競争条件が確保されることが求められる。

 加えて農業と食品産業との関係を希薄化し、両者の公正な競争条件の確保を視野の外に置こうとしている。農業と食品産業との間の競争条件は、経済停滞、人口減少の下で、農業が不利な立場に置かれることが懸念される。
 

「国内」軽視か?


 食料国産率の考え方も、国内農業と畜産業との関係のデカップリング(切り離し)を示唆している。食料国産率は、国内畜産業の生産基盤に着目しその強化を図っていくことを評価するため、飼料自給率の目標と合わせてその目標を設定するとされた。国内で生産された畜産物は、輸入飼料作物に依存しても国産品として評価しようとする考え方を示したものだ。こうした考え方の延長には、原料農産物を輸入して製造された食品を国産とする考え方につながる。

 「30年に5兆円」を掲げた輸出目標の実現も、国内農産物の輸出増というより国内農業と関係しない食品の輸出拡大につながるだろう。

 今求められるのは、国内農業を起点とし消費者のニーズにかなった農産物・食品の加工・流通システムを構築し、相互の公正な競争条件を確保しつつ、効率性を追求していく食料産業という概念であり、それを前提とした政策体系の再構築なのだ。

 たけもと・としひこ 1952年生まれ。東京大学法学部卒、76年に農水省入省。ウルグアイラウンド農業交渉やBSE問題などに関わった。農林水産政策研究所長などを歴任し、食と農の政策アナリストとして活動。2018年4月から現職。

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