「お前は何を持っている?」

 「お前は何を持っている?」。「金、銀、桂馬、歩が七つ、それに王様」▼落語の浮世床に、王まで持ち駒にするヘボ将棋が出てくる。めちゃくちゃでも、それが楽しい。庶民に人気のゲームは、チェスと同じ古代インドの盤上遊戯「チャトランガ」をルーツに持つ。長い歳月をかけ、日本の文化となった▼戦後、大きな試練があった。「取った駒を自軍の兵隊として使用する。これは捕虜の虐待で国際条約違反だ」。民主化政策を進めるGHQの難癖である。実力制第4代名人となる、升田幸三の度胸が窮地を救う。「チェスで取った駒を使わんのこそ捕虜の虐殺だろう。日本の将棋は敵の駒を殺さない。常に全部の駒が生きておる」。出任せをしゃべり続け、通訳まで煙に巻いた。東公平著『升田幸三物語』(日本将棋連盟)で知った▼難を逃れて70年余り。強敵は、度胸が通じない人工知能(AI)である。トップクラスのプロでも、かなわなくなった。史上最年少で八段になった天才棋士藤井聡太2冠に、打倒AIの期待が集まる。それはそれとして、ロボットとの知恵比べより、人間同士の対戦こそ面白い。しばしばミスを犯し、形勢が変わる。そのはらはらがたまらない▼きょうは「将棋の日」。ヘボでも文化のつなぎ手である。さあ、一局。

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