菅政権の視点 競争と支援の均衡を 一橋大学大学院教授 中北浩爾

中北浩爾氏

 菅義偉政権が成立してから2カ月余りが過ぎた。コロナ対策と経済対策のジレンマにもがきながらも、上々の滑り出しといえる。何よりも内閣支持率が好調だ。NHKの調査によると発足直後の62%が、いったん55%に下がったものの、11月には56%に戻している。
 

高支持率の理由


 菅内閣を支持する理由としては、「人柄が信頼できるから」という回答が多い。自民党では世襲の首相が続いていただけに、秋田の農家出身、横浜市議からのたたき上げというイメージが、プラスに働いている。

 また、「政策に期待が持てるから」という理由も少なくない。携帯電話料金の引き下げや、押印の廃止、デジタル庁の設置、不妊治療への保険適用、2050年のカーボンニュートラルなど次々と打ち出している。

 政策については、新自由主義という評価が散見される。竹中平蔵元経済財政相をブレーンとしていることが根拠のようだが、必ずしも当たっていない。携帯料金の引き下げを、競争の促進よりも国家の介入によって進めていることは、その証左である。

 主義というには一貫性を欠く菅首相の政策の基調の一つは、時流に逆らわない姿勢であろう。デジタル化や温室効果ガスの削減は、世界各国の状況を見る限り、いや応なく進めざるを得ない課題である。ならば、先手を打って推進しようという意図が見受けられる。

 もう一つは、庶民にとって分かりやすい政策である。携帯値下げや押印廃止は、その例である。来る総選挙に向けた世論対策という意味合いもあるはずだ。
 

安全網張れるか


 しかし、自助を前面に押し出していることから分かるように、菅首相にとっての庶民とは、頑張って競争する人々のことである。自分自身の経験に基づく人生哲学なのであろう。総務相時代に導入した「ふるさと納税」も、地方を一律に底上げするのではなく、各自治体に創意工夫を求めるものである。

 切り捨てられかねないのは、公的支援があって初めて頑張れる人々、さらにいえば、競争の舞台に立つことが難しい人々である。自助を強調する一方で、共助や公助というセーフティーネットをしっかり張れるかが問われている。例えば、中小企業政策である。最低賃金を引き上げることで、生産性が極端に低いゾンビ企業を淘汰(とうた)するのは、方向性としては間違っていない。だが、それを急激に進めれば、雇用不安などが起きかねない。

 農政についても同じだ。農産物の輸出拡大は、もちろん大切だ。しかし、それが可能な品目は限られるし、そもそも農業・農村には、食料の安定供給や自然環境の保全など多面的な機能が存在する。共助の組織である農協とも対話しつつ、目配りのよい政策を実施してもらいたい。

 なかきた・こうじ 1968年、三重県生まれ。東京大学法学部を卒業後、立教大学法学部教授などを経て、一橋大学大学院社会学研究科教授。政治学が専門。
 

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