「迫る牙 検証・熊被害」(上) 白昼、農作業中に襲撃 新潟県関川村

熊の被害を受けた佐藤さん。民家も近くにある水田を前に「この辺から走ってきた」と話す(新潟県関川村で)

 曇りがちの朝だった10月1日午前9時すぎ。新潟県関川村の稲作農家、佐藤敏和さん(63)は稲刈りを始めようと、普段通り農道でコンバインの手入れをしていた。ふと顔を上げた瞬間、すぐ手前に熊がいた。

 目が合うと、熊は白い牙をむき出しにして走り出し、かがんだ姿勢の佐藤さんに突進してきた。襲い掛かると、頭にかみついた。「うぅー」と佐藤さんが声を上げると、声の大きさに驚いたのか熊は逃げていった。

 頭から血が流れていた。急いで近くの民家に向かった。助けを求め、ドクターヘリで新潟市内の病院へ搬送された。頭部は20針以上縫い、鼻骨も折れた。「死んだと思った」と、佐藤さんはその時を振り返る。

 熊と遭遇した場所は、一面に水田が広がる平たん地。近くには鉄道の線路も走り、民家も立ち並ぶ。佐藤さんは「見晴らしが良い場所で、しかも明るい朝に熊に遭遇するとは思わなかった。こんなことが今後も起きるなら、農作業も安心してできない」と話す。

 関川村での熊の捕獲数は例年数頭ほどだが、今年は16頭と急増。これまで報告のなかった市街地周辺での目撃情報も増えている。村によると、今年は熊の餌となるドングリが凶作。餌を求めて民家周辺にも近づくようになったとみられる。

 村内では佐藤さんが被害を受けた日に、もう1人が被害を受け、亡くなった。立て続けに人身被害が発生し、村は目撃情報があれば職員を2人一組で現場に派遣。朝、夕にそれぞれ1時間ほど見回っている。

 村は「見回りと合わせて、一定の頭数管理が必要」(農林課)と考えている。現在、村内に箱わなを15台設置。一方、管理する猟友会では高齢化が進んでおり、箱わなを維持するには作業負担の軽減が欠かせない。

 省力化を狙い、情報通信技術(ICT)を使った箱わな4台の実証実験を始めた。熊がわなにかかった場合、猟友会メンバーが所有する端末に画像を送って知らせる。来年度からの本格導入を予定している。
 

人身被害151人 過去最多迫る

 

 環境省によると、熊による人身被害数は今年度11月末時点で151人。データがある08年度以降、過去最多だった19年度の157人に迫る。都道府県別に見ると、岩手の28人が最多だった。

 全国的なドングリの凶作に加えて、畑などに農作物を放置したり、生ごみを適切に処分しなかったりする地域に、熊が近づいている可能性がある。同省は「農作業中の被害も報告されている」(鳥獣保護管理室)と指摘。熊の冬眠が本格化するまでは常時警戒するよう呼び掛けている。

 今年は全国で熊の出没や人身被害が相次いだ。各地の被害状況を検証し地域の安全を守るには何が必要かを探る。(船津優也)

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