温暖化対策 農業技術革新の好機 農中総研客員研究員 田家康

田家康氏

 人為的な温室効果ガスの排出を国全体として実質ゼロとするカーボンニュートラルについて、日本政府も先月にようやく重い腰を上げた。革新的なイノベーションを実施することにより、2050年に脱炭素社会を目指すというものだ。

 温室効果ガスの排出を続けると、どのような弊害が起きるのだろうか。環境問題や災害発生への懸念だけでなく、農業分野でも影響度を見通した研究発表がなされている。一つ一つ集めてみると、どうも暗い将来像ばかりが目につく。
 

高まる食料需要


 国連食糧農業機関(FAO)のアウトルックから世界全体の穀物生産・消費および備蓄量を見ると、この10年間は生産量と消費量はほぼ見合っており、在庫率は毎年の生産量の3割程度で推移している。足元こそ安定している状況であるが、世界の総人口は2019年の77億人から50年には95億人に増加が見込まれている。さらに発展途上国でも肉食が増加し飼料用穀物への需要も高まることから、生産性を毎年2%程度上げていかないと供給が足りなくなる。ちなみに1998年から2008年の生産性の伸び率は平均で1%程度でしかない。

 安全性の議論はあるものの、遺伝子組み換え(GM)技術による収量増加を思い浮かべる向きもあるかもしれない。しかし、研究の最前線の見方では穀物での品種改良は大豆でこそ見込みがあるものの、トウモロコシ、米、小麦は既に限界に来ているようだ。

 一方、欧州では過去の気温変動の例から、温暖化の進行で小麦やトウモロコシでかび毒の混入リスクが飛躍的に高まると指摘されている。今世紀後半には、気候変動に伴って米国、豪州、ブラジルなど世界有数の食料生産地域で土壌水分量が激減するとの予想もある。
 

高軒高、精密…


 温暖化問題となるとお先真っ暗な未来ばかりが示されるが、技術革新が求められているのであり、それは農業分野でも言えることだ。注目したいのはオランダやイスラエルの動きだ。

 施設園芸においてオランダで開発された高軒高ハウスは、既に先進的な農家で導入されている。ハウス栽培というと地面に苗を植えたイチゴ狩りをイメージしがちだが、こちらは軒高を地面から1メートル以上上げ、生育環境の制御と施設の大規模化を実現した。

 イスラエルで開発されている精密農業にも目を向けたい。作物の根の周りを専用トレーで囲み、ここから水と肥料を根に直接送り込む技術だ。水と肥料の消費を半減できるだけでなく、再利用可能なトレーは除草剤の代替にもなるという。本格的に実現すれば、地球温暖化による水不足対策として期待できる。地球温暖化が人類にとって本当に危機であるならば、1万年に及ぶ農業の歴史の中で、かんがい設備や品種改良を実現してきたのと同等の革命が必要だろう。斬新な視点でビジネスチャンスを狙っていきたいものだ。

 たんげ・やすし 1959年生まれ。農林中央金庫森林担当部長などを経て、現職。2001年に気象予報士資格を取得し、日本気象予報士会東京支部長。著書は『気候文明史』『気候で読む日本史』など
 

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