生物多様性が危機 今後の国家戦略とは 実効性あるSDGSに WWFジャパン事務局長 東梅貞義氏に聞く

日本農業新聞のインタビューに応じる東梅氏(2020年12月、東京都港区で)

 世界の生物多様性の状況が、危機的な状況だ。対策として各国政府は新たな国家戦略を検討している。長年にわたり自然保護に取り組んできた世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)の東梅貞義事務局長に、生物多様性の現状や復元に必要な取り組みについて聞いた。(聞き手・金哲洙)
 

弾力的な社会 形成を


 ──生物多様性の現状をどうみますか。

 世界の生き物の豊かさは、50年前の3分の1になっている。WWFが4392種、2万811個体群の脊椎動物を対象に調査したところ、1970年の個体数を基準にすると、2016年は68%減った。生物多様性の減少度合いは深刻な状況を超え、既に危機的な状況に置かれている。

 日本も例外ではない。特に、淡水魚の多くは絶滅の可能性が高い。環境レッドリスト(2020)によると、評価した約400種のうち、約4割の173種が絶滅したか、あるいは絶滅の恐れがあるとされている。田んぼやため池などの淡水魚が他の生き物に比べ、絶滅危惧種の割合が多い。

 ──このまま進むとどうなりますか。

 国連の持続可能な開発目標(SDGs)の実現は、絵に描いた餅になりかねない。SDGsが掲げる貧困や飢餓、健康、水、都市、気候、海洋、陸地に関する目標の8割は生物多様性が減少すると達成できないからだ。

 SDGsを立体的に見ると、それぞれが孤立しているのではなく、何かの下支えがあって成り立っている。例えば飢餓の撲滅。それを下支えするのは汚染されていない河川、十分な田んぼの水が大前提だ。

 ──市民の生物多様性への理解が欠けていますね。

 生き物の問題を取り上げるときにパンダの保護について話すと、パンダが好きな人には良いかもしれない。しかしパンダは農業者には関係ないわけで、関心を持ってもらうのには限界がある。そのため、SDGsを達成するためには、どれか関心がある取り組みだけを選ぶのではなく「下支えとなっている生物の多様性も保全しないと、その上のものが達成できない」と考える必要がある。

 ──政府は新たな戦略を検討しています。

 WWFジャパンは昨年12月、環境相に「次期生物多様性国家戦略への提言書」を提出した。「自然との共生」を確実に実現してゆくための新たな考え方や施策を取り入れる必要性を強調した。農業に関わる提言では、国土の7割を占める中山間地域が担っている農業生産、防災・減災などの重要な役割を取り上げ、地域コミュニティーの要望に準じた順応的管理を求めた。

 自然災害や自然資源の減少といった課題でも、ランドスケープ(風景)の基本的な構造や機能、独自性を維持することで、自然災害に適応する弾力的な社会形成を呼び掛けた。
 

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