命守る経営 安全は全てに優先する
2021年02月20日
春の農作業安全運動が始まる。毎日平均1人が農作業で命を落とす状況が半世紀も続く。異常事態だ。農水省は、高齢者の農機事故に焦点を当て、業界ぐるみで事故撲滅を目指す。あなたと家族のために、命を守る経営を全てに優先しよう。
同省は3月からの農作業安全確認運動を前に、今年初めて「農林水産業・食品産業 作業安全推進Week」(16~26日)を開催。分野を横断し、作業安全の優良事例や新技術を業界ぐるみで発信する。背景には他業種に比べ安全対策が遅れている農業界の実態がある。
それを裏付けるように、農作業での犠牲者が後を絶たない。2019年の死者は281人で前年より7人増えた。65歳以上の高齢者が9割近くを占め、調査開始以来最大となった。乗用型トラクターの転落・転倒などの農機事故死が184人と最も多い。同省は、農機事故による死者を17年比で22年に半減させ105人とする目標を掲げているが、このままでは達成は厳しい状況だ。
深刻なのは、高齢化、人手不足など農業の構造問題も相まって、10万人当たりの死亡者が16・7人と調査開始以降最も高くなったことだ。建設業の実に3倍、全産業平均の1・3人と比べいかに異常かが分かる。
人為的なミスをゼロにすることはできない。事故を減らすには、事前に危険箇所や手順を洗い出し、原因を取り除くリスク管理の徹底しかない。事故情報の収集・一元化と現場へのフィードバックが基本となる。
同省の働き掛けもあり、都道府県や農機メーカーからの20年分の事故報告件数は326件と前年から倍増した。情報は農研機構革新工学センターで分析し、現場での注意喚起に役立てられる。また官民一体で普及啓発を進める農作業安全推進協議会の設置は9割の県に及ぶが、全県普及を急ぐべきだ。安全指導員の育成にも期待したい。
今年の運動方針の特徴は、交通事故分析などを基に、シートベルトやヘルメットの着用徹底、作業機を付け公道走行する際の灯火器設置を集中的に働き掛けることだ。安全フレームやシートベルトが装備されていないトラクターへの追加取り付けも引き続き強化する。農機メーカーも格安で安全フレームの後付けを行っており、所有者自身も身を守るために追加装備や買い替えを急いでほしい。労災保険特別加入も待ったなしだ。
安全管理は、農業者や経営者が「自分ごと」として取り組んでこそ意味がある。同省が農業者や農業団体などに向け策定した作業安全のための規範が役立つ。安全管理の基本原則を定めた共通規範、分野ごとの具体例を示した個別規範、生産現場で使うチェックシートなどが用意されるので、それぞれの経営や生産実態に合わせ活用してほしい。「いのちを守る作業安全は全てに優先する」。規範の大原則をいま一度肝に銘じたい。
同省は3月からの農作業安全確認運動を前に、今年初めて「農林水産業・食品産業 作業安全推進Week」(16~26日)を開催。分野を横断し、作業安全の優良事例や新技術を業界ぐるみで発信する。背景には他業種に比べ安全対策が遅れている農業界の実態がある。
それを裏付けるように、農作業での犠牲者が後を絶たない。2019年の死者は281人で前年より7人増えた。65歳以上の高齢者が9割近くを占め、調査開始以来最大となった。乗用型トラクターの転落・転倒などの農機事故死が184人と最も多い。同省は、農機事故による死者を17年比で22年に半減させ105人とする目標を掲げているが、このままでは達成は厳しい状況だ。
深刻なのは、高齢化、人手不足など農業の構造問題も相まって、10万人当たりの死亡者が16・7人と調査開始以降最も高くなったことだ。建設業の実に3倍、全産業平均の1・3人と比べいかに異常かが分かる。
人為的なミスをゼロにすることはできない。事故を減らすには、事前に危険箇所や手順を洗い出し、原因を取り除くリスク管理の徹底しかない。事故情報の収集・一元化と現場へのフィードバックが基本となる。
同省の働き掛けもあり、都道府県や農機メーカーからの20年分の事故報告件数は326件と前年から倍増した。情報は農研機構革新工学センターで分析し、現場での注意喚起に役立てられる。また官民一体で普及啓発を進める農作業安全推進協議会の設置は9割の県に及ぶが、全県普及を急ぐべきだ。安全指導員の育成にも期待したい。
今年の運動方針の特徴は、交通事故分析などを基に、シートベルトやヘルメットの着用徹底、作業機を付け公道走行する際の灯火器設置を集中的に働き掛けることだ。安全フレームやシートベルトが装備されていないトラクターへの追加取り付けも引き続き強化する。農機メーカーも格安で安全フレームの後付けを行っており、所有者自身も身を守るために追加装備や買い替えを急いでほしい。労災保険特別加入も待ったなしだ。
安全管理は、農業者や経営者が「自分ごと」として取り組んでこそ意味がある。同省が農業者や農業団体などに向け策定した作業安全のための規範が役立つ。安全管理の基本原則を定めた共通規範、分野ごとの具体例を示した個別規範、生産現場で使うチェックシートなどが用意されるので、それぞれの経営や生産実態に合わせ活用してほしい。「いのちを守る作業安全は全てに優先する」。規範の大原則をいま一度肝に銘じたい。
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特殊詐欺とJA 職員の見破る力 磨こう
「オレオレ詐欺」などの特殊詐欺の被害が後を絶たない。被害防止の一翼を担うのが金融機関だ。JAは組合員・利用者との関係の強さを生かし貢献している。しかし、金融窓口を通さないなど新しい手口が次々に現れ、より巧妙化している。JAには、詐欺を見破る職員の力を一層高めることが求められる。
警察庁のまとめでは、2020年の特殊詐欺の全国の認知件数は1万3526件で前年より20%減、被害額は277・8億円で同12%減だった。ただし同庁によると、高齢者を中心に被害が高い水準で発生。また、1件当たりの被害額は214・8万円で同9%増と高額になっており、依然深刻な状況だ。
金融機関ではさまざまな対策を取っており、JAも同様だ。地元警察と連携した注意の呼び掛けでは、地域住民らの関心を高めるために、ちらしなどと一緒に特産品を渡したり、青年組織や女性組織と協力してマスクなどの小物を配ったりするなど工夫を凝らした取り組みも盛んだ。また金融担当職員の研修を行い、それを生かして実際に被害を防ぎ、警察から感謝状を贈られた職員も多い。
しかし詐欺の手口はその時の社会情勢などを反映して、変化している。同庁によると、昨年は「新型コロナウイルス感染症関連の給付金がある」と偽り、通帳などを受け取るなどコロナ関連の特殊詐欺が55件発生。うち2件は未遂に終わったが、53件で約1億円の被害が出た。
金融窓口を通さない手法や、職員が気付きにくい金額をだまし取ろうとする事例もあった。
島根県のJAしまねでは、子会社が運営するコンビニの店長が架空請求詐欺を防いだ。来店した高齢者が、身に覚えのない請求があり20万円分のプリペイドカードを買って支払うよう言われたと話したことで詐欺の疑いが浮上。警察に通報した。機器の操作に戸惑っていたため声を掛けたことがきっかけだった。
三重県のJAみえきたでは、12万円を出金しようした高齢者が窓口での雑談中に支払い請求のはがきが届いたことを話題にしたことから、職員が詐欺を疑い被害を防いだ。本人確認が必要な金額ではなく、別の通信販売の支払いを抱えていたため、本人は詐欺と気付かなかった。
いずれも、JAが職員らに研修を受けさせるなどして、日頃から対策を取っていたことが奏功した。JAでは、詐欺防止の研修は日常的になっている。しかし金融窓口以外を利用したり、支払わせる金額を少なくしたりするなど、詐欺グループは新たな手口を使ってくる。詐欺を防いだ事例では、来店者の困った様子や普段と違った行動、ちょっとした会話などから詐欺を疑っており、組合員・利用者と職員の日頃からの関係や、研修を基にした気付きが大きい。
JAの職員らは、特殊詐欺を防ぐ「最後のとりで」である。技能を磨き、地域の安全・安心に一層貢献してほしい。
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2021年02月27日

東海桜 挿し木で生産期間短縮 岐阜県立国際園芸アカデミー2年 西村さん
岐阜県可児市の県立国際園芸アカデミー花き生産コース2年生、西村莉穂さんが、鉢植えで開花期が早い東海桜を挿し木し、生産期間を大幅に短縮させることに成功した。桜は実生苗や接ぎ木苗が使われることが多く、商品化までに数年かかる。ソメイヨシノより……
2021年02月26日
米需要喚起最優先に 転作財源確保も要望 自民水田議連
自民党の水田農業振興議員連盟(小野寺五典会長)は25日、2021年産米の需給緩和の懸念を受け、今後の対応方向について議論した。出席議員からは米の需要拡大に向け、輸出だけでなく、国内需要の喚起にも本腰を入れる必要があるとの声が改めて上がった。転作支援の財源確保が引き続き重要になるとの意見も相次いだ。
農水省によると、21年産米の需給均衡には、作況指数が100だった場合の20年産の生産量と比べ36万トン、面積換算で6万7000ヘクタール(5%)の減産が必要。需給と米価の安定に向け、作付面積を抑えられるか、「正念場」(野上浩太郎農相)を迎えている。
上月良祐氏は議連で、米の輸出拡大だけでは年間10万トンとされる主食用米の需要減少ペースに追い付かないとし、国内需要喚起の必要性を改めて提起した。「需要の落ちを抑えない限り、(水田農業には)未来がない」との危機感も示した。
進藤金日子氏は「安心感を与えないと、(生産者が)経営安定を図れない」と強調。今後も水田活用の直接支払交付金などの財源を確保することが重要だとし、財務省も含め「共通認識」にするべきとの考えを示した。
宮崎雅夫氏も、予算維持には国民理解が欠かせないとし、国土保全や食料安全保障への貢献といった農業の意義を説明する必要があると訴えた。
同日は、東京大学大学院の安藤光義教授が水田農業政策について講演した。転作助成金が水田の維持や規模拡大などを支えているとし、助成金の削減は「構造改革のはしごを外すことになりかねない」とした。
今後の水田農業について安藤教授は、コスト削減を基本に、輸出だけでなく国内需要拡大を進めるべきだと指摘した。低所得者への提供など、政府備蓄米の活用方法の拡大も検討課題に挙げた。
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2021年02月26日

古里の食知って 6校に広島菜漬 JA広島市
JA広島市は、広島菜の主要産地である安佐南区川内地区近郊の6小・中学校に広島菜漬約1・5トンの提供を始めた。初日は職員や生産者を代表してJA YOUTH広島市佐東支部の倉本守支部長、広島菜委員会の溝口憲幸会長らが市立川内小学校を訪問。広島菜本漬2500袋(1袋180グラム入り)を贈った。
JAは例年、食農教育の一環として近隣の学校に、広島菜漬センターで工場見学や住民を中心に収穫を祝う広島菜まつりを開く。だが、新型コロナウイルス感染拡大防止のため中止となった。
小・中学校への提供は、郷土愛を育んでもらおうとJA共済連広島と初めて企画した。本漬とは一般的な浅漬けと異なり、半年以上漬け込んだ独自の製法で調味した広島菜漬で常温保存が可能だ。JAは、2月末までに6校へ8520袋を届ける予定だ。
営農経済部の橋岡由夫副部長は「家庭で広島菜漬のおいしさを知り、広島菜を後世につなげてほしい」と話す。
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2021年02月27日
米作付け意向 28都道府県 前年並み 農相「一層の転換必要」
農水省は26日、2021年産主食用米の作付け意向の第1回調査結果を発表した。1月末現在で28都道府県が前年並み傾向、19府県が減少傾向を見込み、増加傾向の県はなかった。21年産米の需給均衡には過去最大規模の転作拡大が必要だが、一部の米主産地は前年並み傾向。野上浩太郎農相は同日の閣議後記者会見で「需要に応じた生産の実現には、より一層の作付け転換の推進が必要な状況だ」と訴えた。
20年の作付面積との比較で、同省が都道府県や地域の農業再生協議会に聞き取ってまとめた。……
2021年02月27日
論説の新着記事
臨時の主治医 保健所支援策の参考に
新型コロナウイルスの流行が続く中、JA静岡厚生連静岡厚生病院(静岡市)の医師が全国唯一の取り組みで奮闘している。感染して自宅などで療養している子どもを保健所に代わって電話で診察。患者の不安を取り除くとともに多忙な保健所職員を支えるのが狙いだ。全国の医療関係者も参考にしてほしい。
全国の保健所の業務に詳しい浜松医科大学(静岡県浜松市)の尾島俊之教授によると、新型コロナの患者が多い地域では業務が逼迫(ひっぱく)し、労働時間が過労死ラインを超える保健所職員が目立つ。
こうした中、電話診察に当たっているのは小児科診療部長の田中敏博医師(53)。同病院が協力する静岡市保健所は、コロナ関連(患者、濃厚接触者)で1日最大約600人の健康を観察。1人につき確認事項が10項目以上ある。対応している保健師は数人で、一人一人に丁寧に向き合うのは難しいという。
きっかけは昨年8月、市が地元の医療関係者らと、新型コロナに感染した子どもは比較的軽症で、原則「自宅などで療養する」と申し合わせたことだ。日本小児科学会の考えに準じた。自宅療養だと主治医と相談しにくくなる。子どもの不安を払拭(ふっしょく)するために田中医師は「電話などで対応できる臨時の主治医が必要だ」と提案し、自ら診察を買って出た。
昨年10月、診察を本格的に開始。2月17日までに、濃厚接触者を含む15歳以下の55人と、保護者ら52人を診察した。診察時間は朝夕の1日2回。直接対面で初診した後、療養する自宅などに連絡し、体温、心拍数、病状などを確認し、悩みなども聞く。田中医師は「全国に広まればうれしい」と話す。
同病院は「病院としてこの動きを応援したい」(桑原吉英事務長)考え。JA全厚連も「田中医師の取り組みは保健所を支援するとともに、地域と厚生連病院の関係を深めることにつながっている」とし、注目する。
同保健所や田中医師には、県外の自治体などから問い合わせがある。また同市の開業医らでつくる静岡市静岡医師会がこの取り組みに賛同。臨時で主治医を引き受ける方向で市と協議している。小児科に限らず、高齢者にも対応できる医師が協力すれば保健所の全国的な業務軽減につながるとの指摘もある。
ただ、この取り組みは、院内の医療スタッフや事務職員の協力が前提だ。新型コロナの流行で医療現場も逼迫している。自宅などで療養する患者に安心感を与えながら、保健所の業務をどう軽減するか。地域の実情にあった対応が求められよう。
保健所の業務の逼迫は、行財政改革などで保健所の数を減らし、職員数も減ったことが一因。保健所数は現在469カ所で、ピーク時の約半分に減った。「減らし過ぎた人員を増やすなどして、保健所の感染症への対応力を高めなければならない」(尾島教授)と言える。
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2021年02月28日
特殊詐欺とJA 職員の見破る力 磨こう
「オレオレ詐欺」などの特殊詐欺の被害が後を絶たない。被害防止の一翼を担うのが金融機関だ。JAは組合員・利用者との関係の強さを生かし貢献している。しかし、金融窓口を通さないなど新しい手口が次々に現れ、より巧妙化している。JAには、詐欺を見破る職員の力を一層高めることが求められる。
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2021年02月27日
営農指導全国大会 伝える技能を高めよう
JA全中主催の営農指導実践全国大会が、オンラインで初めて開かれた。活動と成果の発表は事前収録の動画を配信。発表内容だけではなく、動画の出来具合が視聴者の理解に影響することが改めて確認された。営農指導でオンラインや動画の活用が広がることも想定され、伝える技能の向上が求められる。
5回目の今回、最優秀賞に輝いた山形県JAおきたま営農経済部、柴田啓人士さんの発表は特に素晴らしかった。活動と成果、構成が優れていたことに加え、カメラを前にした話しぶりや目線、スライドの内容、映像の明るさなど細部にまで心配りされていた。「地域のために」は全ての発表に共通する目的だ。加えて柴田さんの発表動画は「どうしたらよく伝わるか」をより意識したように感じた。
洗練された動画はなぜできたのか、発表内容から垣間見える。日本一のブドウ「デラウェア」産地として統一規格の作成や集出荷の効率化、オリジナル商品の開発を展開。西洋梨やリンゴ、桃を合わせた4品目で販売価格を6~26%高めた。こうした成果を上げ、自信を持って収録に臨んだこともあろう。
そのための苦労も多かった。集出荷施設の再編を巡って、2年間に100回行ったという説明会。地域のシンボルでもある選果場がなくなることに組合員から「クビをかけられるのか」と詰め寄られるなど、難しい合意形成を求められた。しかし丁寧な説明を続けたことで「産地を維持するための選択」との理解が広がり、成果につながった。
審査講評ではいくつかの発表について音声の乱れが指摘された。大きなホールでの発表に適した腹から出す声も、狭い部屋での収録では聞き取りにくい場合がある。発表者が体を動かしてマイクとの距離が少し変わるだけでも同様で、発表内容が視聴者の頭に入りにくくなる。
新型コロナウイルス下では、視察も含めて研修会や会議のオンライン開催、動画の利用などが進むだろう。コロナが収束しても、離れたところからも参加できることや、動画での情報提供の分かりやすさ、利便性などから継続すると考えられる。
対面でもオンラインでも重要なのは情報の内容と理解を得ることへの熱意だ。その上で受け取る側が分かるように心を配ることが大切で、オンラインや動画では機器の使い方や撮影の仕方、話し方など新たな技能が必要になる。技術革新で映像や音声など情報量が増えるに従い、より高い技能も求められよう。
全国大会で発表した8人には、副賞として金の営農指導員バッジが贈られた。通常は白、上位資格として導入された地域営農マネージャーは銀。各地の予選を勝ち抜いたこの8人は、それほど優れた活動で高い成果を上げたということである。発表動画はJAグループ公式ホームページで公開する予定だ。発表内容と動画の質の両方から経験を学びたい。
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2021年02月26日
米検査見通し 生消・流通の理解不可欠
政府は米の農産物検査規格の見直しを進めている。年間の検査数量は500万トンで、生産量の7割に上る。生産・流通の重要なインフラで、ルール変更の影響は大きい。農家の所得向上と需要拡大に役立つよう、生産者や流通業者、消費者らの十分な理解を得ることが不可欠だ。そのために、検討や周知に必要な時間を確保すべきである。
米は外観での品質評価が難しい上、広域流通するため検査制度がある。全国統一の規格で専門の検査員が「産地・品種・産年」を確認、精米時の歩留まりを判断し1等、2等などと格付けする。農業者は品質改善の目標にし、卸など買い手は購入の判断材料として活用する。
見直しは政府の規制改革推進会議が提起したのが発端で、昨年1月に着手。政府は7月に閣議決定した規制改革実施計画に重点事項の一つとして盛り込んだ。具体的には、農業者の所得向上を目的に、検査等級区分と名称の見直しや、検査コストの低減、機械的計測への早期変更を打ち出した。また、検査米で認めている小売りでの「産地・品種・産年」の3点表示や一部補助金の交付を未検査米にも認める方向を示した。
見直しの具体案を巡っては農水省の検討会が昨秋、論議を始めた。検査等級区分などの見直しでは、従来の目視検査とは別に機械鑑定を導入する方向だ。
検討会では、食味に関するデータなど品質の機械計測には利点があるとする一方、機械の導入費が発生、生産者負担の増加や小売価格への転嫁などを懸念する声も上がる。機械に習熟した人材の確保や、機械と目視の検査が併存し生産・流通に混乱が生じないかといったことを不安視する意見もある。
海外市場の開拓や高付加価値化を目的に新たな日本農林規格(JAS)も検討。需要拡大への期待とともに生産コストが増えないよう求める意見が強い。
全体的に急いでいるように見える。同実施計画で示した、2021年度上期に結論を出し速やかに措置するとの期限が重しになっているのではないか。
先行した米の3点表示の規制緩和は、7月の同実施計画を受けて1月には内閣府の消費者委員会食品表示部会が未検査米でも可能とする食品表示基準の改正案を了承し、7月には施行する速さだ。同部会やパブリックコメントでは、準備・周知のために移行期間の設定を求める意見があったが、見送られた。懸念が残ることから同委員会は菅義偉首相に対する改正案答申の付帯意見で、表示監視の強化と農産物検査と改正内容の普及・啓発、周知を念押しした。
「改革」の名の下に性急かつ安易な見直しを行えば、1700の検査機関、1万9000人の検査員、80万戸の米販売農家、1億人を超す消費者に大きな影響を与える。拙速は避けるべきだ。目的に照らし最善策を慎重に検討し、見直す場合は十分な説明と周知期間が必要だ。
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2021年02月25日
農地所有法人要件 無理筋の緩和を許すな
農地所有適格法人の議決権要件緩和の是非を巡る規制改革推進会議での検討は、期限まで1カ月余りとなった。同会議が意見を聞いた農業関連法人からは、法人買収や農地転用へ懸念が指摘された。同会議には、株式上場の解禁を視野に要件緩和に誘導しようとの思惑が透けて見えるが、無理筋である。
推進会議の検討課題は、農業法人が円滑に資金を調達する方策である。政府が規制改革実施計画に盛り込み、今年度中に検討し結論を出すとした。
同適格法人の要件について推進会議では①2分の1未満としている農業関係者以外の議決権制限の緩和②株式上場の解禁──の是非が焦点化。農外出資を拡大しやすくするのが狙いだ。これらを認めれば一般企業が経営を支配し、農地を事実上取得できるのと同じになる。
農水省の調査では、農業法人の資金調達の主体は融資だった。同省は、出資による資金調達の課題として、農外議決権を2分の1未満まで認めていることと議決権のない株式の活用が知られていないことを挙げる。これは、現行制度の下でも出資を増やせることを示している。
推進会議の農林水産ワーキンググループ(WG)が昨年12月に行った農業関連法人3社からの意見聴取でも、農業は制度資金が充実し、融資で資金を調達しやすいとの見方が強かった。一方、議決権要件などを緩和すると同適格法人が買収され農地が不正転用されるケースが出てくる可能性とその対策の必要性や、外国資本に支配されれば食料安全保障上問題になることなどについて指摘があった。
WGの委員からも質問の形で、敵対的買収で外国企業に買われることや、企業撤退後の農地荒廃への懸念が示された。
しかしWG座長の佐久間総一郎日本製鉄顧問は、意見聴取後に「選択肢として、上場していく道をもう少し整備することが重要」とまとめた。親会議の推進会議でも「(制度資金は)補助金。これは長続きしない、競争力がつかない」と、出資拡大方策へのこだわりを見せた。
国家戦略特区の兵庫県養父市で認めている企業の農地取得特例の全国展開を関係閣僚の慎重論や与党の反対論を無視し、特区諮問会議の民間議員がごり押ししようとしたことと重なる。
われわれは、農家や、農業者主導の同適格法人といった地域に根差した農業経営に農地所有は限るべきだと主張してきた。農地は地域の貴重な資源であり、農地や水の利用調整をはじめ地域と調和し、農業振興や、自らの暮らしの場である農村の維持・活性化への役割発揮が所有者には求められるからだ。
同適格法人の議決権要件などの緩和は、一般企業による経営支配に加え、農地の資産価値に基づく投機の対象化や、実質的経営者が分からなくなることなどにつながる恐れがある。資金調達の方策は、法人の要件とは分けて論議すべきである。
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2021年02月24日
国連食料サミット 国民合意の日本提案に
国連食料システムサミットが9月、米国ニューヨークで開かれる。新型コロナウイルス禍で脆弱(ぜいじゃく)性を露呈した食料の生産供給網の再構築や、気候変動対応などがメインテーマになる。今後の貿易ルールに影響を及ぼすことが考えられる。日本は国民合意の提案を策定し、積極的に関与すべきだ。
同サミットは持続可能な開発目標(SDGs)を2030年までに達成するための「行動の10年」の一環。グテレス国連事務総長が主催する。各国の首脳や閣僚、有識者、科学者、市民代表らが参加する。
SDGsには17の目標があるが、「貧国をなくす」と「飢餓の撲滅」はコロナ禍で達成が危ぶまれる状況だ。飢餓人口は増加に転じた。国連は同サミットを「全てのSDGsを達成するための世界の旅の分岐点になる」と協力を呼び掛ける。
主な課題は①量・質両面からの食料安全保障②食品ロスの削減など食料消費の持続可能性③環境に調和した農業生産の推進④農村地域の収入確保⑤食料供給システムの強靭(きょうじん)化──だ。それぞれでゲームチェンジャー(状況を変える突破口)となる提案を各国に求めている。日本は現在、農水省が「みどりの食料システム戦略」の取りまとめ作業を進める。夏にローマで開かれる準備会合に向け、5月の策定を目指す。
多岐にわたる課題の中で、特に注視すべきなのは環境対応だ。地球温暖化の国際ルール「パリ協定」と連動する形で、農業・食料分野での積極的な貢献を意識した議論になりそうだ。米国の同協定復帰や日米の温室効果ガス「2050年実質ゼロ」表明により弾みがつき、その波は農業にも及ぶとみるべきだ。世界の同ガス排出量の4分の1を農林業関連が占めている。
気候変動対応で世界をリードする欧州連合(EU)の動きが出色だ。昨年5月、「農場から食卓へ(Farm to Fork)」と題した新戦略を打ち出した。肥料農薬の使用抑制や畜産飼料の脱輸入依存、有機農業の拡大などで数値目標を設定、一段と環境重視型農政にかじを切った。「地球の健康を守りながら食の安全を保障する新しいシステム」(欧州保健衛生・食の安全総局)とし、市民の支持を得られると自信を見せる。
EUはこうした規律を2国間貿易協定などに適用する姿勢だ。これに対し米国は「農業生産を低下させ小売価格の上昇をもたらす」(農務省)と批判、さや当てが始まっている。日本も「諸外国が環境や健康に関する戦略を策定し、国際ルールに反映させる動きが見られる」(農水省)と注視。みどりの食料システム戦略づくりを急ぐ。
その際重要なのは、国民の関心の高まりだ。政府は農業者、消費者、企業、市民社会を巻き込んで、望ましい食料生産流通の将来像について合意形成に尽くすべきだ。それでこそ日本の提案に「魂」が入るだろう。
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2021年02月23日
国産麦に過剰感 増産に出口戦略不可欠
食料自給率の向上を目指して政府は、小麦など国産麦類の増産の旗を振る。しかし2年連続の豊作で過剰感があり、価格にも影響が出ている。麦作の安定には、新たな需要を開拓する出口対策が急がれる。
農水省によると4麦(小麦、二条大麦、六条大麦、裸麦)の作付面積はこの数年微減または横ばいだが、2019年産は豊作で、収穫量は小麦が前年産比36%増の103万7000トン、大麦・裸麦が同27%増の22万3000トンだった。20年産も豊作で、例年より国産在庫が多い。
過剰感は価格にも影響。全国米麦改良協会のまとめによると昨年9月の21年産国産小麦の播種(はしゅ)前入札では、平均落札価格が前年産比12・8%安と、上げ基調から一転した。輸入麦の価格低下にも引っ張られた。大麦・裸麦も販売で苦戦。二条大麦も、1月時点で「精麦業者などが19年産の在庫を抱え、20年産の荷がまだ動いていない」(JA関係者)という。
一方、食用麦は小麦で約9割、大麦・裸麦で約8割を輸入している。食料・農業・農村基本計画で政府は、30年度までに小麦を108万トン(18年度76万トン)に、大麦・裸麦を23万トン(同17万トン)に増やすとの生産目標を定めている。しかし、21年産でも過剰感が解消されなければ、今秋播種する22年産の作付けに影響しかねない。官民挙げて、輸入麦から国産への切り替えを強力に進めるべきだ。それには需要と供給のミスマッチの解消が求められる。
例えば小麦。タンパク質含有量の高い順にパン用(強力粉)、中華麺用(準強力粉)、うどんなど日本麺用(中力粉)、菓子用(薄力粉)に分かれる。国産は8割強で中力粉、薄力粉向け品種が栽培され、消費量の多い強力粉、準強力粉向けは少ない。輸入麦との価格勝負は難しく、需要に応えられる生産・供給体制の構築が必要だ。
中華麺用の福岡県の硬質小麦「ラー麦」(品種名=「ちくしW2号」)は、実需と一体で県や産地が栽培技術を確立したことで新たな需要を開拓した。生産が拡大するパン用小麦も同様だ。健康志向の高まりで裸麦やもち性大麦(もち麦)の需要も伸びている。需要を見極めた品種・品目の選定と、それに応じた栽培技術の導入が麦作経営を安定させる常道である。
西日本では、米麦・大豆を柱とする土地利用型農業を集落営農組織が担う地域が多い。21年産米では主食用米からの品目転換に加え、酒造好適米の減産も重くのしかかる。過剰感から麦類の生産意欲も低下することになれば、大規模な不作付けが起こりかねない。
政府は、需要を捉えた生産拡大と安定供給の実現に向けて「麦・大豆増産プロジェクト」を推進。団地化と営農技術の新規導入、備蓄倉庫の整備、産地と実需とのマッチングや新商品開発などを支援する。成果を早期に上げることが重要だ。
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2021年02月22日
地域包括ケア “JA版”の構築急ごう
介護保険制度の2021年度介護報酬改定では、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けられるように支援する地域包括ケアシステムを推進する。JAには、総合力を生かしてシステムの構築をけん引し、地域の安全と安心を守る役割を果たすことを期待したい。
20年の要介護(要支援を含む)認定者は669万人で、00年の介護保険制度創設時と比べて3倍に増加した。団塊の世代の全てが75歳以上となる“2025年問題”に向けて、制度の強化・充実は待ったなしである。しかし、社会保障財政の逼迫(ひっぱく)や、介護業界の慢性的な人手不足など課題は山積している。
20年は、新型コロナウイルスの流行による利用控えの影響から、介護サービス事業者の倒産件数が118件と過去最多となった。こうした状況を踏まえ、21年度の介護報酬は0・7%引き上げるプラス改定とし、事業者を支援する。
今回の介護報酬改定で力を入れるのが、地域包括ケアシステムの構築である。地域の中、いわゆる日常生活圏域内で、住まい、医療、介護、予防、生活支援を総合的に提供する体制をつくる。
健康なときは体操教室や老人クラブなどに参加して介護予防をし、介護が必要になったらデイサービスなど介護保険事業を利用、病気になったらかかりつけ医へ、そして退院後は訪問診療・看護を自宅で受けられるようにする。高齢者の心身の調子は変化しやすい。いつ、どんな状況になっても、住み慣れた場所で暮らせる仕組みで、安全と安心を守る。
この仕組みづくりではJAが核となり、“JA版地域包括ケアシステム”の実現を急いでほしい。厚生連から、女性部や助け合い組織を中心としたボランティア活動まで、JAはシステムを構築できる体制と人材を持っているからだ。
同システムを既に実践しているJAもある。JA山口県グループ会社のJA協同サポート山口は、訪問介護やデイサービスなどの介護保険サービスを提供するのと併せて、JAの支所を拠点とした体操教室などで地域住民の交流の場をつくる。各施設の整備には、統合で廃止となった支店を活用することでコストを抑える。また、介護保険事業で少しでも収益を出し、収益の出ない活動を支えている。JAならではの総合力を柔軟に発揮することで、運営を維持する好例といえる。
介護保険事業だけを受け皿にするのではなく、地域を挙げて包括的なケアシステムをつくるには、組合員や地域住民とつながりが深いJAが先頭に立つことが求められよう。地元の高齢者を守るJAは、その家族である次世代にとっても魅力的に受け止められるだろう。超高齢化が進む農村にとってなくてはならない存在になるには、介護分野の強化が鍵を握る。
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2021年02月21日
命守る経営 安全は全てに優先する
春の農作業安全運動が始まる。毎日平均1人が農作業で命を落とす状況が半世紀も続く。異常事態だ。農水省は、高齢者の農機事故に焦点を当て、業界ぐるみで事故撲滅を目指す。あなたと家族のために、命を守る経営を全てに優先しよう。
同省は3月からの農作業安全確認運動を前に、今年初めて「農林水産業・食品産業 作業安全推進Week」(16~26日)を開催。分野を横断し、作業安全の優良事例や新技術を業界ぐるみで発信する。背景には他業種に比べ安全対策が遅れている農業界の実態がある。
それを裏付けるように、農作業での犠牲者が後を絶たない。2019年の死者は281人で前年より7人増えた。65歳以上の高齢者が9割近くを占め、調査開始以来最大となった。乗用型トラクターの転落・転倒などの農機事故死が184人と最も多い。同省は、農機事故による死者を17年比で22年に半減させ105人とする目標を掲げているが、このままでは達成は厳しい状況だ。
深刻なのは、高齢化、人手不足など農業の構造問題も相まって、10万人当たりの死亡者が16・7人と調査開始以降最も高くなったことだ。建設業の実に3倍、全産業平均の1・3人と比べいかに異常かが分かる。
人為的なミスをゼロにすることはできない。事故を減らすには、事前に危険箇所や手順を洗い出し、原因を取り除くリスク管理の徹底しかない。事故情報の収集・一元化と現場へのフィードバックが基本となる。
同省の働き掛けもあり、都道府県や農機メーカーからの20年分の事故報告件数は326件と前年から倍増した。情報は農研機構革新工学センターで分析し、現場での注意喚起に役立てられる。また官民一体で普及啓発を進める農作業安全推進協議会の設置は9割の県に及ぶが、全県普及を急ぐべきだ。安全指導員の育成にも期待したい。
今年の運動方針の特徴は、交通事故分析などを基に、シートベルトやヘルメットの着用徹底、作業機を付け公道走行する際の灯火器設置を集中的に働き掛けることだ。安全フレームやシートベルトが装備されていないトラクターへの追加取り付けも引き続き強化する。農機メーカーも格安で安全フレームの後付けを行っており、所有者自身も身を守るために追加装備や買い替えを急いでほしい。労災保険特別加入も待ったなしだ。
安全管理は、農業者や経営者が「自分ごと」として取り組んでこそ意味がある。同省が農業者や農業団体などに向け策定した作業安全のための規範が役立つ。安全管理の基本原則を定めた共通規範、分野ごとの具体例を示した個別規範、生産現場で使うチェックシートなどが用意されるので、それぞれの経営や生産実態に合わせ活用してほしい。「いのちを守る作業安全は全てに優先する」。規範の大原則をいま一度肝に銘じたい。
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2021年02月20日
ジャンボタニシ 被害削減へ対策徹底を
2021年産の米作りに向けて、スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)対策が大きな課題となっている。地球温暖化が進む中で近年被害が拡大、20年産米では30を超える府県で確認された。寒い時期に水田を耕うんするなど今から対策を徹底し、被害を抑え込みたい。
ジャンボタニシは長い触覚とピンクの卵塊が特徴の巻き貝。田植え後3週間までの軟らかい稲を食害する。寿命は2、3年。南米原産で、食用として日本に持ち込まれ、野生化した。
被害は近年、深刻の度を増している。農水省によると、面積は分かっていないが、20年産では31府県で被害を確認した。温暖化で越冬しやすくなったことが影響しているとみている。
以前から被害があった九州や四国では対策を講じている産地も少なくない。だが、被害が少なかった地域では、まだ対策を取っていない産地もあり、被害が広がったという。
被害を減らすには何をすべきか。やはり基本的な対策の徹底が一番である。
同省が昨年10月に発表した防除対策マニュアルによると、特に重要なのが1、2月の水田の耕うんだ。ジャンボタニシは寒さに弱く、土に潜って越冬する。耕うんすることで貝を壊したり、寒風にさらして殺したりすることが有効だ。また、田植え前には貝の水田への侵入を防ぐために取水口・排水溝に網を設置し、田植え後には貝の動きを鈍くするために浅水管理(水深4センチ以下)をすることなども重要である。被害を抑え込むためにしっかり取り組みたい。
ただこうした対策には一定の手間やコストがかかる。そもそも基本的な対策に必ずしも取り組めない産地もある。例えば、滋賀県認証ブランド米「魚のゆりかご水田米」を生産する野洲市などだ。生態系との共生を目指し、琵琶湖の魚が遡上(そじょう)して水田で産卵できるようにするのが特徴で、浅水管理は難しい。取水口・排水溝への網設置も、魚が入って来られなくなるため使えない。
自分たちができる対策を組み合わせ、いかに効果の高い防除体系を構築するか。被害に悩む近畿地方の各産地は相次いで試験に乗り出している。前述の野洲市では23の実証圃(ほ)を設け、冬の低速耕うんと田植え期の農薬散布を組み合わせた防除の試験を進めている。こうした産地の取り組みを政府は、被害削減の成果が上がるまで息長く支援すべきだ。
政府は20年度第3次補正予算と21年度当初予算案に、ジャンボタニシなどの病害虫対策費を計上。各地域に適した防除体系の実証に取り組む自治体やJA、農家グループなどに対し、農薬代や作業員の人件費などを半額補助する。積極的に産地に周知し、活用を促してほしい。
防除の機運を高めるには、面積をはじめ詳しい被害状況の把握が必要だ。政府には本腰を入れて調べてもらいたい。
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2021年02月19日