西太平洋マーシャル諸島のビキニ環礁から東へ160キロ
2021年03月01日
西太平洋マーシャル諸島のビキニ環礁から東へ160キロ、1954年3月1日午前9時ごろから漁船、第五福竜丸に白い粉が降り注いだ▼乗組員23人はその晩から目まいや吐き気などに襲われ、数日後にはやけどのような症状が。そして1週間後ぐらいから髪の毛が抜けるようになった。白い粉の正体は、同環礁での米国の水爆実験で粉々になったサンゴ。きのこ雲に吸い上げられ強い放射能を帯びた「死の灰」である。他にも多くの船が被ばくしたが、全容は分かっていない。死の灰は東京・夢の島公園の第五福竜丸展示館で見ることができる▼そこでは今、最初に亡くなった久保山愛吉さん(享年40)とその家族に宛てた子どもらの手紙を公開中だ。「ほんとうにおそろしいそしてにくいすいばくです」「せんそうも、しない すいそばくだんもいらない」。核兵器廃絶への願いをつづる▼それはいまだに実現していない。そればかりか核兵器禁止条約が発効しても、被爆国の日本は背を向けたままだ。当時小3だった久保山さんの長女の作文から。「あのじっけんさえなかったらこんなことにはならなかったのに。こんなおそろしいすいばくはもうつかわないことにきめてください」▼広島・長崎から76年、ビキニ事件から67年。核の悲劇を改めて心に刻みたい。
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原発処理水 海洋放出を決定 風評被害を懸念 農業関係者落胆「極めて遺憾」
政府が13日、東京電力福島第1原子力発電所から出る放射性物質トリチウムを含む処理水を海洋放出する方針を決めたことを受け、福島県の農業関係者からは、落胆と同時に風評被害を懸念する声が上がった。JA福島五連の菅野孝志会長は「福島県の第1次産業に携わる立場として極めて遺憾である」とコメントを発表した。
JA福島県青年連盟の手代木秀一前委員長は、「われわれの思いが反映されなくて残念」と無念さをにじませる。県青年連盟は、国が処理水の処分方法に関するパブリックコメントを募集していた際に、海洋放出などには反対し、トリチウム分離のための技術開発への支援を要望していた。
県内の農家が懸念しているのが農畜産物への風評被害だ。手代木前委員長は「これ以上の風評被害が起きないことを祈るが、いろいろな対策をしても風評被害は起こるのではないだろうか。県産農産物の競争力が落ちないか心配だ」と今後を懸念する。
菅野会長は「政府が説明する風評被害の発生抑止対策には具体性がない」と指摘した。
事故後10年経過した現在も農林水産物の風評被害が継続している実態から、「処理水の海洋放出は海産物ばかりでなく、県農林水産業の衰退が加速するとともに、風評被害が拡大することは確実」とした。
これに加えて「一層の研究開発により、放射能物質の完全除去ができる技術開発を進めるとともに、その間は貯蔵タンクの増設などにより本県農林水産物の安全・安心情報を守るよう切望する」と表明した。
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2021年04月14日
農業遺産と里山システム 農村は可能性の宝箱 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏
地域伝統の持続可能な農業システムを評価する「日本農業遺産」に、今年新しく7地域が加わりました。これは国連食糧農業機関(FAO)による「世界農業遺産」の基準にのっとって国が定めているもので、世界および日本の「農業遺産」は、30地域に上ります。この農業遺産で最も特筆すべきは、国連の持続可能な開発目標(SDGs)17目標の全てに貢献する点です。
そもそもSDGsが国連で提唱されるに至った背景には、世界的な科学者グループによる「プラネタリーバウンダリー(人間の活動が『地球の限界』を超えつつある)」という概念が元になっているのですが、そうした自然共生社会へ世界一丸となってかじを切る先駆けとしてFAOが提唱したのが「世界農業遺産」なのです。
日本初の世界農業遺産として2011年、石川・能登と新潟・佐渡を申請登録する道筋を作った専門家会議委員長で、公益財団法人地球環境戦略研究機関理事長の武内和彦氏は、先日の認証式で、「自然資本の健全性はSDGs達成の基礎であり、国連では、家族農業の振興や生態系の回復(エコシステム)を掲げている」と講演しました。世界的な環境学者である武内委員長は、10年に開かれた第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)で、日本における自然共生型モデルを「SATOYAMA」として国際社会に広めたことでも知られています。
農業を持続可能なものにすることは、いま議論されている「みどりの食料システム戦略」のテーマです。
日本農業遺産や里地里山に注目が集まれば、伝統的な農業や美しい景観が評価され、農村にやる気が生まれ、経済や地域の活性化につながります。
ところで、今年認定された7地域のうち、特に時代を表していると感じたのは、兵庫県・南あわじの水稲・タマネギ・畜産システムと、宮崎県・田野清武地域の干し野菜システム(名称略)です。いずれも「耕畜連携」が環境や生産に貢献しているという評価で、これは国の畜産の未来を考える上でも希望となるものです。
農業遺産はどれも生産性、大規模、新技術の真逆にありますが、地域の個性が輝き、継承者が誇りを持っています。実はこれが一番の宝で、農泊、観光、商品開発、教育や人材育成につながっています。
プレーヤーが楽しそうに取り組む地域には、人を呼び込む力があります。まず農村に必要なのは、郷土への愛着や誇りではないでしょうか。循環型の里山ライフスタイルは、SDGsの根底に通じます。本当はどんなむらも、可能性の宝箱なのです。
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2021年04月13日

熊本地震から5年 復旧の歩みに隔たり 営農本格化 工事「足踏み」 南阿蘇村、山都町
14日と16日に、2度の震度7を記録した熊本地震から5年がたつ。土砂崩れや地割れで被災した農地は多くが復旧し、営農再開を果たした。熊本県南阿蘇村では土砂に埋もれた棚田を大区画に整備。一方で山都町では復旧が遅れ、あぜなどの工事の3割が未完了だ。生産者の中には自ら補修し営農を続けている人もいる。(岩瀬繁信)
南阿蘇村乙ケ瀬地区の棚田は、2016年4月16日の地震で、大規模な土砂崩れが起きた。水稲を栽培する藤原三男さん(73)は、「50年、耕した水田が一瞬でなくなった」と振り返る。
おいしい米ができるよう土づくりに力を入れ、若い頃は堆肥を牛の背中に載せて運んだ。10年前には山の湧き水を導く水路も整備したが、地震で土砂と一緒に崩落した。
個人で建てたライスセンターは、乾燥機8台のうち3台が駄目になった。「残りもメーカーが直せるか分からないほどめちゃくちゃだった。廃棄すると思ったら涙が出た」と話す。
米作りを「やめようか」と思ったが、幸い建物は無事だった。被害を免れた水田で田植えもできた。稲刈り後に必要になる調製施設は、壊れた部品を交換し、毎日少しずつ復旧作業を続け、収穫に間に合わせた。
16年秋、藤原さんら地区の住民は棚田復旧の協議を始めた。以前から区画整理が必要と話しており、災害を機に大区画化を進めると決めた。県や国、村の支援で26ヘクタールの工事を開始。以前は1枚数アールの水田もあったが、20~30アールに広がった。
藤原さんは「大きな機械も格段に入りやすくなった」と喜ぶ。20年に一部で田植えが始まり、21年は全面を植える。来年のことは分からないが、「元気なうちはこの土地で米を作り続ける」と藤原さんは決意する。
熊本県は、農家の営農再開率を21年3月末で100%とする。一方で農道や水路などの復旧工事は完了率が86%。地域差が大きく、16年6月に豪雨の被害が重なった山都町は69%にとどまる。
棚田が広がる山都町白糸地区は、工事完了率が56%。水稲を2・7ヘクタール作る岩崎邦夫さん(78)は、崩れたあぜや水路11カ所で工事を申請したが、完了はまだ2カ所だけだ。「先祖が守った土地を荒らすわけにはいかない」と話し、早期の工事完了を訴えている。
工事が進まない中、地区では多くの生産者が農地を自身で補修して営農を続ける。
山下徹さん(50)は、崩れたあぜの内側に簡易のあぜを設置し、採種用の米を作る。山都町は県の主食用米種子の半分以上を生産していて「作り続ける責任がある」と、山下さんは力を込める。
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2021年04月14日
なんという精神力だろう
なんという精神力だろう。世界が見詰めるひのき舞台での堂々たる姿が、誇らしい▼米ジョージア州オーガスタで開かれた、男子ゴルフのマスターズ・トーナメントで優勝した松山英樹選手である。日本男子のメジャー大会優勝は初めての偉業。優勝者のみに与えられるグリーンジャケットに袖を通した時の顔には、大仕事をやり遂げた満足感が満ちていた▼最終日首位でのスタートだったが、決して楽なゲームではなかった。勝負どころの15番ホール。当たりが良過ぎた1打は、無情にもグリーンを越えて池に。並の選手であれば、ずるずると後退する場面である。気持ちを切らさず踏ん張り、栄冠を手繰り寄せた。ハラハラドキドキの連続は、テレビ観戦しているこちらの眠気をも奪った▼松山市生まれの29歳。アマチュアだった東北福祉大学(仙台市)の学生の時に、初めて出場権を得たが、大会目前で東日本大震災が発生。迷った末に、被災者の声に押されて出場した。苦節10年。あの時背中を押してくれた、東北への感謝は忘れない▼コロナ感染が広まる中、高齢者へのワクチン接種が始まった。そんな初日の朗報は、沈みがちな心に勇気と感動をもたらす。おめでとう、そして、ありがとう。
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2021年04月13日

優樹農園ブドウソース 大阪府羽曳野市
大阪府羽曳野市でブドウ「デラウェア」などを栽培する優樹農園が販売するブドウ風味のソース。
同園で規格外品となった「デラウェア」を活用し、2020年に発売。果汁を製品中に30~40%とたっぷり使うことで、フルーティーな甘さを楽しめるようにした。ハンバーグやチキンナゲット、ローストビーフなど幅広い料理に合わせられる。
1パック(150グラム)410円。JA大阪南の直売所「あすかてくるで」などで販売する。同市のふるさと納税で返礼品にも選ばれている。
問い合わせは同園、(電)090(6612)5083。
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2021年04月16日
四季の新着記事
東西冷戦後の世界秩序で最も深刻な脅威は、文明と文明の断層である
東西冷戦後の世界秩序で最も深刻な脅威は、文明と文明の断層である▼米国の政治学者のハンチントンが、著書『文明の衝突』で指摘した。世界中を震撼(しんかん)させた「9・11」の同時多発テロは、キリスト文明とイスラム文明の対立の激しさを物語った。あれから20年、今度は、中華文明との激突である。米国が中国との対決姿勢を鮮明にし始めた▼大統領に就任したバイデン氏は、「21世紀における民主主義の有用性と専制主義との闘い」と言い放った。米議会も少数民族ウイグル族への虐待は、「ジェノサイド(大量虐殺)」とする。敵味方をはっきりさせたい国柄ではあるが、トランプ前政権を上回るような強硬姿勢に、中国は敵対心むき出しに▼両国の緊張が高まる中である。菅首相が訪米し、ワシントンでの首脳会談に臨む。台湾問題や、東・南シナ海で活発化する中国の海上覇権活動に対抗する包囲網が話される。それはそれで重要だが、米軍への「思いやり予算」が増額されたり、牛肉のセーフガードの緩和などで農畜産物をこれ以上買わされたりするのは、勘弁願いたい▼地理上も文化的にも、米中に挟まれる日本。断層の懸け橋になるくらいの覚悟なら、世界から見直されるかも。菅外交やいかに。
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2021年04月16日
気の利いた言葉を残せたら、後悔だらけの人生も少しは救われる
気の利いた言葉を残せたら、後悔だらけの人生も少しは救われる▼「北の国から」(フジテレビ)で主役を演じ、先月88歳で亡くなった田中邦衛さんのせりふが、胸を打つ。「金なんか望むな。倖(しあわ)せだけを見ろ。ここには何もないが自然だけはある。自然はお前らを死なない程度には充分毎年喰(く)わしてくれる。自然から頂戴しろ。そして謙虚に、つつましく生きろ。それが父さんの、お前らへの遺言だ」(『北の国から2002遺言』)▼北海道勤務時代、舞台となった富良野市に何回足を運んだろう。東京が嫌になった男が故郷に帰って、自然の中で生きる。脚本を書いた倉本聰さんから、「一番情けない」印象だったことで主役の黒板五郎役に選ばれた。あまりにぴったりの役だった。今も憧れる▼昭和という時代がどんどん遠ざかる。大きな足跡を残し、訃報が続く。NHK連続テレビ小説「おしん」の脚本を書いた橋田寿賀子さんが、今月亡くなった。享年95。貧乏のどん底からはい上がる女性一代記の名は、「辛抱のしん」などから生まれたと聞く。両親と別れ、筏(いかだ)に乗って最上川を下る場面は、涙が止まらなかった▼きょうは遺言の日。どんな言葉を残そうかと考えながら、お二人のご冥福を祈る。
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2021年04月15日
左右とも底に穴が開いた革靴
左右とも底に穴が開いた革靴。あしなが育英会の昨年度の活動報告書に写真が載っていた。病気などで親を亡くした子どもたちを、奨学金で支える民間非営利団体である▼同会から緊急支援金を受け取った奨学生の親から届いた。添えられた手紙には、そのお金で靴を買ったとあり、それまでは「娘もわが家の家計を理解しているので(略)ガムテープを貼って履いていました」▼緊急支援金は全奨学生に、昨年2回給付した。コロナ禍で収入が減り、食費や光熱費も払えず、人生を悲観する保護者が出始めていた。経済格差は教育格差を生み、将来の所得格差をもたらす。菅首相は国民にまずは「自助」を求めたが、その条件を整えるのが政治の仕事である。街頭募金ができない中、同会は寄付を呼び掛け、総額が前年度を上回った。他にも各地で、食の支援を含め、多くの「共助」が生まれた▼ふたり親を含め、政府は低所得の子育て世帯に特別給付金を支給する。「命と暮らしを守り抜く」。首相はそう表明している。子どもの状況に応じて継続的に支援してほしい▼子どもの7人に1人が貧困状態にある。子どもたちが、衣食足りて、安心して勉学に励めるよう、もっと「公助」を、平時から。そう望みたい
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2021年04月14日
なんという精神力だろう
なんという精神力だろう。世界が見詰めるひのき舞台での堂々たる姿が、誇らしい▼米ジョージア州オーガスタで開かれた、男子ゴルフのマスターズ・トーナメントで優勝した松山英樹選手である。日本男子のメジャー大会優勝は初めての偉業。優勝者のみに与えられるグリーンジャケットに袖を通した時の顔には、大仕事をやり遂げた満足感が満ちていた▼最終日首位でのスタートだったが、決して楽なゲームではなかった。勝負どころの15番ホール。当たりが良過ぎた1打は、無情にもグリーンを越えて池に。並の選手であれば、ずるずると後退する場面である。気持ちを切らさず踏ん張り、栄冠を手繰り寄せた。ハラハラドキドキの連続は、テレビ観戦しているこちらの眠気をも奪った▼松山市生まれの29歳。アマチュアだった東北福祉大学(仙台市)の学生の時に、初めて出場権を得たが、大会目前で東日本大震災が発生。迷った末に、被災者の声に押されて出場した。苦節10年。あの時背中を押してくれた、東北への感謝は忘れない▼コロナ感染が広まる中、高齢者へのワクチン接種が始まった。そんな初日の朗報は、沈みがちな心に勇気と感動をもたらす。おめでとう、そして、ありがとう。
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2021年04月13日
ユダヤ難民にビザを発給して6000人の命を救った杉原千畝
ユダヤ難民にビザを発給して6000人の命を救った杉原千畝。その生涯を一人芝居で伝え続ける俳優の水澤心吾さんが、新作「賀川豊彦物語」を完成させた▼東京・新宿の淀橋教会で初披露の舞台を見た。新型コロナウイルス対策で限られた人だけの催しだったが、賀川の魂が乗り移ったかのような熱演に引き込まれた。この協同組合運動の巨人の根っこにはキリスト教の信仰があると改めて実感させられた▼水澤さんは2007年の初演以来、「決断・命のビザ~SEMPO杉原千畝物語」の公演を続けてきた。国家の命にそむいても、目の前で救いの手を伸ばす人々の命を優先した杉原は、日本よりも海外の方が「東洋のシンドラー」として知られる。米国や勤務したリトアニアなどで公演し深い感動を与えた▼賀川の存在を意識したのは3年ほど前という。「個の力ではなく、協同組合で理想社会を追求した。実践力がすごい。若い世代に知ってほしい」。賀川は「愛は私の一切である」との言葉を残している。朗読劇を見終わって、助け合いは〈助け愛〉と確信した▼協同組合に新人が仲間入り。百の座学より先達(せんだつ)の息吹に触れるのが響こう。コロナ禍が落ち着いたら、朗読劇を体感してはどうか。
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2021年04月11日
〈女性の力の及ぶところ はじめて平和の光あらん〉
〈女性の力の及ぶところ はじめて平和の光あらん〉。女性参政権の必要性を訴える「婦選の歌」の一節である。与謝野晶子が作詞し、1930年に発表された▼女性を含む普通選挙の実施はその16年後、敗戦翌年4月10日の衆院選である。きょうで75周年。39人の女性議員が誕生した。紅露みつもその一人。学徒出陣で息子を失い、反戦への強い思いで立候補した。『新しき明日の来るを信ず―はじめての女性代議士たち』(岩尾光代著)で知る。「あとにつづくお母さんたちにこの悲しみをさせてはならない」。紅露の言葉だ▼榊原千代は女性差別に憤り「政界と家庭の浄化」を訴えた。暴力で家庭に君臨したり、愛人を妻と同居させたりする男性も少なくない状況に我慢ならなかった。同書にそうある。人口の半分は女性。その意見を政治に反映させる一歩だった▼その後の歩みは遅い。国会議員に占める女性の割合は、今年1月が日本は9・9%(衆院)で190カ国中166位。候補者男女均等法が3年前に施行され、男女数の「できる限り均等」を目指す▼「婦選の歌」には〈男子に偏る国の政治 久しき不正を洗い去らん〉との歌詞も。秋までに衆院選がある。「政治を洗濯」できるか。各党が問われる。
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2021年04月10日
時は、米自由化問題に揺れていた頃
時は、米自由化問題に揺れていた頃。その人の話を聞きたくて、舞台開演前の楽屋に押し掛けた▼劇作家で小説家として名をはせていたが、米問題の大家であった。しかも自由化反対の急先鋒(せんぽう)。ついでながら本紙の厳しい読者でもあった。約束の1時間、とにかく語る語る。その熱量と知識量に気おされた。きょうが忌日の井上ひさしさんである。没して11年。警告はいまに生きる▼創作の根っこに「米」や「農村」があった。『吉里吉里人』執筆の動機を「このままでは、日本の農村は壊滅してしまう」と考え、「現代版農民一揆を書いた」とある(『コメの話』)。筆先は、「大旦那アメリカからのご命令」をひたすら拝聴し、つき従う日本にも向けられた。「わたしたちは本当に自立しているのであろうか」と▼自ら考え、行動する力を磨くために日本語を鍛え直せとも言った。「日本語という思考の根拠地」をなくした国民に未来はないという警句を胸に置く。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに…」。井上文学の神髄である▼米と日本語を粗末にするこの国の行く末を案じた作家のことを思い起こす時代が、再び巡って来た。
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2021年04月09日
その昔、カジノの本場、米国ラスベガスでスロットマシンに興じた
その昔、カジノの本場、米国ラスベガスでスロットマシンに興じた。ビギナーズラックは、訪れなかった▼当時、お世話になっていた日系2世のおばさんは、そのスロットマシンで遊ぶ休暇を楽しみに毎日農園で働いていた。ラッキー7を求め、全米、いや世界から観光客が押し寄せ、歓喜と落胆が不夜城の街を支配した。おけらになろうが、大金持ちになろうが運次第▼人間界はそれで済むが、ウイルス界となるとそうもいかない。ウイルスが生き延びるため変異を繰り返すことは、新型コロナで学習したばかり。ウイルスもまたスロットマシンのように、レバーを引くたびに遺伝子の配列が変わる。多くは「小当たり」「中当たり」だが、問題はいつ人類を危機に陥れる「大当たり」が出ても不思議でないこと▼そう警告したのは、8年前に刊行された『人類が絶滅する6のシナリオ』(フレッド・グテル著)。同書は、「スーパーウイルス」を筆頭に「気候変動」や「食料危機」などを挙げ、「滅亡の淵」に立つ人類に最悪の事態に備えよと呼び掛けた▼変異を繰り返す新型コロナウイルスが「大当たり」を引き当てる前に、人類の英知は働くのだろうか。運を天に任せるギャンブラーの気分である。
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2021年04月08日
太宰治風に言えば「恥の多い記者人生を送ってきた」
太宰治風に言えば「恥の多い記者人生を送ってきた」。新人の皆さんに掛ける言葉など持ち合わせていない▼新米時代の失敗談は数知れず。畜産の取材で繁殖農家の言う「子取り」が分からず、「小鳥を飼ってるんですか」と聞き直したり、国産レモンの栽培農家に「立派なレモンですね」と感心したら、「それは早生ミカンだ」とあきれられたり▼自戒を込めて言うが、「あいさつ」と「質問」は思いの外、君を高めてくれる。あいさつは、最も短く有効なコミュニケーション手段だ。タレントの松村邦洋さんの金言に「あいさつにスランプなし」がある。仕事はうまくいかなくても、気持ちを込めたあいさつはできる。いいあいさつには、人と運気を呼び込む力があると信じている▼質問力も侮れない。これができれば、仕事の質や人間関係は深まる。「見ることは愛情で、聞くことは敬いだ」とはコピーライター・糸井重里さんの言葉だ。「聞かれるだけで、相手はこころを開いていく」。その通りだ。フランスの哲学者ボルテールは、人の判断基準を「答え」より「問い」に置けと教えた▼元気よくあいさつして、分からないことは何でも聞こう。小学生並みと笑うなかれ。1年後にその成果は必ず出る。
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2021年04月07日
正直な政治家を探すのは、八百屋で魚を求めるがごとし
正直な政治家を探すのは、八百屋で魚を求めるがごとし。いや、いました。麻生太郎副総理が▼よく失言でたたかれるが、自分に正直過ぎるからポロリと本音が漏れるのではないか。例えば、若者と新聞に関するこの発言。「10代、20代、30代というのは一番新聞を読まない世代だ。新聞を読まない人は全部自民党(支持)であり、新聞を取るのに協力しないほうがよい」。3年前、自派閥の会合でそう語った▼若者の保守化と新聞購読の相関関係は分からぬが、いまや新聞離れは若者に止まらない。10年で約1400万部、この1年だけで約270万部も減った。麻生理論でいけば、自民党の支持はいよいよ盤石であろう。だから数々の不祥事も余裕で受け流しているのか▼今日は日付に絡めて「新聞をヨム日」。紙離れの中、援軍もいる。昨年亡くなった英文学者の外山滋比古さんが提唱したのが「新聞大学」。以前、小欄で紹介すると、「ぜひ、入学したい」と問い合わせがあった。「新聞大学」とは、自宅にいながら毎日、最新情報が得られる新聞こそ最良の知のテキストだということ。いささかこそばゆいが、糧にしたい▼当欄も若者からご年配まで入学してもらえるような「コラム学科」でありたい。
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2021年04月06日