[震災10年 復興の先へ] 東北被災地は今…イノシシ増殖 営農再開も被害拡大に不安 帰還へ懸念材料
2021年03月07日

渡邉さんが設置した電気柵。ここをイノシシが突破することもあるという(福島県富岡町で)
東京電力福島第1原子力発電所事故に伴う帰還困難区域のうち、福島県内5町村(富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村)でのイノシシ捕獲頭数が2年連続で2000頭を超えたことが環境省の調べで分かった。人がいない状況のため繁殖が止まらず、営農を再開した農地で被害も発生。宅地に侵入するケースもあり、避難した住民が今後、帰還する上での支障になる恐れがある。(柘植昌行、中川桜)
水田と山林の境目にイノシシ向けの電気柵が走る。富岡町の稲作農家、渡邉伸さん(60)は「ここを突破することもある」と打ち明ける。地元の帰宅困難区域指定が解除された2017年以降、営農を再開。水田5ヘクタールを手掛けるが、イノシシに稲を踏み倒されることもあり、食害にも悩まされ続けている。
渡邉さんは家族と住むいわき市から通い、農作業を続ける。片道1時間かけて水田に到着し、被害が出ているのを見つけると、「本当に気落ちする」と話す。生息数も増えていると感じ「今後、水稲の収量に大きな影響を与えるのではないか」と不安だ。
日中にもかかわらず、宅地を歩き回るイノシシ――。大熊町の根本友子さん(73)は一時帰宅が可能になって以降、そんな光景を何度も見た。町農業委員会の会長として、営農再開に向けた水稲の実証栽培に関わり、イノシシの食害を目の当たりにした。
避難の長期化で、大熊町は「イノシシが増える環境が整ってしまった」(産業建設課)とみる。今後、町民に帰還を促すに当たり、イノシシの頭数減を課題に挙げる。町内には約150台のわなを設置。1台当たりの捕獲数を増やすため、最適な設置場所の把握などを進める方針だ。
環境省は福島県内5町村の帰宅困難区域で、13年度からイノシシの捕獲事業を開始。19年度の合計捕獲頭数は2136頭に上った。20年度も1月末時点で2128頭。2年連続で2000頭台で推移する。
農地だけでなく住宅の庭地を掘って荒らす被害も後を絶たない。環境省は18年度から捕獲体制を強化。わなを増設、捕獲期間も延長し、捕獲頭数の増加につながった。同省は「帰還する住民が安心して暮らせるよう引き続き捕獲を進める」(鳥獣保護管理室)と話す。
イノシシの生態に詳しく、富岡町で実態調査にも携わる東京農工大学の金子弥生准教授は「体格の大きさなどから考えると、餌を十分に取れている。今後も増える余地がある」と見込む。
金子准教授の試算では東日本のイノシシ生息密度は1平方キロ当たり5頭程度。一方、富岡町の調査地区は38頭と、8倍近い。そこで「帰還困難区域や周辺地域の生息密度を減らすことが重要」と強調。行政主導の狩猟人材の確保、フェンス設置による生活圏のすみ分けなどを指摘する。
福島5町村捕獲数 2年連続で2000頭超
水田と山林の境目にイノシシ向けの電気柵が走る。富岡町の稲作農家、渡邉伸さん(60)は「ここを突破することもある」と打ち明ける。地元の帰宅困難区域指定が解除された2017年以降、営農を再開。水田5ヘクタールを手掛けるが、イノシシに稲を踏み倒されることもあり、食害にも悩まされ続けている。
渡邉さんは家族と住むいわき市から通い、農作業を続ける。片道1時間かけて水田に到着し、被害が出ているのを見つけると、「本当に気落ちする」と話す。生息数も増えていると感じ「今後、水稲の収量に大きな影響を与えるのではないか」と不安だ。
日中にもかかわらず、宅地を歩き回るイノシシ――。大熊町の根本友子さん(73)は一時帰宅が可能になって以降、そんな光景を何度も見た。町農業委員会の会長として、営農再開に向けた水稲の実証栽培に関わり、イノシシの食害を目の当たりにした。
避難の長期化で、大熊町は「イノシシが増える環境が整ってしまった」(産業建設課)とみる。今後、町民に帰還を促すに当たり、イノシシの頭数減を課題に挙げる。町内には約150台のわなを設置。1台当たりの捕獲数を増やすため、最適な設置場所の把握などを進める方針だ。
環境省は福島県内5町村の帰宅困難区域で、13年度からイノシシの捕獲事業を開始。19年度の合計捕獲頭数は2136頭に上った。20年度も1月末時点で2128頭。2年連続で2000頭台で推移する。
農地だけでなく住宅の庭地を掘って荒らす被害も後を絶たない。環境省は18年度から捕獲体制を強化。わなを増設、捕獲期間も延長し、捕獲頭数の増加につながった。同省は「帰還する住民が安心して暮らせるよう引き続き捕獲を進める」(鳥獣保護管理室)と話す。
イノシシの生態に詳しく、富岡町で実態調査にも携わる東京農工大学の金子弥生准教授は「体格の大きさなどから考えると、餌を十分に取れている。今後も増える余地がある」と見込む。
金子准教授の試算では東日本のイノシシ生息密度は1平方キロ当たり5頭程度。一方、富岡町の調査地区は38頭と、8倍近い。そこで「帰還困難区域や周辺地域の生息密度を減らすことが重要」と強調。行政主導の狩猟人材の確保、フェンス設置による生活圏のすみ分けなどを指摘する。
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[未来人材プラス] シェフから農家に 糖度15超マンゴー栽培 販路開拓し全量完売 茨城県日立市 鈴木拓海さん(41)
フランス料理のシェフからマンゴー農家に転身したのは、茨城県日立市の鈴木拓海さん(41)。パリでシェフの修業をして帰国。独立後、自ら作った食材を使いたいとの思いが募り、果樹栽培に手を付けた。沖縄で印象に残ったマンゴーを作ろうと、2013年に10本の鉢植えを始めた。現在はハウスで、150本の木から年間約3000個を収穫する。
幼少期から料理やシュークリームなどの菓子を作るのが得意だった鈴木さん。シェフになるのが夢で、調理師専門学校を19歳で卒業して渡仏。パリのビストロや三つ星の飲食店などで修業した。
フランスに5年間滞在して04年に帰国。「両親が営む飲食店で経営を学んだ。独立するなら、食材も自分で作りたかった」と就農を決めた。
だが、農業は未経験だった。JA日立市多賀の紹介で農地を借り、16年に就農した。マンゴーの他、30アールでナスやエダマメなども1人で栽培する。マンゴーは、養分が分散しないように、根域を制御したボックスで栽培。樹上完熟で収穫するため、糖度は15以上だ。
販路は自ら開拓した。通販サイトなどで、1玉3000円前後で売る。異業種の若手経営者が集まる場に顔を出し、知り合った企業が開くイベントなどで大口の注文も獲得した。とろけるような食感が口コミで広がり毎年完売する。規格外品は両親の飲食店を活用して、ジャムやタルトに加工する。加工品を含めたマンゴーの利益は、年間約300万円という。
マンゴーを栽培する7アール2連棟のハウスや農機は自己資金で調達した。19年に行政支援が手厚い認定農業者になったと同時に、理事としてJA運営にも携わる。くくりわなや箱わな、銃免許も取得して地域の有害鳥獣駆除にも貢献する。鈴木さんの今の夢はシェフ兼農家。「新型コロナウイルス禍でも需要が見込めるケータリングを展開したい」と展望する。
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2021年04月22日

宇治茶の初取引 平均1キロ1万1187円
2021年産の宇治新茶の初市が19日、京都府城陽市のJA全農京都茶市場であった。平均価格は煎茶1キロ1万1187円と、新型コロナウイルス禍による需要減退で異例の安値だった昨年の8512円を大きく上回った。最高値は和束町産の手もみ茶で1キロ18万8888円(昨年10万円)と、資料の残る2000年以降で最高価格となった。宇治市の中村藤吉本店が落札した。
初市に先立ち、JA全農京都の中川泰宏会長が「昨年は茶農家にとって厳しい売り上げとなったが、茶商の皆さんの支援で、何とか今年の初市を迎えることができた。若い茶生産者を育てるためにも、目いっぱいの数字を書いてほしい」と高値での入札を呼び掛けた。……
2021年04月20日
大豆生産伸び悩み 政府目標の6割 収量・面積とも課題
政府が増産を目指す大豆の収穫量が足踏み状態にある。農水省の調査によると、2020年産は21万8900トンで、前年比1%の増加にとどまった。収量が安定せず、作付面積が伸び悩んでいることも影響。政府の生産努力目標は30年度に34万トンだが、6割の水準にとどまる。目標達成には収量・面積の両面でてこ入れが必要だ。
政府は食料・農業・農村基本計画で、主要品目の生産努力目標を設定している。大豆は作付面積17万ヘクタール、10アール当たり収量200キロを前提に、30年度に34万トンとした。だが大豆の収穫量は、過去10年で最も多かった17年産でも25万3000トン。同年以降は、3年連続で21万トン台にとどまる。
20年産の10アール収量は前年を2キロ上回ったものの、154キロどまり。作付面積は14万1700ヘクタールで、3年連続で減った。収穫量は努力目標の64%の水準だ。米など他の品目と比べても、特に努力目標との差が大きく、同省は「面積も10アール収量も足りない」(穀物課)と受け止める。
10アール収量は、豊凶による変動が大きい。過去10年間の最高は12年産の180キロだが、近年は150キロ前後で推移している。不安定な収量は実需者が国産大豆を敬遠する要因になっており、輸入品からの需要奪還に向けても安定が欠かせない。
作付面積も増えていない。16、17年産では15万ヘクタール程度だったが、米価の回復に伴い、転作大豆から主食用米に回帰した影響もあるとみられる。米需給が緩和局面となる中、転作作物としてどう推進するかが課題となる。
同省は20年度第3次補正予算で、主食用米から大豆などへの作付け転換を促す「水田リノベーション事業」を用意。同予算と21年度予算では、技術導入などを支援して安定生産を後押しする「水田麦・大豆産地生産性向上事業(麦豆プロ事業)」も措置した。同事業は5月14日まで2次募集している。
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2021年04月17日

EC和牛ギフト活発 花と合わせ華やかに 花束に見立て楽しく
5月9日の「母の日」に向け、ギフト用の和牛を提案する動きが電子商取引(EC)市場で活発化している。花とのセットや肉を花に見立てた商品など、各社が趣向を凝らす。今年は8割が「母の日」の贈り物をECサイトで購入するとのアンケート結果もあり、商機が広がっている。
黒毛和牛のギフト専門ECショップ「evis meats」は、和牛肉と生花をギフトボックスに詰め合わせた商品を売り込む。「箱を開けた瞬間のサプライズだけでなく、花を飾ることで食卓も華やかに彩れる」とアピールする。
肉の部位はイチボ、モモ、サーロインなど6種類から選べる。価格は1万3360円で、肉の量は部位ごとに異なる。同店は1月にオープンし、完売も相次ぐなどギフト用の和牛が好評という。
焼き肉店などを運営する翔山亭(東京都千代田区)は、和牛肉を花束に見立てた「肉フラワーギフト」を自社ECサイトで販売する。渦状に巻いた肉が、バラの花びらのように見えるのが特徴だ。「店舗以外でも和牛を楽しんでもらえるよう、ギフト開発に力を入れている」(同社)。
霜降り肉と赤身など3種類を組み合わせた「愛」(250グラム)が6000円、「優」(400グラム)が9000円。
日本最大級の取り寄せ情報サイト「おとりよせネット」のアンケートによると、今年は77%がネット通販で「母の日」のプレゼントを購入すると回答。百貨店などの実店舗は減少傾向となった。「生活スタイルが変わり、行動が制限される中、対面の機会が少ない『ギフト通販』を利用する人が定着してきた」と指摘する。
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2021年04月21日

米在庫 余剰感強まる 業務需要低迷 21年産契約に影響
消費不振で米の民間在庫量が高止まりし、余剰感が強まっている。特に新型コロナウイルスの影響が大きい業務用銘柄を抱える産地を中心に、月を追うごとに在庫状況が悪化。卸は米の先安観から仕入れを必要最小限にとどめており、21年産の契約にも影響が出始めている。
農水省によると2月末の民間在庫量は……
2021年04月18日
地域の新着記事
農地バンク・農業会議合併 新組織「ひょうご農林機構」が誕生 兵庫県
兵庫県の農地中間管理機構(農地集積バンク)である兵庫みどり公社と、県内40市町の農業委員会を束ねる県農業会議が合併し、新組織「ひょうご農林機構」が誕生した。より現場に近い農業委員会のネットワークを駆使し、農地集積バンクとしての機能を強化、農地の集積・集約を加速させる。合併は公社が会議を吸収する形で、「農業会議」を冠した法人がなくなるのは47都道府県で初めて。(北坂公紀)
現場と連携、機能強化へ
新組織は1日付で発足した。……
2021年04月21日

[活写] 青い境界線 たずねて
大分県杵築市の「大分農業文化公園」で、70万本のネモフィラが見頃を迎えている。50アールの大花壇「フラワーガーデン」一面に青い花が広がり、来場者は広々とした園内で、写真撮影や散策を楽しんでいた。
同園は、2018年から来場者の要望に応える形でネモフィラの栽培を開始。職員が栽培方法を学び、花壇を手作りして風景をつくり上げてきた。
25、29日にはネモフィラを摘んで、小さなブーケを土産にできる摘み取り体験を開催する。また、花をイメージした青いソフトクリームなど地場産農産物の加工品も人気だ。
会期中は検温や来場者情報の記録など、新型コロナウイルス対策を徹底する。矢野格園長は「ネモフィラ、園内にあるダム湖、そして空。三つの青がコラボレーションする風景を楽しんで」と笑顔を見せる。見頃は4月下旬まで。入場無料。(釜江紗英)
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2021年04月21日

魅力満載の動画配信 特産をラップで称賛 長野県職員
「信州長野は日本の屋根」「南は市田柿 ガキには分からない粋な味」。長野県庁に勤める若手職員4人からなる「WRN」は、ラップで若い世代に農や自然、地域の魅力を伝える。歌詞には特産のリンゴやブドウ、キノコなどの農産品が登場する曲もある。(藤川千尋)
カラス対策も曲に
グループ名の「WRN」は「We Respect Nagano」(長野県を誇りとする)の頭文字を取った。鳥獣対策・ジビエ振興室の宮嶋拓郎さん(31)がリーダーを務める。この他、森林づくり推進課の服田習作さん(31)、ゼロカーボン推進室の三村裕太さん(32)、上田保健福祉事務所の井出伊織さん(33)がメンバーだ。
きっかけは2015年ごろ。当時、県飯田合同庁舎に勤めていた宮嶋さん。若手農家の交流会を企画し、県のホームページに告知を出したものの人が集まらなかった。痛感したのは、地域の魅力や県の取り組みが、伝えたい人に届いていないこと。「世の中に関心を持ってもらう伝え方が必要」と考えた。
当時流行していたラップに注目。同じ庁舎で働いていた服田さん、三村さん、井出さんに声を掛けて活動を始めた。
現在はライブを企画したり、制作したミュージックビデオを動画投稿サイト「ユーチューブ」に投稿したりするなどして活動する。
3月に投稿した「Night Veil」は、県が約40年ぶりに実施したカラスの生息調査を基に作った。農作物を荒らすカラス対策の曲だ。歌詞では「ついばむ 放置果実」と、摘果などで畑に捨てられた果実がカラスの冬の餌となることを強調。「生き延びるための餌残さない 対策そういう 意識共有」と呼び掛ける。
4月中旬に業務で参加できなかった井出さんを除いたメンバー3人が、長野市の戸隠神社や新潟県内の川や海で新曲のミュージックビデオを撮影した。新たな楽曲で発信したいのは「山や森林を大切にすることは田や畑へ豊かな水を供給すること」であり、「海の生態系の保全につながること」だ。
宮嶋さんは「ラップを通じて、若い世代に農や地域の魅力を伝え、盛り上げていきたい」と話す。
動画が正しい表示でご覧になれない場合は下記をクリックしてください。
https://www.youtube.com/watch?v=PnTYAjVzOr4
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2021年04月21日

宇治茶の初取引 平均1キロ1万1187円
2021年産の宇治新茶の初市が19日、京都府城陽市のJA全農京都茶市場であった。平均価格は煎茶1キロ1万1187円と、新型コロナウイルス禍による需要減退で異例の安値だった昨年の8512円を大きく上回った。最高値は和束町産の手もみ茶で1キロ18万8888円(昨年10万円)と、資料の残る2000年以降で最高価格となった。宇治市の中村藤吉本店が落札した。
初市に先立ち、JA全農京都の中川泰宏会長が「昨年は茶農家にとって厳しい売り上げとなったが、茶商の皆さんの支援で、何とか今年の初市を迎えることができた。若い茶生産者を育てるためにも、目いっぱいの数字を書いてほしい」と高値での入札を呼び掛けた。……
2021年04月20日

トロロアオイ「生・消」で守る 寄付募り産地維持へ奮闘 埼玉県小川町
手すき和紙を作るために欠かせないトロロアオイ。ユネスコ無形文化遺産「和紙・日本の手漉(すき)和紙技術」に登録されている、「細川紙」の産地・埼玉県小川町で、トロロアオイの担い手と和紙職人の掘り起こしを目指すプロジェクトが始動した。クラウドファンディング(CF)での呼び掛けに賛同した消費者へトロロアオイの種を送り、プランターや庭で育ててもらう。栽培したものは、小川町トロロアオイ生産組合が検品して、同町の紙すき職人に納める。新たな産地の維持・活性化策に期待がかかる。(木村泰之)
消費者も栽培に参加
「『わしのねり』プロジェクト」と銘打ち、海外への国産農産物の普及などに取り組むスタイルプラス(東京都港区)が企画した。
プロジェクトを始めたきっかけは、トロロアオイの主産地・茨城県での全農家5戸が高齢化で、栽培をやめるかどうかを検討したからだ。同県の生産量(2019年)は全国1位で7・5トンとシェア75%を占める。当面は作り続けることになったが、作り手がいなくなると、全国の和紙生産地が受ける影響は大きい。
一方、小川町では1965年ごろまでトロロアオイを栽培していた。だが一時途絶え、紙すき業者は茨城県から取り寄せていた。02年に遊休農地を活用し、30戸で同組合を結成して栽培を復活させた。茨城に次ぐ3・8トン(19年)を作るが、今は10戸。最年少は65歳と担い手の年齢的な問題を抱える。
同社から企画を持ち掛けられた組合長の黒澤岩吉さん(84)は「一般の人の参加を機に、町内で栽培する人が現れてほしい。要望があれば指導に積極的に協力し、困っている和紙産地の期待に応えたい」と話す。
国内で約3割の和紙を生産する同町の紙すき職人も後継者問題を抱える。一時、数百戸あった細川紙の紙すき業者は約5戸に減少。職人を育成する町和紙体験学習センターは老朽化で、修繕費がかさんでいるという。
同社はこうした修繕費用や、新商品の開発などの費用をCFで集める。5月16日までに84万円を目標にする。栽培に不慣れな消費者のため、農家から動画で栽培指導が受けられるようにした。
川口洋一郎代表は「トロロアオイの知名度は低い。消費者と農家、紙すき職人の三位一体で生産を継承していくことが必要」と、参加を呼び掛けている。
<ことば> トロロアオイ
アオイ科の一年草。オクラに似た花をつけるため「花オクラ」とも呼ぶ。根から取る粘液を「ねり」といい、手すき和紙の繊維を均一にする添加剤として使う。日本特産農産物協会によると、1965年度には約1万5000トンの収穫量があったが、2019年度は10トンとなった。胃腸薬や菓子類、麺類のつなぎなどの食品添加物としても用いられる。
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2021年04月20日

移住・二地域居住したい 都民4割が関心 首位は鎌倉・三浦(神奈川) リクルート調査
東京都民の4割が地方移住や二地域居住に関心があるとの調査を、民間会社がまとめた。移住や二地域居住に関心のある都民に住みたいエリアを聞き、ランキングもまとめた。1位は、神奈川県の鎌倉・三浦エリアで、「街ににぎわいがある」を理由に挙げた人が多かった。
調査は、(株)リクルートが1、2月、東京都在住の20~69歳の男女を対象にインターネットで行った。東京駅から50キロ圏外を「地方」とし、希望するエリアを三つ選んでもらった。回答数は、事前調査は1万5572人で、本調査は1万572人。
事前調査で移住・二地域居住に関心があるか聞いた。「強い関心がある」が7%、「関心がある」が25%だった。移住・二地域居住が決まっている人や実施に向けて行動している人を含めると、4割が関心を持っていた。
本調査で、関心があると答えた人に理由を聞くと「自然が豊かな環境で生活したい」が56%で最も多かった。「リラックス・リフレッシュできる時間・空間がほしい」が41%、「住居費を下げたい」が31%の順だった。
ライフステージ別では、「自然が豊かな環境で暮らしたい」と答えた人は、子育てを卒業した60歳以上の夫婦世帯と、子どものいる家族世帯で多かった。単身の女性は「東京での生活・仕事に疲れた」が多かった。
移住などに関心があると答えた人に、希望するエリアも聞いた。選んだ理由は、街のにぎわいや医療・子育て環境、地域の自然環境などが多い。観光地として有名なエリアなどが人気を集めた。
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2021年04月17日

熊本地震5年 絆つなぐ手作り弁当 大学校舎移転“学生村の縁”今も 南阿蘇村住民グループ
熊本地震の本震から5年。南阿蘇村では今も、農業実習に訪れる学生に手作り弁当を届ける女性たちがいる。地震が起きる前は東海大学農学部生向けの下宿を営んでいた。今後、実習地は移転する予定で、学生との交流は先細りしかねない。だがメンバーはできるところまで「おばちゃんたちのご飯が食べたい」との思いに応えようとしている。(三宅映未)
地元の味で「恩返す」
東海大の旧キャンパス近くにある農業実習地には昼、大型バスが数台並ぶ。午後の授業に備え、熊本市内の校舎から学生が移動してくる。片道約1時間の道のりの後、待っているのが弁当の時間だ。
今月半ばの献立は人気メニューのとんかつや地元産ワケギを使った郷土料理。千葉県から進学した相田晴嵩さん(19)は「1人暮らしで食べ物が偏りがちだからありがたい」と頬張った。鹿児島県出身の米倉咲良さん(19)は「(実習地までの)移動は少し大変。でもおいしい弁当が活力になる」と話した。
弁当を作るのは同村黒川地区の住民グループ「すがるの里」。地震まで賄い付きの下宿を営んでいた女性16人がメンバーだ。学生の8割に当たる800人が住み、一帯は「学生村」と呼ばれていた。
だが、地震で農学部のキャンパスは建物や敷地に亀裂が走り、立ち入りできない状況に。同地区も下宿や建物が崩れ、学生3人の命が奪われた。校舎はは熊本市に移転し、学生の姿は消えた。
復旧が進む中、行政、学生と住民を交えた話し合いが持たれた。学生の「おばちゃんたちのご飯が食べたい」との声を受け、2019年にグループを設立。「地震の時、学生に命を救われた人もいる。恩返しの気持ちで始めた」と代表の垣ます子さん(72)は語る。
手作りの弁当を紹介する垣代表(同)
活動拠点は実習地近くの廃校。実習日に合わせ週に1、2回、朝から調理を始める。食材は地元産を多く使い、農家から提供を受けることもある。酢みそなどの調味料は手作り。価格は1個400円。
住民の知恵 貴重な学び
20年末、農学部校舎を益城町に建設する工事が始まった。畜舎など実習場も備え、23年4月に運用を開始する計画。今の実習地がどうなるかは不透明だ。
メンバーの一人、竹原伊都子さん(60)は「卒業生が関係を引き継ぎ、地震を知らない今の学生も訪ねに来る。『用がなくても(来て)いいとよ』とご飯を食べてもらう」と話す。地震前、学生たちは住民と酒を酌み交わし、いろいろな手伝いをして交流を深めた。「授業で学べないことを知ることができて、うれしい」との声も竹原さんは聞いた。
新校舎近くに「学生村」ができる話は、現時点でない。竹原さんは「南阿蘇で学生が地域から学ぶ機会は減るだろう。建設地を見るたび複雑な気持ちになる」と明かす。
住民は、当時の学生も参加する二つの団体と今も交流を続けている。同大学出身で同校に勤める中野祐志技術員は「キャンパスが離れても、つながりをどうにか持ち続けたい」と語る。
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2021年04月16日

熊本地震から5年 復旧の歩みに隔たり 営農本格化 工事「足踏み」 南阿蘇村、山都町
14日と16日に、2度の震度7を記録した熊本地震から5年がたつ。土砂崩れや地割れで被災した農地は多くが復旧し、営農再開を果たした。熊本県南阿蘇村では土砂に埋もれた棚田を大区画に整備。一方で山都町では復旧が遅れ、あぜなどの工事の3割が未完了だ。生産者の中には自ら補修し営農を続けている人もいる。(岩瀬繁信)
南阿蘇村乙ケ瀬地区の棚田は、2016年4月16日の地震で、大規模な土砂崩れが起きた。水稲を栽培する藤原三男さん(73)は、「50年、耕した水田が一瞬でなくなった」と振り返る。
おいしい米ができるよう土づくりに力を入れ、若い頃は堆肥を牛の背中に載せて運んだ。10年前には山の湧き水を導く水路も整備したが、地震で土砂と一緒に崩落した。
個人で建てたライスセンターは、乾燥機8台のうち3台が駄目になった。「残りもメーカーが直せるか分からないほどめちゃくちゃだった。廃棄すると思ったら涙が出た」と話す。
米作りを「やめようか」と思ったが、幸い建物は無事だった。被害を免れた水田で田植えもできた。稲刈り後に必要になる調製施設は、壊れた部品を交換し、毎日少しずつ復旧作業を続け、収穫に間に合わせた。
16年秋、藤原さんら地区の住民は棚田復旧の協議を始めた。以前から区画整理が必要と話しており、災害を機に大区画化を進めると決めた。県や国、村の支援で26ヘクタールの工事を開始。以前は1枚数アールの水田もあったが、20~30アールに広がった。
藤原さんは「大きな機械も格段に入りやすくなった」と喜ぶ。20年に一部で田植えが始まり、21年は全面を植える。来年のことは分からないが、「元気なうちはこの土地で米を作り続ける」と藤原さんは決意する。
熊本県は、農家の営農再開率を21年3月末で100%とする。一方で農道や水路などの復旧工事は完了率が86%。地域差が大きく、16年6月に豪雨の被害が重なった山都町は69%にとどまる。
棚田が広がる山都町白糸地区は、工事完了率が56%。水稲を2・7ヘクタール作る岩崎邦夫さん(78)は、崩れたあぜや水路11カ所で工事を申請したが、完了はまだ2カ所だけだ。「先祖が守った土地を荒らすわけにはいかない」と話し、早期の工事完了を訴えている。
工事が進まない中、地区では多くの生産者が農地を自身で補修して営農を続ける。
山下徹さん(50)は、崩れたあぜの内側に簡易のあぜを設置し、採種用の米を作る。山都町は県の主食用米種子の半分以上を生産していて「作り続ける責任がある」と、山下さんは力を込める。
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2021年04月14日

無花粉ヒノキ「丹沢 森のミライ」デビュー 神奈川県が苗出荷
神奈川県は無花粉のヒノキを「丹沢 森のミライ」の愛称で、初めて出荷していくことを明らかにした。現在、県内で出荷される杉やヒノキは、全て花粉の飛散量が少ない品種。「丹沢 森のミライ」はこれらの品種の20%以下の飛散量だった。第1陣は152本用意し、今後の植樹のイベントでのPRに使う予定だ。
2012年に県の自然環境保全センターがヒノキ4074本から花粉の飛ばない可能性がある雄で、繁殖しない不稔性のヒノキ1本を見つけた。その後2年間調査し、花粉が飛散しないことを確認。19年5月から県山林種苗協同組合がさし木で育苗を始めた。苗木の土の付いた根の部分が筒状のコンテナで2年育てた苗を出荷できるようになった。
県は林業関係者などからの愛称を募り、136点から「丹沢 森のミライ」と決めた。黒岩祐治県知事は記者会見で「花粉症のない快適な未来を予感させる名前」などと選定の理由を語った。
無花粉ヒノキの価格は、2年生のコンテナ苗で1本300円前後。同等程度の規格で少花粉のヒノキより100円ほど高い。同組合に連絡すれば購入できる。県は27年度までに毎年40~50ヘクタールに15万本程度植える杉やヒノキの1割ほどを無花粉の品種にしていく予定だ。
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2021年04月14日
3都府県「まん延防止」 コロナ禍出口どこに
政府は9日、新型コロナウイルス対策として緊急事態宣言に準じた対応が可能となる「まん延防止等重点措置」を東京、京都、沖縄の3都府県に適用することを決めた。対象区域の飲食店は、営業時間の午後8時までの短縮を求められる。影響を受ける外食産業や農家などの関係者からは、コロナの終息に向けた出口が全く見えない状況に「かなり厳しい」「これ以上は限界」といった声が相次いだ。
また時短、限界 消費しぼむ
外食
外食業界団体の日本フードサービス協会は「飲食店は『時短営業対応をいつまで繰り返すのか。いい加減にしてほしい』というのが本音だ」と明かす。感染防止対策でできることは既にやってきたが、これ以上は限界と受け止める。
時短の長期化で、銀行が追加融資を渋る事例が増えており、雇用調整助成金が当初予定の4月末で切れてしまえば、「飲食店が生き延びることはできない」と苦境を訴えた。
野菜仲卸
まん延防止等重点措置の東京都適用を受け、野菜の仲卸業者は「特に酒類を提供する飲食店からの注文は落ち込みが大きくなっている」と明かす。緊急事態宣言の解除後、注文は3割増と回復したが、「感染増加に伴い今週は再び落ち込んだ。大型連休の書き入れ時に重なるのは痛い」と漏らす。
卸売業者も「飲食店向けだった野菜が振り向け先に困り、葉物など足が早い商材は取引価格を大きく下げている」と話す。
酒造組合
度重なる飲食店への時短要請で、需要が大きく減る酒の業界は悲鳴を上げる。日本酒造組合中央会は「飲食店や旅行での消費が減り、酒造メーカーの経営はかなり厳しい。その状況が続く」と話す。高級日本酒を販売する東京都内の酒店は「昨年の春ごろは、自宅消費でインターネット販売が盛り上がったが、その勢いも収まった」と課題をみる。自宅向けの消費挽回に期待するものの、苦戦している状況だ。
作付けどうなる 策尽きた
生産者
東京都あきる野市の長屋太幹さん(39)は、約1ヘクタールでケールやリーキ、ビーツなどを生産し、都内のレストランに出荷している。時短営業の影響を受け、飲食店との昨年の取引額は例年の3分の1程度に落ち込んだという。
都がまん延防止等重点措置の対象となることを受けて「春から飲食店が復活することを期待して、頑張って作付けをしたが、なかなか厳しい」と声を落とす。
飲食店
買い物客がまばらな商店街(9日、那覇市で)
沖縄県では、今月1日から独自で飲食店への時短要請を実施している。JAおきなわの直売所で食材を毎日仕入れる糸満市の飲食店「味どころ田舎家」の高田見発店長は「要請が出た時点で店内での飲食自体を控える動きが増え、夜に加えて昼の客足も落ち込んでいる」と窮状を話す。昼は弁当販売に切り替えたが、1日20~30個ほどの売れ行きで、売り上げの減少をカバーできない。「できる限り経費を削減しているが、1年近く同じような状況が続き、もう手の打ちようがない」と語る。
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2021年04月10日