農の治水機能生かせ 田んぼダム、用水路の排水 住民参加で検討加速 豪雨禍受け福岡・熊本両県

田んぼダムのせき板を手にする太田さん(福岡県朝倉市で)

 2020年7月豪雨により被災した福岡、熊本両県で、水田や水路の治水機能を強化して減災する機運が高まっている。「田んぼダム」導入や農業用水路の事前排水が柱。食料生産だけでなく治水でも地域に貢献し、巨額な工事が不要なため公共投資を抑えられる利点もある。専門家は、十分に役目を果たすには農家を後押しする施策が重要だと指摘する。(三宅映未)

 田んぼダムは排水口にせき板を設け雨水を多くためられるようにした水田。新潟県などで導入が進む一方、九州では珍しかった。だが豪雨被害が頻発し、注目され始めている。

 熊本県は21年度、県農林水産部に「田んぼダム推進本部」を設ける。人吉市など7市町村約270ヘクタールをモデル地区に選定し、整備を進める。福岡県宗像市も田んぼダム導入に動く。

 福岡県朝倉市では先行して07年度から17ヘクタールの田んぼがダム機能を持つ。管理するのが農家や地域住民70人が参加する下半区環境保全組織だ。せき板で水かさを通常よりも最大10センチ多くでき、全体で1万7000トンの水をためられる。ダム化後、地区の下流域では大きな水被害は出ていない。

 事務局の太田浩二さん(68)は「下流域の住民を守るためにも貯水機能を高める必要がある」と強調。組織は国の多面的機能支払いを受け、参加する住民や農家には貯水機能の重要性を説く。深水になることで、暴風による稲の倒伏を防げるのも利点だという。

 福岡県柳川市が注目するのは、農業用水路の先行排水だ。降雨の前にせきや水門を開いて水路の水を減らし、多くの水をためられるようにする。豪雨被害をきっかけに市は15年から、農家など約70人の水門管理人らに先行排水への協力を要請。20年7月の豪雨時には浸水被害を軽減できた。

 作柄へ悪影響はないか──。当初は水路の水が減ることへの懸念もあったが、今では価値が浸透し、降雨時には自主的な排水を始める人も増えている。近くに住んでいれば農家自身も被災する恐れがある。市水路課の松永久課長は「水門管理人を中心に明らかに意識が変わった」と実感する。

 成果を受け、県は21年度に先行排水の連絡協議会をつくる。加わったのは近年、大雨で氾濫することが多かった筑後川下流域の6市町。下流域にある主要な農業用水路の全長は計約300キロで、約1000万トン分の水を受けられる。

 ただ、他地域との連携には課題もある。20年9月に大型の台風10号が接近した時は近隣市町と連携して先行排水をしたが、被害が予想より軽微で、水路に再度水を流す作業が遅れた地域もあった。松永課長は「各地の状況をよく理解し、協力して治水を進める必要がある」と話す。
 

農家の後押しを 新潟大学の吉川夏樹准教授


 田んぼや、利水目的の農業用水路を治水に活用する際、農家らの合意形成が大きな課題になる。使命感だけでは難しい。農家へのメリットを高めるとともに、受益者となる住民が取り組みを理解するよう、意識改革を進めるべきだ。熊本県の球磨川流域は流域面積に占める水田の割合が低い。ダムの効果を得られる面積の確保とともに、支流でも、田んぼダムによる治水を考える必要がある。
 

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