プロローグ「農高生の視点」 自給の重み知る一口

国産の牛肉を使ったすき焼きを頬張り、顔がほころぶ小野寺さん(中)とその両親(栃木県鹿沼市で)

 日本農業新聞は年間キャンペーン報道「フードエイジ」を始める。消費者や若い世代を含め国民全体で食料生産の大切さを共有し、国産農畜産物の利用拡大やその先にある食料安全保障の確立につながる動きや課題をさまざまな角度から探る。初回はプロローグとして「農高生の視点」で食と農の関係を考えた。現場を体験し、食料を自給する重みを実感するようになった若者の姿を見た。
 

国産囲み農家に感謝 栃木県立鹿沼南高


 くつくつと音を立て、すき焼き鍋が煮えてきた。箸を入れ、口に運んだのは「とちぎ和牛」の霜降り肉。栃木県立鹿沼南高校食料生産科の1年生、小野寺煌さん(16)は家族と鍋を囲み「んー。やっぱり柔らかい」と顔をほころばせた。この1年で牛を育てる大変さを知り「よりおいしく感じる」と打ち明けた。

 小野寺さんはサラリーマン家庭の生まれ。授業でブラウンスイス種「きゅうろう」の体を洗った時、初めて牛に触れた。喜んでいるように見えた。「もっと世話をしたい」と畜産部に入った。

 「きゅうろう」の出荷も経験した。当日は「トラックが来なければいいのに」という気持ちも湧いた。「餌代をかけて育てている経済動物」と自分の心を整理した。

 2021年の和牛甲子園に出品する牛の肥育にも携わった。出品牛の枝肉の写真を見ると鮮やかなさしが映っていた。「ここまできれいな肉ができるとは思わなかった」と達成感を味わった。

 小野寺さんは同校入学後、酪農家を志すようになった。昨秋、父の仁さん(52)の知人の酪農家で作業を体験。学校では30頭を交代で世話するが、80頭近くの搾乳牛を夫婦2人で切り盛りする現場に驚いた。「ここまでの努力をしている。国産牛肉の価格も理解できる」と思うようになった。

 母の範恵さん(53)は「農業に関わるようになって考え方が変わった」と息子に感心するが小野寺家は男4人兄弟。家計を考えると「豚肉や鶏肉は国産。でも牛肉だと、しょっちゅう国産霜降りは難しい」と苦笑する。

 すき焼きの準備中、範恵さんが食卓に牛肉のパックを置くと、小野寺さんはスマートフォンを取り出した。パックにある個体識別番号を見て、飼養地などを閲覧できる家畜改良センターの検索ページに打ち込んだ。

 「おっ、生まれも育ちも栃木県。東京で、と畜されてる」。検索結果を見ながら家族に教えた。

 小野寺さんが畜産に強い関心を持ったきっかけは、牛の世話だけではない。食料自給率について意見を発表する学校の授業も影響を与えた。

 「耕作放棄地を活用して飼料を作れば、畜産の自給率はもっと上がる」。先陣を切って発言し、クラスに一石を投じた。
 

食を生む尊さ再認識 熊本県立南稜高


 じゅー。熱したホットプレートに、鮮やかなさしの入った牛肉が並ぶ。すぐに脂が溶け出し、甘い香りが漂う。そっと箸で取り上げ、頬張る。「甘味があるね」。肥育牛を育てて出荷するだけでなく、肉を食べて自給の大切さを学ぶ熊本県立南稜高校総合農業科動物コースの授業の一幕だ。

 

仲間と育てた肥育牛の肉を食べて、笑顔がこぼれる嶽本さん(左)(熊本県あさぎり町で)
 率先して肉を焼き、自分だけでなく仲間にも配る生徒がいた。2年生の嶽本潤さん(17)だ。「みんなでしっかり育てて出荷できたから、こうして、笑顔でおいしく食べられるんだよな」と振り返った。授業中、今回食べた牛と一緒に育てるも、出荷できなかった牛のことを思い出した。

 同校は、2021年の和牛甲子園に嶽本さんらが育てた「ふく86」を出品。担当教諭の松村研太郎さん(44)がその肉を取り寄せ3月中旬にみんなで食べた。

 本当はもう1頭、「なおみ」という名前の牛も出品するはずだった。嶽本さんらは2頭を懸命に育ててきたが、「なおみ」の肉が日の目を見ることはなかった。

 昨年12月。牛舎内に横たわり息をしていない「なおみ」がいた。事故死だった。もがいた跡が床に残っていた。「気付くことができなくて本当にごめん」。嶽本さんは今も悔しい思いを抱える。

 嶽本さんは農家出身ではないが将来、牛に関わる仕事に就くことを志望している。小学生の頃、近所で初めて牛を見て以来、愛らしさに心を打たれたのが契機となった。同校に入学し、念願の牛飼いが始まった。

 「なおみ」は嶽本さんらが1年生の頃から飼育してきた。最高の枝肉にしたいと意気込んでいたが、かなわなかった。

 嶽本さんは「なおみ」の死を経験し「食べ物を作り、消費者に届けるのは容易じゃない」と改めて意識するようになった。「牛を育てる農家になり、多くの人に食べてもらいたい」。将来への決意はより強くなった。

 「肉が食べられるのって当たり前じゃない。1キロの肉には数字以上の重みがある」。同校2年生の柿元さやさん(16)は「ふく86」「なおみ」や子牛の飼育に携わり食べ物への意識が変わった。
 

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