EUの酪農研究 農家と共に課題解決 特別編集委員 山田優

 欧州連合(EU)で1月、強靱(きょうじん)な酪農計画(R4D)と呼ばれる一風変わった研究プロジェクトが始まった。3年間にわたり、欧州15カ国の18の大学、試験研究機関、農業団体などが参加する。目的は酪農の持続可能性を高めること。生産効率を引き上げつつ、アニマルウェルフェア(快適性に配慮した家畜の飼養管理)、生物多様性、温室効果ガス削減など環境配慮の分野を改善する。

 日本円で260億円が注ぎ込まれるR4Dは、酪農家、研究者、農業団体、獣医師、普及組織などあらゆる当事者をかき集め、わいわいがやがやと情報を交わし、新しい知識(イノベーション)を生み出そうという斬新な試みだ。研究者が人工知能(AI)やビッグデータを振りかざすのではなく、課題を一番知っている農家の目線を大事にする姿勢が読み取れる。

 かつて農業の新しい知識は大学や試験場で生まれ、普及組織など指導機関を通じて農家に降ってくると考えられていた。欧米では近年、「現場が抱える複雑な課題を解決するには一握りの研究機関だけでは力不足」という考えが主流になった。R4Dはそうした流れを反映している。

 一方の日本。4月下旬に農水省の試験研究機関の元締である農研機構の久間和生理事長が、オンライン会見に臨んだ。4月から始まる5年計画について「農業の産業競争力強化に向け出口志向の研究開発を強化する」と自信たっぷりに切り出し、次のように進めると説明した。

 「研究推進担当理事の権限と責任の下で、研究所それぞれの研究開発を加速する。理事長直下に基盤技術研究本部を設置し、AI、ロボティクス、高度分析技術等の基盤技術の強化と、データ・遺伝資源等の共通基盤の整備で、一流の研究成果とイノベーション創出を目指す」

 どう好意的に解釈しても「農家を含む当事者と足並みをそろえてやりましょう」とは受け取れない。

 実際、電機メーカー出身の理事長が示した図入り説明資料は、10ページで8000以上の文字を含むが、「農家」は登場しない。かろうじて「農業者」と「農業法人」が、それぞれ一つずつ片隅で触れられているだけだ。その代わり「スマート」という語句が14、「AI」に至っては28も登場する。

 イノベーションに農家は関係ない。ビッグデータやスーパーコンピューターが主役と言わんばかりだ。上から目線の計画からは、わくわくする気持ちがまったく伝わらないと感じるのは筆者だけだろうか。

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