緩~く続ける“異世界”移住 「漫画原作×米作り」体験連載中の熊谷さん
■東京→千葉 生き方多様に
青々とした稲が膝の高さに広がる。あぜにかがみ込み、水漏れを止めようと土を寄せる。「モグラに穴を開けられた。来るといつも問題が起きている」と話す熊谷さんの表情は明るい。
熊谷さんは、知人の紹介で借りた水田11アールで自給用に米を作る。パートナーの熊野友美さん(42)は「手間のかかることは楽しい」とあぜを塗りながら笑顔を見せた。
水田は、市街地にある自宅のアパートから車で30分の場所にある。2016年の移住当初は空き家に住んでいた。だが虫が出る、クーラーがないなど東京の生活との差が大きく、2カ月足らずで引っ越した。今は、本業の漫画の仕事に週4日ほど打ち込む。水田に通うのは週1回だ。
熊谷さんは「半農半Xを続けるには、無理をしない緩さも大切だ」と話す。
熊谷さん原作の漫画『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』。熊谷さんが、農業に初めて触れた時の驚きや感動が作中にちりばめられている。
水田は「命の源が詰まったスープ」と表現。初めて足を入れた瞬間、とろとろとした感覚に包まれた。この土が作物を育てると知り心が震えた。「野菜は買わずに作る」「天気が作業計画を左右する」など、農業や地域住民との関わりで知った都会とは違う“常識”への戸惑いも描く。
読者からは「都会じゃ考えられない」「田んぼの表現がすごい」といった驚きや共感がインターネット交流サイト(SNS)に寄せられている。
時間の感覚も都会と異なる。午後6時は、都会では職場で働いていた。それが日が暮れる頃には、農作業を終えて家路に就く。
「半農半Xで、都会では無理と思っていたことが可能となり、“異世界”だったものが自分のものとなる。生き方には、いくつもの選択肢があることを作品で伝えたい」と話す。
■農業所得「無し」28% 多様な働き方 農水省が実態調査
農水省は、半農半Xなど農村での多様な働き方の実態調査を初めて行った。
農業の年間所得は、無しが28%で最多。15~50万円未満が14%、15万円未満が13%、50~100万円未満が12%。400万円未満が9割を占めた。農業以外の仕事のうち所得が最も多い仕事の年間所得は、500~700万円未満が15%で最多。50~100万円未満が13%、200~300万円未満が12%。6割が400万円未満だった。
農業以外の仕事の数を聞いた。一つが100人で最多。二つが27人、三つが10人。職業や勤務先は会社員、会社経営、福祉施設、芸術家、観光農園、直売所、民泊・ゲストハウスなど。
調査は昨年7、8月、農業を含む複数の仕事に就く20~60代以上を対象にインターネットで行い145人から回答があった。