ドキュメンタリー映画「GUNDA」 主演は母子豚 命を活写 モノクロで家畜に迫る ノルウェーで撮影 あす公開
農場で生きる動物の世界を描いたドキュメンタリー映画「GUNDA(グンダ)」(米国・ノルウェー合作、93分)の全国ロードショーが10日、東京、大阪、神戸などを皮切りに始まる。出産直後の母豚と子豚を中心に鶏や牛の命の輝きが、モノクロ映像と自然の音だけで表現されている。動物を擬人化したり、音楽で盛り上げたりしない一方、見る者の想像力を試す新しい“家畜映画”だ。(栗田慎一)
舞台はノルウェー。わら敷きの豚舎で、10匹以上の赤ちゃん豚が母豚の乳房に吸い付く場面から始まる。力強く吸う豚、うまく吸えない豚、押しのける豚、押しのけられる豚、乳房にたどり着けない豚もいる。いきなりの生存競争に放り込まれた赤ちゃん豚の必死な鳴き声が響く。
母豚の名はグンダ。子育て経験豊かな貫禄がある。右の前後脚を引きずる子豚が、豚舎の外で走り回るきょうだいたちを懸命に追う。その尻をグンダが鼻先でぐいっと押した。
映像は鶏が詰め込まれたケージに移る。無施錠の扉を押し開け、恐る恐る出てきた鶏たちが森の中を散策し始める。ちょっとした冒険譚(たん)のようだ。隻脚(せっきゃく)の1羽がわずかな段差につまずく。農場を取り囲む金網にたどり着くと、隙間から首を出し、「外」を見詰めた。
放牧された牛の群れは、2頭ずつ前後逆に体を寄せ合って隊列を組んでいる。尾を振っているから、互いに尾の先が顔に当たり、うっとうしそうだ。この不思議な隊列の訳は、牛の顔がクローズアップされて氷解する。
映像は再び豚舎へ。子豚はグンダの半分ほどの大きさに成長した。ある日、大型車両が豚舎に横づけされ、鳴き声とともに子豚の姿が消えた。グンダは、走り回り、立ち止まり、車両の去った方角を見詰め、白い息を吐き、豚舎に戻ってにおいをかぎ、子豚が走り回っていた大地に鼻先を突っ込む――。
動物の目線と同じ高さで撮影され、人の姿はなく、解説もない。農場で生きる家畜のありのままの姿があるだけだ。
ロシア出身のヴィクトル・コサコフスキー監督が脚本、撮影も務めた。ノルウェーアカデミー賞、ストックホルム映画祭、ロシア批評家協会賞など各種映画祭で最優秀撮影賞などを受賞。第70回ベルリン映画祭エンカウンターズ部門の正式出品作。予告編や劇場情報は公式サイト 。