次に守るのは国民の食 退職自衛官「第二の人生」 北海道で就農体験事業
体力、機械スキル強み まだまだ現役
自衛官の退職年齢は、50代半ばと他業種より比較的早い。これまで自衛官の再就職を支援する道東地域援護センターが、退職を予定する自衛官に意向を調査したところ、農業分野を希望する人はほぼいなかった。農業関係の求人もほとんどなかったという。
農業の人手不足対策に向けて農水省は2019年度、自衛官の再就職先に農業を選んでもらうため防衛省と連携を開始。全国で退職自衛官の就職説明会などで就農をPRする。
道も19年度から、農水省の農業人材力強化総合支援事業の「農業の新しい働き方確立支援」を活用。農業現場で自衛官のインターンシップ(就業体験)などを進めてきた。同省によると、行政が自衛官に向け就業体験を行うのは北海道だけだ。
まず十勝地方で3年かけて複数の就農体験を行った。退職を控えた陸上自衛官16人に加えて、再就職を支援する職員ら48人が、JA幕別町管内などで農業現場の業務を体験するなどした。21年度はオホーツク総合振興局も独自に就農体験を行い、6人が参加した。
農水省、防衛省タッグ 道内で広がる
同センターによると、一連の取り組みを通じて就農希望者が増えている。定年退職を今年迎える2人が畜産で現在求職中だ。
9月に55歳で退職を迎える塩出正博さん(54)は昨年11月、十勝地方の新得町で行った就農体験に参加した。動物好きということもあって畜産関係を希望する。「仕事の内容を詳しく知ることができ、農業が再就職先の選択肢の一つになった」と話した。大橋透センター長は「農業関係の求人票が自衛隊で増えていくことを期待したい」と話す。
好評を受けて道は22年度、旭川や函館など十勝、オホーツク以外の複数地域で同様の活動を展開する予定だ。
「農家にならなくても農業で働けることを知らない自衛官も多く、丁寧に説明していきたい。自衛隊と農業との縁が今後も広がってほしい」(農業経営課)と期待する。
農水省は産地が今後生産基盤を維持する上でも重要だと強調。防衛省は「再就職先の選択肢を広げることは大切。連携を続けたい」(広報室)としている。