論説
オンライン研修 集合型と使い分けよう
新型コロナウイルス禍で変化したものの一つに、オンライン動画の職場利用がある。中でも注目されているのが、従業員の研修や情報共有への活用だ。効果や利便性の高さから新型コロナ終息後も普及が進むと考えられる。JAでも一部で利用が始まったが、もっと広げたい。
オンライン会議にようやく慣れたというJA職員も少なくないだろう。しかし、世の中はもっと先を進んでいる。オンラインの利用は農産物のトップセールス、商談会、交流会、セミナー、産地紹介・視察など多岐にわたり、実際のイベントを再現する試みが行われている。
中でも代替という位置付けではなく、情報通信技術(ICT)を駆使した新たな選択肢として企業などが導入を進めるのが、従業員の研修やナレッジ(知識)共有でのオンライン動画の利用である。理念教育よりも専門知識やノウハウの習得といった実務型研修に適している。
例えば、岐阜県のJAぎふは昨年10月から職員教育に動画配信を導入した。ホームページの職員専用ページにアクセスして視聴できる。金融、共済、税金などの専門知識や事業推進の留意事項などを説明する動画を各部署が制作する。神奈川県のJA横浜は育児休暇中の女性職員の職場復帰を応援する集合研修をこれまで子ども同伴で行ってきたが、コロナ禍を受けてオンライン形式に切り替えた。同県のJAさがみは事業推進大会の代わりに動画配信で事業計画やコンプライアンス(法令順守)を周知した。
オンライン研修はリアルタイムで行うものの他に、例えばユーチューブチャンネルを利用して、何回でも映像を再生できるタイプのものもある。この仕組みを使えば、「いつでも」「どこからでも」「何度でも」視聴できる。JAぎふはこのタイプだが、分かりづらいところは何度でも確認できるので、習熟効果は高いとみる。
メリットはそれだけではない。広域JAや1県1JAでは研修会場までが遠くて移動に時間がかかる、業務に忙しくて一日通しの研修に出るのは無理といった悩みも改善できる。研修への参加に消極的な職員に受講を促すことにも役立つ。
もちろん集合研修には、講師と対面することで刺激を受けやすいことや、参加する職員同士の交流、相互啓発といった良さがあり、必要性を否定するものではない。どちらか一方の選択ではなく、研修目的に合わせて使い分けていくのがよい。
職員の情報共有に動画を使う手法も新しいやり方だ。例えば企業では、新商品や新規サービスなどの従業員説明を補完するツールとして利用される。一定の期間を設けて自分の都合に合わせて映像学習ができる。受講者の確認や感想アンケート、習熟度テストのサービスもある。
JAグループ内での先行的な取り組みを積極的に情報共有し、横展開したいものである。
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2021年03月06日
コロナと食料安保 感染症リスクに備えよ
国際的な穀物需給に異変が生じている。中国の「爆買い」などで価格が上昇。新型コロナウイルス禍で生産・供給体制が不安定化していることも食料争奪に拍車を掛ける。人口増、気候変動に加え、感染症リスクに備え、わが国の食料安全保障政策を抜本的に強化すべきだ。
コロナ禍は、医療体制だけでなく食や農の分野にも深刻な影を落とし始めている。
新型コロナワクチンの世界的な争奪が過熱。先進国中心の供給で国連主導の公平な分配が機能せず、世界保健機関(WHO)は「ワクチン・ナショナリズム」に警鐘を鳴らす。
貧富の差が「命の格差」につながるように、食料もまた同様の危機に直面している。国連食糧農業機関(FAO)は、世界的な食料供給システムが新型コロナの脅威にさらされていると危機感を強める。新型コロナの流行前でさえ約6億9000万人もいた飢餓人口が、コロナ禍によってさらに1億3000万人も増えかねないと警告する。
事実、コロナ禍の中、一部の国は輸出規制に走り、感染拡大で生産・物流が滞る事態も起きた。グローバルなフードサプライチェーン(供給網)のもろさを突きつけた。生産基盤が弱体化し、海外への食料依存度の高い日本も無縁ではない。
資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表も医療危機の次に食料危機が訪れるのではと危惧する。日本農業新聞の「論点」(3月1日付)で同氏はコロナがあぶり出した日本の医療の脆弱(ぜいじゃく)性を指摘し、同じことが食と農の分野でも起こりかねないと警告。国際穀物価格は年明け以降、一段と騰勢を強める。供給・在庫は潤沢にあるにもかかわらず異例の高騰を続ける背景には、中国の「爆買い」があるという。その中国は、コロナ禍や米中貿易摩擦を念頭に食料安全保障の強化を今年の最重要課題に掲げる。
ただでさえ、気候変動や人口増、生産基盤の劣化などの危機に直面している時、コロナ禍と食料ナショナリズムが結び付けば、国際的な食料リスクは一段と高まるだろう。
食料安全保障の要諦は、国内農業生産の強化を第一に、輸入、備蓄を組み合わせ、不測の事態でも国民が必要とする食料を安定的に届けることに尽きる。
農水省は1月、緊急事態食料安全保障指針の一部を改正し、新型コロナなど感染症リスクへの対応強化を盛り込んだ。また政府は、こうした新たな事態を踏まえ、6月までに食料安全保障施策の強化策を策定することにしており、同省は有識者による議論を始めた。
そこで大事なのは、危うい食と農の現状を包み隠さず情報提供し、各界各層を巻き込んだ国民的な議論の場を設けることだ。食料安全保障への関心が高まっている今こそ、1人1人が「自分ごと」として、農業と食卓、日本と世界の関係の在り方を考える好機にしたい。
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2021年03月05日
米の転作深掘り 飼料柱に官民で強化を
2021年産主食用米はこのままでは過剰作付けになりかねない。相対取引価格(消費税・包装代を除く)が、60キロ平均1万1000円程度となった14年産水準に下落することも懸念されている。農家の経営安定には飼料用などへの転換が求められる。生産の目安の深掘りが必要で、行政の指導力発揮が不可欠だ。
主食用米に過剰感があり、需給均衡には、20年産が作況100だった場合と比べ21年産は生産量で36万トン、作付面積で6・7万ヘクタール、割合でともに5%の減産が必要と農水省は見通す。過去最大規模の転作拡大となる。
しかし、JA全中のまとめでは、各県の生産の目安を合計すると減産は約20万トンにとどまる。また、同省がまとめた作付け意向では28都道府県が前年並みの傾向で、一層の転作推進が必須だ。県によっては目安の削減や、目安よりも生産を減らす深掘りも必要だといえる。
一方、20年産の相対取引価格(同)は19年産を毎月下回り、下げ幅も拡大。1月は60キロ1万3600円強で6%安だった。前回の米価下落が始まった13年産よりも低い価格で推移している。前回は13、14年産の2年間で同約4600円と大幅に下がった。繰り返さないためには、種もみや作付けの準備が始まる中で、非主食用米への転換が現実的であろう。用途別の需給状況を見ると飼料用が柱になる。
主食用米の過剰作付けは農家の経営に二重の損失を与える。生産過剰になれば米価が下落、それに見合うほど需要が増えなければ所得が減る。助成金を含め、作付け転換していれば得られたであろう所得もない。
作付け転換は個別農家の経営判断の問題というだけはない。地域の水田農業全体から得られる所得を増やすには、団地化によるコスト削減など産地ぐるみでの計画的対応が必要だ。課題は、JA以外に出荷する農家や集荷業者への推進である。JAグループの集荷率は4割程度だからだ。2月26日の自民党農業基本政策検討委員会では、行政に対応を求める意見が出た。
野上浩太郎農相は同日の記者会見で「都道府県がイニシアチブを発揮して、産地や農家・生産法人など全ての関係者が一丸となって、(6月末が期限の)営農計画の検討を進めてほしい」と訴えた。「産地の後押しをしていく」との決意も表明した。地方組織を含め同省にも、地方行政と共に、集荷業者・団体や大規模農業法人などへの一層強力な働き掛けを求める。
また転作拡大面積に対し国が県と同額(上限10アール5000円)を助成する支援策に、15県(2月22日現在)が取り組む方針だ。他県も活用してほしい。議会の影響力にも期待したい。
農家の所得減少は地域経済も冷やしかねない。主食用米と、助成金を合わせた転作作物の手取りの見通しなど経営判断に役立つ情報も提供しながら、作付け転換への農家の理解を得る官民挙げた取り組みが重要だ。
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2021年03月04日
コロナと田園回帰 共生できる環境整備を
新型コロナウイルス禍で田園回帰への関心が高まっている。政府や自治体などは農山村への人の流れを加速させようと懸命だ。しかし、人口を増やすことだけが目的だと一過性に終わりかねない。移住者と住民が互いに共生できる地域づくりが欠かせない。
都市は「3密」になりやすく、新型コロナの感染リスクが高い。このため人口密度の低い農山村の価値が見直され、東京一極集中に是正の兆しもみられる。人口移動に関する総務省の統計では、東京都から出て行く転出者は2020年が40万人を超え、前年より4・7%増えた。比較可能な14年以降で最多だ。一方、東京都への転入者は43万人で同7・3%減った。
この流れを「ビックウエーブ」と歓迎する声もあるが、疑問だ。北海道のある自治体の移住担当者は「都市からの一時避難として移住する人を増やしても、地域にとって意味がないのではないか」と冷静に捉える。
テレワークが普及し、都市に住んでいた時と同じ仕事をしながら住居だけを変える「引っ越し感覚」の移住では、地域とあまり関わらないままになる可能性がある。農的な暮らしがしたいなど、希望を持って移住してくる人の受け入れ態勢をどうつくるかが重要である。
参考になるのが、酪農ヘルパーの労働環境改善に向けた北海道での取り組みだ。酪農家の休暇や冠婚葬祭時などに欠かせず、道外からの移住者らが担い手になっている。多くの酪農家には従来、作業員や労働力としての捉え方が強かったという。
一方、インターンシップの受け入れができなかったことなどで酪農ヘルパーの希望者が減少。北海道酪農ヘルパー事業推進協議会(事務局=JA北海道中央会)は、道全域の組合で、就業規則の整備率100%を目指し運動を始めた。地域によっては、酪農ヘルパーをしながら他の仕事もする「半酪農ヘルパー半X」も活躍している。
道東の酪農家は「労働環境を改善し、酪農ヘルパーが生き生きと地域で暮らすことで、他の人もこの地域に関心を持ち、地域全体に良い影響をもたらす」と期待する。
北海道では、酪農ヘルパーだけでなく、新規就農者に加え、学生や地域おこし協力隊、他に仕事を持っている人、1日契約など週末だけ農業でアルバイトをする主婦ら、多様な人が農業への関心を高めている。農家や産地も専業農家の確保・育成だけでなく、そうした人たちを大切にし、受け入れようとの意識に変わってきている。
しかし農業の労働環境の整備・改善や、ライフスタイルや価値観が多様な人たちの受け皿づくりは一朝一夕にはできない。農家や産地、地域の取り組みが必要だ。一方で「引っ越し感覚」で移住して来た人に、地域社会の一員としての意識と関わりを持ってもらう取り組みも求められる。
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2021年03月03日
営農アイデア大賞 農家の知恵共有しよう
優れた技術を生み出した農家を表彰する日本農業新聞の「営農技術アイデア大賞2020」の受賞者が決まった。審査では、生産現場の課題を自ら解消しようと努力した農家の知恵を高く評価した。幅広く共有し、それぞれの営農に取り入れたり、創意工夫のヒントにしたりして経営改善につなげよう。
アイデア大賞は9回目になる。昨年1年間に本紙に掲載した記事を基に、農家が考案した技術を専門家らが審査した。アイデアの独創性とともに、省力性、低コスト化、商品性の向上、取り組みやすさなど経営への貢献度合いを検討した。
大賞には育苗箱運搬器具「はこらく」を開発した黒壁聡さんを選んだ。北海道新篠津村で水稲などを栽培する。自作の金属の枠で、重ねた育苗箱を両脇から挟み、取っ手を握ると3、4枚まとめて運ぶことができる。
審査で高く評価されたのは、米作りで機械化できていない作業の労力を軽減したことだ。大規模化が進む水稲栽培では、わずかな作業でも積み重なると重労働になる。育苗箱への種まきは機械でできるが、入れた土が水を含んで重くなった箱を何千枚も運ぶのはつらい。
ちょっとした現場のストレスを解消しようとする農家ならではの視点も魅力に挙がった。「はこらく」を使えば手が汚れず素手で作業できるため、育苗箱を重ねる際に手袋が挟まることや、手袋を着脱する手間がなくなった。2万円以下の手頃な価格で販売している。
優秀賞の3点には、近年の農業の課題に対応する技術が選ばれた。鹿児島県出水市の松永幸昭さんは、水稲の苗を食害するスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)を捕まえる簡易わなを考案。紙パックに米ぬかと酒かすを入れて水田に入れ、6時間で100匹以上捕まえた。生息域が拡大する中、期待の技術だ。
北海道本別町の楠茂政則さんは、ビニールハウスを振動させて雪を自動で下ろすシステムを構築。高齢化で危険が高まる雪下ろしの作業軽減につながる。
新潟県燕市の農業法人・アグリシップは、梨花粉を混ぜた液体をドローン(小型無人飛行機)で散布し、人工授粉を省力化した。10アールを1分程度でできる。慣行の手作業では4人で1日かかる仕事で、人手不足に対応するのが狙いだ。
アイデア大賞は次回で10回目。21年の記事で紹介する技術が対象となる。できるだけ多く集めたい。情報提供もお願いしたい。これまで受賞した技術のその後の成果や展開、広がりを伝えることも計画している。
自らの創意工夫で技術の改善に取り組む農家同士がつながることも大切である。人手不足など、今回受賞した技術が解決を目指した課題は、日本の農業に共通している。アイデアを交換したり知恵を出し合ったりすることで、技術の底上げや、新たな発想による画期的な技術の誕生が期待される。
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2021年03月02日
国産消費拡大運動 価値伝え応援団拡大を
農水省は来年度から、国産農産物の消費拡大を目指し新たな国民運動を始める。国産応援団の裾野を広げるため、農業・農村の価値と魅力を官民挙げて発信する。新型コロナウイルス禍で農業者は苦境にある。国産を選ぶことが食料安全保障の確立に貢献するとの理解を、速やかに浸透させるべきだ。
政府が昨年改定した食料・農業・農村基本計画は、食と農への理解を深める国民運動を、食料自給率の向上、輸出5兆円目標の達成と並ぶ主要な柱に位置付けている。
国内農業は生産基盤が弱体化する一方で食料需要が地球規模で増え、食料の安定供給へのリスクが高まっている。同省は、こうした現状を国民全体で広く共有し、消費者が国産を積極的に選ぶ機運を高めたい考えだ。2021年度政府予算案には、農家の奮闘する姿や農業の魅力をインターネット交流サイト(SNS)で発信したり、世代を問わず消費者との距離を縮める交流イベントを開催したりする事業を盛り込んでいる。
国民運動は、顕彰制度などを通じて地域内の農産品を掘り起こし、消費を呼び掛けるこれまでの取り組みから転換、農産物に込めた思いや創意工夫への理解を促し、食や環境、地域に貢献する農業の意義を実感してもらうことが主眼にある。
加えて、現場に障害者や高齢者雇用を受け入れる「農福連携」も含め、農業の多面的機能への理解も広げる。野上浩太郎農相も国会で「国内農業の重要性・持続性を確保するため、国民の各層がしっかり認識を共有していくことが重要だ」と述べ、実践に強い意欲を示した。
しかし新型コロナの感染拡大で、基本計画で想定した消費拡大のシナリオと現実が懸け離れた。東京五輪・パラリンピックをはじめとしたイベントやインバウンド(訪日外国人)を当て込んだ市場は消滅した。2度の緊急事態宣言による外出自粛、外食業者の時短営業も重なって業務用需要が減少。集客を伴う交流イベントも開けないなど、食と農の接点を増やす多くの機会が失われた。「巣ごもり」での家庭用需要の拡大とは裏腹に、安定供給が求められる外食向けなどの業務用産地は窮地に立たされている。
政府は輸出を加速させるため産地や品目の選定を進めているが、足元の国内需給がおぼつかない状況では、基本計画の実践は片翼飛行になりかねない。
コロナ禍が収束しなければ、交流を伴う国民運動関連の事業の実効性をどう確保するかが課題になる。一方、海外では、食料の輸出規制や食肉工場の操業停止、物流の混乱などが生じ、食料安保への国民の関心が高まった。国内では、買い急ぐ必要がないほど国産の安定的な供給が続き、国内農業の重要性が改めて認識された。需要が減った農産物を買い支える「応援消費」も活発だ。こうした動きを生かした取り組みが求められる。
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2021年03月01日
臨時の主治医 保健所支援策の参考に
新型コロナウイルスの流行が続く中、JA静岡厚生連静岡厚生病院(静岡市)の医師が全国唯一の取り組みで奮闘している。感染して自宅などで療養している子どもを保健所に代わって電話で診察。患者の不安を取り除くとともに多忙な保健所職員を支えるのが狙いだ。全国の医療関係者も参考にしてほしい。
全国の保健所の業務に詳しい浜松医科大学(静岡県浜松市)の尾島俊之教授によると、新型コロナの患者が多い地域では業務が逼迫(ひっぱく)し、労働時間が過労死ラインを超える保健所職員が目立つ。
こうした中、電話診察に当たっているのは小児科診療部長の田中敏博医師(53)。同病院が協力する静岡市保健所は、コロナ関連(患者、濃厚接触者)で1日最大約600人の健康を観察。1人につき確認事項が10項目以上ある。対応している保健師は数人で、一人一人に丁寧に向き合うのは難しいという。
きっかけは昨年8月、市が地元の医療関係者らと、新型コロナに感染した子どもは比較的軽症で、原則「自宅などで療養する」と申し合わせたことだ。日本小児科学会の考えに準じた。自宅療養だと主治医と相談しにくくなる。子どもの不安を払拭(ふっしょく)するために田中医師は「電話などで対応できる臨時の主治医が必要だ」と提案し、自ら診察を買って出た。
昨年10月、診察を本格的に開始。2月17日までに、濃厚接触者を含む15歳以下の55人と、保護者ら52人を診察した。診察時間は朝夕の1日2回。直接対面で初診した後、療養する自宅などに連絡し、体温、心拍数、病状などを確認し、悩みなども聞く。田中医師は「全国に広まればうれしい」と話す。
同病院は「病院としてこの動きを応援したい」(桑原吉英事務長)考え。JA全厚連も「田中医師の取り組みは保健所を支援するとともに、地域と厚生連病院の関係を深めることにつながっている」とし、注目する。
同保健所や田中医師には、県外の自治体などから問い合わせがある。また同市の開業医らでつくる静岡市静岡医師会がこの取り組みに賛同。臨時で主治医を引き受ける方向で市と協議している。小児科に限らず、高齢者にも対応できる医師が協力すれば保健所の全国的な業務軽減につながるとの指摘もある。
ただ、この取り組みは、院内の医療スタッフや事務職員の協力が前提だ。新型コロナの流行で医療現場も逼迫している。自宅などで療養する患者に安心感を与えながら、保健所の業務をどう軽減するか。地域の実情にあった対応が求められよう。
保健所の業務の逼迫は、行財政改革などで保健所の数を減らし、職員数も減ったことが一因。保健所数は現在469カ所で、ピーク時の約半分に減った。「減らし過ぎた人員を増やすなどして、保健所の感染症への対応力を高めなければならない」(尾島教授)と言える。
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2021年02月28日
特殊詐欺とJA 職員の見破る力 磨こう
「オレオレ詐欺」などの特殊詐欺の被害が後を絶たない。被害防止の一翼を担うのが金融機関だ。JAは組合員・利用者との関係の強さを生かし貢献している。しかし、金融窓口を通さないなど新しい手口が次々に現れ、より巧妙化している。JAには、詐欺を見破る職員の力を一層高めることが求められる。
警察庁のまとめでは、2020年の特殊詐欺の全国の認知件数は1万3526件で前年より20%減、被害額は277・8億円で同12%減だった。ただし同庁によると、高齢者を中心に被害が高い水準で発生。また、1件当たりの被害額は214・8万円で同9%増と高額になっており、依然深刻な状況だ。
金融機関ではさまざまな対策を取っており、JAも同様だ。地元警察と連携した注意の呼び掛けでは、地域住民らの関心を高めるために、ちらしなどと一緒に特産品を渡したり、青年組織や女性組織と協力してマスクなどの小物を配ったりするなど工夫を凝らした取り組みも盛んだ。また金融担当職員の研修を行い、それを生かして実際に被害を防ぎ、警察から感謝状を贈られた職員も多い。
しかし詐欺の手口はその時の社会情勢などを反映して、変化している。同庁によると、昨年は「新型コロナウイルス感染症関連の給付金がある」と偽り、通帳などを受け取るなどコロナ関連の特殊詐欺が55件発生。うち2件は未遂に終わったが、53件で約1億円の被害が出た。
金融窓口を通さない手法や、職員が気付きにくい金額をだまし取ろうとする事例もあった。
島根県のJAしまねでは、子会社が運営するコンビニの店長が架空請求詐欺を防いだ。来店した高齢者が、身に覚えのない請求があり20万円分のプリペイドカードを買って支払うよう言われたと話したことで詐欺の疑いが浮上。警察に通報した。機器の操作に戸惑っていたため声を掛けたことがきっかけだった。
三重県のJAみえきたでは、12万円を出金しようした高齢者が窓口での雑談中に支払い請求のはがきが届いたことを話題にしたことから、職員が詐欺を疑い被害を防いだ。本人確認が必要な金額ではなく、別の通信販売の支払いを抱えていたため、本人は詐欺と気付かなかった。
いずれも、JAが職員らに研修を受けさせるなどして、日頃から対策を取っていたことが奏功した。JAでは、詐欺防止の研修は日常的になっている。しかし金融窓口以外を利用したり、支払わせる金額を少なくしたりするなど、詐欺グループは新たな手口を使ってくる。詐欺を防いだ事例では、来店者の困った様子や普段と違った行動、ちょっとした会話などから詐欺を疑っており、組合員・利用者と職員の日頃からの関係や、研修を基にした気付きが大きい。
JAの職員らは、特殊詐欺を防ぐ「最後のとりで」である。技能を磨き、地域の安全・安心に一層貢献してほしい。
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2021年02月27日
営農指導全国大会 伝える技能を高めよう
JA全中主催の営農指導実践全国大会が、オンラインで初めて開かれた。活動と成果の発表は事前収録の動画を配信。発表内容だけではなく、動画の出来具合が視聴者の理解に影響することが改めて確認された。営農指導でオンラインや動画の活用が広がることも想定され、伝える技能の向上が求められる。
5回目の今回、最優秀賞に輝いた山形県JAおきたま営農経済部、柴田啓人士さんの発表は特に素晴らしかった。活動と成果、構成が優れていたことに加え、カメラを前にした話しぶりや目線、スライドの内容、映像の明るさなど細部にまで心配りされていた。「地域のために」は全ての発表に共通する目的だ。加えて柴田さんの発表動画は「どうしたらよく伝わるか」をより意識したように感じた。
洗練された動画はなぜできたのか、発表内容から垣間見える。日本一のブドウ「デラウェア」産地として統一規格の作成や集出荷の効率化、オリジナル商品の開発を展開。西洋梨やリンゴ、桃を合わせた4品目で販売価格を6~26%高めた。こうした成果を上げ、自信を持って収録に臨んだこともあろう。
そのための苦労も多かった。集出荷施設の再編を巡って、2年間に100回行ったという説明会。地域のシンボルでもある選果場がなくなることに組合員から「クビをかけられるのか」と詰め寄られるなど、難しい合意形成を求められた。しかし丁寧な説明を続けたことで「産地を維持するための選択」との理解が広がり、成果につながった。
審査講評ではいくつかの発表について音声の乱れが指摘された。大きなホールでの発表に適した腹から出す声も、狭い部屋での収録では聞き取りにくい場合がある。発表者が体を動かしてマイクとの距離が少し変わるだけでも同様で、発表内容が視聴者の頭に入りにくくなる。
新型コロナウイルス下では、視察も含めて研修会や会議のオンライン開催、動画の利用などが進むだろう。コロナが収束しても、離れたところからも参加できることや、動画での情報提供の分かりやすさ、利便性などから継続すると考えられる。
対面でもオンラインでも重要なのは情報の内容と理解を得ることへの熱意だ。その上で受け取る側が分かるように心を配ることが大切で、オンラインや動画では機器の使い方や撮影の仕方、話し方など新たな技能が必要になる。技術革新で映像や音声など情報量が増えるに従い、より高い技能も求められよう。
全国大会で発表した8人には、副賞として金の営農指導員バッジが贈られた。通常は白、上位資格として導入された地域営農マネージャーは銀。各地の予選を勝ち抜いたこの8人は、それほど優れた活動で高い成果を上げたということである。発表動画はJAグループ公式ホームページで公開する予定だ。発表内容と動画の質の両方から経験を学びたい。
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2021年02月26日
米検査見通し 生消・流通の理解不可欠
政府は米の農産物検査規格の見直しを進めている。年間の検査数量は500万トンで、生産量の7割に上る。生産・流通の重要なインフラで、ルール変更の影響は大きい。農家の所得向上と需要拡大に役立つよう、生産者や流通業者、消費者らの十分な理解を得ることが不可欠だ。そのために、検討や周知に必要な時間を確保すべきである。
米は外観での品質評価が難しい上、広域流通するため検査制度がある。全国統一の規格で専門の検査員が「産地・品種・産年」を確認、精米時の歩留まりを判断し1等、2等などと格付けする。農業者は品質改善の目標にし、卸など買い手は購入の判断材料として活用する。
見直しは政府の規制改革推進会議が提起したのが発端で、昨年1月に着手。政府は7月に閣議決定した規制改革実施計画に重点事項の一つとして盛り込んだ。具体的には、農業者の所得向上を目的に、検査等級区分と名称の見直しや、検査コストの低減、機械的計測への早期変更を打ち出した。また、検査米で認めている小売りでの「産地・品種・産年」の3点表示や一部補助金の交付を未検査米にも認める方向を示した。
見直しの具体案を巡っては農水省の検討会が昨秋、論議を始めた。検査等級区分などの見直しでは、従来の目視検査とは別に機械鑑定を導入する方向だ。
検討会では、食味に関するデータなど品質の機械計測には利点があるとする一方、機械の導入費が発生、生産者負担の増加や小売価格への転嫁などを懸念する声も上がる。機械に習熟した人材の確保や、機械と目視の検査が併存し生産・流通に混乱が生じないかといったことを不安視する意見もある。
海外市場の開拓や高付加価値化を目的に新たな日本農林規格(JAS)も検討。需要拡大への期待とともに生産コストが増えないよう求める意見が強い。
全体的に急いでいるように見える。同実施計画で示した、2021年度上期に結論を出し速やかに措置するとの期限が重しになっているのではないか。
先行した米の3点表示の規制緩和は、7月の同実施計画を受けて1月には内閣府の消費者委員会食品表示部会が未検査米でも可能とする食品表示基準の改正案を了承し、7月には施行する速さだ。同部会やパブリックコメントでは、準備・周知のために移行期間の設定を求める意見があったが、見送られた。懸念が残ることから同委員会は菅義偉首相に対する改正案答申の付帯意見で、表示監視の強化と農産物検査と改正内容の普及・啓発、周知を念押しした。
「改革」の名の下に性急かつ安易な見直しを行えば、1700の検査機関、1万9000人の検査員、80万戸の米販売農家、1億人を超す消費者に大きな影響を与える。拙速は避けるべきだ。目的に照らし最善策を慎重に検討し、見直す場合は十分な説明と周知期間が必要だ。
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2021年02月25日
論説アクセスランキング
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イチゴ狩りの時季 安全・安心な「新様式」を
イチゴ狩りのシーズンを迎えた。新型コロナウイルスの感染拡大が続き、厳しい環境でのスタートである。こうした中、感染防止の基本対策や指針を整備する動きが広がる。生産者で共有・徹底し、安全・安心なイチゴ狩りを提供するコロナ下での「新様式」を確立しよう。
観光イチゴ園が盛んな千葉県では、年明け~5月の連休がシーズン。コロナ禍で前季は4月半ばに営業自粛を強いられ打撃を受けた。今季に向けて県、生産者組織の県いちご組合連合会、県園芸協会は7月に対策の検討に着手。専門家の助言を受けて9月にまとめ、11月に研修会を開いて生産者に周知した。
必須事項では、マスク着用、一定の距離の確保、販売時の試食中止といった対策を挙げた。極力取り組んでほしいことでは、摘む場所と食べる場所を分けることを提案。摘み取りの最中にマスクを外し、食べながら話すことが感染リスクを高めるためだ。収穫だけで持ち帰ってもらう方法も示した。研修を受けた生産者の一人はハウスに机を置き、摘み取りと食べる場所を分ける考え。「摘んでから移動して食べてもらう分、制限時間を延長する予定だ」と話す。
神奈川県のJAはだのは、観光イチゴ園の感染症対策ガイドラインを作った。統一的な指針で農園の対策を支援し、来園者にも安心してもらうのが目的だ。青年部の要望を受け、生産者や県農業技術センターと協議して決めた。農園の取り組みでは、施設内の定期的な消毒や換気、非接触型の支払い方法の導入など12項目を設定。来園者に行ってもらう内容もまとめ、「手に取ったイチゴは必ず収穫する」「食べ終えたイチゴのへたはごみ袋に入れて密封する」といった内容を盛り込んだ。
生産者や従業員、来園者を守るには、こうした指針の周知と着実な実行が欠かせない。同JAは、農園の対策を記したポスターと来園者に協力を呼び掛けるポスターを作成。農園に掲示してもらい、ウェブサイト用にデータも提供する。「各園が独自の対策を進めているが、統一的な指針で来園者に安心感を持ってもらえれば」とJAは話す。
イチゴ狩りは、国産果実が少ない冬から春に楽しめる人気観光スポットだ。今季は、新型コロナの第3波で、国の観光支援策「GoToトラベル」も一時停止という厳しい中で始まる。現段階では感染防止対策の徹底が、地道だが着実な方法だ。安全・安心を提供できるよう農園はもとより、来園者にも協力を求め対策を双方で徹底しよう。
観光農園の統一的なガイドラインを、農のふれあい交流経営者協会が作った。参考にしたい。ワクチン接種が始まってもいつ終息するかは不透明だ。森林開発やグローバル化、都市への人口集中などで感染症が発生、拡大しやすくなっているとされる。ウイルスと共存せざるを得ないことを念頭に置いた対応が観光農園にも求められる。
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2020年12月25日
2
学給に有機農産物 農業の未来開く端緒に
農水省は、有機農産物を学校給食に導入するための支援を始めた。販路の確保が狙い。自治体とJAは率先して取り組み、有機農業を核に地域農業の展望を開く端緒にしてほしい。
有機農業を推進する国の予算は今年度が1億5000万円で、前年度を5割上回る規模となった。有機農業による産地づくりと、販売先を確保する市町村と生産者らの取り組みに助成。新たな販路として、学校給食を位置付けた。
国内の有機農業の取り組み面積はわずか2万3000ヘクタール。耕地面積の0・5%にすぎない。栽培の基本技術が生産者に伝わっていない、労力がかかる割に収量や品質が不安定、期待する販売価格水準となっていない――ことなどが、原因に挙げられる。作っても販路がなく、生産を諦める農家も少なくない。
一方で有機農産物を扱う流通業者は増えている。新規の専門スーパーや有機宅配業者が参入。流通加工業者の4割が需要は拡大すると答えた調査もある。ただし、扱う条件の第一は「1年を通し一定量が安定的に供給されること」。この条件を乗り越えなければ国産有機農産物の需要は高まらない。
まず、まとまった量を確保できる産地だと地元で認められ、信頼を得た上で、外部で販路を開拓するのが堅実だ。学校給食を糸口とすれば社会的な評価も高まり、消費拡大につながるのは間違いない。そのモデルが千葉県いすみ市である。
市内の小中学校の給食に使う米の全量42トンは、農薬、化学肥料を使わない地元産の有機米「コシヒカリ」だ。8年前まで有機米の栽培は皆無だった。それが現在は100トン近くを生産。JAいすみは県外の有機専門店に販路を広げ、一層の生産拡大を目指している。買い取り価格は有機JASが60キロ2万3000円、有機に転換中は同2万円。収量の減少分をカバーし、再生産可能な価格とした。生産者は安心して栽培が続けられ、産地が形成された。
給食で子どもに食べてもらう意義は大きい。小学生は田んぼの生き物を調べ、学校田で有機稲作を体験する。教育効果は大きく、生産者には米作りへの自信や張り合いが生まれている。
地域農業は高齢化、担い手不足、耕作放棄地の拡大といった課題に直面している。新規就農希望者には有機農業を志す若者が多い。いすみ市ではこうした移住者が増え、有機野菜を栽培して学校給食への供給を担い始めた。稲作主体の大規模経営と、野菜中心の小規模家族経営が共に有機栽培に取り組んでいる。多様な農業経営が共存する地域農業の姿の一つだろう。
農水省の支援事業を活用するには、市町村とJA、農業者が協議会を立ち上げる必要がある。有機農業は特殊な農業でない。環境と経済を両立させる今日的価値のある農業だ。農業への国民理解も深まる。少量でもいい、一歩を踏み出そう。
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2020年09月22日
3
[コロナ以後を考える] 食料自給率の向上 草の根の行動広げよう
わずか、38%。1965年に73%だった食料自給率は55年間で半減してしまった。自給率の向上がなぜ必要か。どうすれば高まるか。農家は当事者意識を一層高め、国産回帰の大切さを改めて認識し、行動しよう。
新型コロナウイルスの感染拡大で外食や土産物需要が落ち込み、小豆や酒米、乳製品などさまざまな農産物の在庫が膨らんだ。保管が可能な穀類などは過剰在庫を早急に解消しなければ、需給緩和と価格低迷は長期化する。しかし特効薬はない。
食料・農業・農村基本計画は、2030年までに自給率を45%に高める目標を掲げる。一方で生産しても需要の減少で過剰在庫を抱え、一部作物では保管する倉庫すら逼迫(ひっぱく)。生産現場からは、自給率目標は「絵空事のように映る」(北海道十勝地方の農家)との声が上がる。自給率目標45%を政府は2000年に初めて設定したが、高まるどころか低下してしまった。自給率向上の糸口を今年こそ見いだしたい。
異常気象や災害の世界中での頻発や、人口増加、途上国の経済発展、そしてコロナ禍で見られたような輸出規制などを踏まえれば、いつでも安定的に日本が食料を輸入できるわけではないことは明白だ。国内農業の衰退は国土保全や農村維持など多面的機能の低下も招く。
自給率の低迷は、食料安全保障の観点からも国民全体の問題だ。一方、その向上には需要の掘り起こしと、それに見合った生産の増加が不可欠で、農家が一翼を担う。
自給率向上のヒントとなるのが北海道の取り組みだ。道内の米消費量に占める道産は、90年台は37%だったが、19年度は86%まで高まった。道目標の85%を8年連続で上回る。生産振興とともに、地道な消費拡大の活動を長年続けてきたことが成果に表れた。小麦も外国産から道産に切り替える運動を展開。道民の小麦需要に対する、道内で製粉した道産割合は5割前後となった。地元産だけを使ったパン店などが人気で、原料供給地帯でも地産地消の流れを育む。
コロナ禍でも地元消費の動きが目立つ。例えばJA浜中町女性部。脱脂粉乳の在庫問題を契機に牛乳消費拡大からバター、スキムミルクなど乳製品の需要喚起に活動の軸足を移し、乳製品レシピを町民に配布。地域内での需要拡大を目指す一歩だ。
他にも施設などに道産の花を飾ったり、インターネットなどでJA組合長が牛乳や野菜の簡単調理を紹介したりといった取り組みを道の各地が進めた。地産地消を広げようと農家が知恵を絞り、消費の輪を広げる活動だ。JAグループ北海道がけん引役を担い、農家や農業のファンを増やす運動も昨年始めた。
自給率向上は政府の責務であり、十分な支援が必要なことは言うまでもない。ただ、農家の草の根の行動が大きな力になる。自分や仲間でできることを実践することが一歩になる。
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2021年01月04日
4
野菜の相場低迷 経営安定対策の拡充を
野菜相場が低迷している。天候不順で近年は乱高下しやすくなっており、今年は新型コロナウイルスの影響が重なった。安定供給には農家の経営安定が重要だ。豊作時の暴落と不作時の暴騰を防止・緩和する施策と経営安定対策を拡充すべきだ。
主要野菜14品目の12月上旬の1キロ価格は99円(各地区大手7卸のデータを集計した日農平均価格)だった。過去5年間では、旬別で2番目の安値だ。
野菜相場は10月まで堅調に推移していたが、11月に展開が変わった。全国的な好天で各品目とも生育が進み、潤沢な出回りとなった。一方、外食を中心としたコロナ禍での業務需要の減少や、スーパーでの試食宣伝の制限などで厳しい販売を強いられている。顕著なのが重量野菜で、ダイコンやハクサイは平年の4、5割安となっている。
野菜の価格低迷時の対策で代表的なのが、収入保険と野菜価格安定制度だ。収入保険は全ての農産物が対象で、青色申告をしていることが要件。1年間の収入額が基準の9割を下回ると、下回った額の9割を上限に補填(ほてん)する。
野菜価格安定制度は、キャベツなど指定野菜14品目を対象に平均販売額が補償基準価格を下回った場合、差額の9割を上限に補填する。同省は、収入保険に初めて加入する場合、同制度との同時利用を21年1月から特例で1年間できるようにした。
収入保険は、コロナ禍による農業経営の損害に対応でき、関心が高い。また野菜価格安定制度は、産地育成や計画的な生産を促すなどの効果が見込める。
JAグループは、21年度の青果対策で国に①野菜価格安定制度の維持と安定的運営のための十分な予算の確保②緊急需給調整事業を含め需給安定化に取り組む産地への支援の拡充③野菜価格安定制度と収入保険の同時加入の特例措置の拡充・恒久化──をはじめ、経営安定のためのセーフティーネット(安全網)の拡充などを求めている。
野菜を巡る環境は不安定要素が多い。近年は台風が相次ぐなど天候不順の影響を受けやすい。また、大型の貿易協定の発効が相次ぎ、加工品を含め関税が削減・撤廃される。11月には地域的な包括的経済連携(RCEP)に署名した。冷凍などを含め野菜の対日輸出が多い中国、韓国との初の協定だ。対韓国では基本的に野菜は除外し、対中国でも重要な品目の多くを除外した。しかし段階的に関税を削減・撤廃する品目もある。影響を注視する必要がある。
コロナ禍により家庭で食事をする機会が増え、国産野菜を安定供給することの重要性が改めて確認された。また食料・農業・農村基本計画に政府は、米の生産調整で野菜など高収益作物への転換を図る方針を明記。野菜の生産量を30年度までに、18年度比で15%増やす目標も掲げた。安定生産には生産基盤の強化とともに、安心して生産を続けられる体制の整備が必要だ。
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2020年12月15日
5
中山間農業の支援 畦畔管理に焦点当てよ
高齢化と人手不足で、中山間地域では畦畔(けいはん)管理の困難さが増している。ロボット農機など技術革新は進む。しかし、小規模で未整備の水田をはじめ同地域の農業の課題は、科学の力だけでは解決できない。洪水防止を含む農業の多面的機能を正しく評価し、受委託の体制づくりなど畦畔管理に焦点を当てた施策が必要だ。
農水省によると、耕地面積に占める畦畔率は2019年が全国平均で4%。大規模化が進む茨城県は1・4%、北海道は1・6%と低い一方、中山間地域が多い中国地方は5県平均が8・9%で、岡山、広島、山口の3県は9%を超える。
畦畔率が高いほど作物を育てる面積は減る。10ヘクタール規模の経営なら農地に占める畦畔は北海道では16アールだが、広島県は94アールだ。規模は同じでも耕作面積に大きな差が出る。畦畔率が高いほど1区画当たりの圃場(ほじょう)も小さい。管理する圃場が多ければ、農機の出し入れなど作業の連続性が妨げられる。
除草など管理にも多くの労力が必要だ。中山間地域の畦畔は急傾斜が多く、農作業事故のリスクも高い。非効率で労力、時間、コストがかかる畦畔。企業なら一番に切り捨てられる不採算部門だが、自分の経営だけでなく地域社会にも影響し、管理は手抜きができない。雑草繁茂は病害虫の発生源になるばかりか、鹿やイノシシの隠れ場所として鳥獣害を助長する。畦畔がもろくなり、保水力の低下や土砂災害などの危険性も生じる。
中山間地域等直接支払いをはじめ日本型直接支払いの加算措置の拡充や、棚田地域振興法の制定など、中山間地農業の支援政策は進んできた。しかし畦畔管理にかける労力が不足している。特に地権者に管理を頼っていた集落営農組織では深刻だ。
日本版衛星利用測位システム(GPS)の整備などにより、農機が自動で高精度な作業を行うスマート農業が国の主導で実用化され、日本の農業は大変革期を迎えた。農業者が高齢化、減少する中、正しい選択の一つと言える。ただ、農業の課題の全てを解決するのは難しい。
また、利益追求型の企業的農業を志す農業者もいれば、伝統や文化、先祖から受け継いできた土地を守り、家族と過ごすことを大切したいと考える農業者もいる。求められるのは、どこでも農業が続けられる環境だ。
農地は、食料生産の他、国土の保全、水源の涵養(かんよう)、環境保全、良好な景観の形成、文化の伝承など多面的機能を持つ。局地的な豪雨や台風の大型化など自然災害が常態化している中、貯水をはじめ水田の機能は、水害の緩和など防災の観点からも注目されている。
中山間地域の畦畔管理は、もうかる農業の追求だけでは難しく、地域住民の努力だけでは限界がある。災害が多い今こそ、事業として請け負う人材や組織・会社の育成・支援など、踏み込んだ施策を求めたい。
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2020年09月23日
6
米不作と転作拡大 営農継続できる政策を
2020年産水稲の作柄(9月15日現在)が、西日本では平年並みを下回る県が多い。トビイロウンカの発生や台風が影響した。過剰の見通しから21年産で国は、大幅減産が必要になる適正生産量を示した。水田は農業だけではなく、暮らしを支える基盤だ。営農継続に希望が持てる米政策を求めたい。
西日本の20年産米は、過去10年で最悪といわれるトビイロウンカの大発生や、九州を中心に9月に接近した二つの台風などの被害を受けた。特に山口県は作況指数83の不良となった。九州北部も作況が落ち込んだ。
茎から養分を吸い、稲を枯らすトビイロウンカは13、14、19年にも大発生し、13年の被害見込み金額を農水省は105億円と試算する。20年は11府県が警報を出し、過去10年で最多。注意報を含め24府県が防除の徹底を呼び掛けたが、田の一部が枯死する「坪枯れ」だけではなく、全面が枯れた田が多発した。
トビイロウンカはベトナム北部で周年で発生し、春に中国に移動して増殖、南西風に乗って日本に飛来する。今年は、中国での発生が多い上に、長梅雨で飛来数も多かったことが、日本での大発生の原因とされる。
米作りはウンカとの闘いでもある。享保17(1732)年の大飢饉(ききん)は有名で、江戸時代から国を挙げて対策をとる。防除の歴史は長いが、気候によって飛来数が変わるため、トビイロウンカは発生量の予測が難しい。近年は中国やベトナムで防除薬剤が普及し、薬剤耐性を考えた防除が求められる。
国は、21年産の主食用米の適正生産量を679万トンに設定した。20年産の生産量よりも56万トン、面積換算で10万ヘクタール程度の減産が必要になる。病害虫や気象災害と闘い、それでも不作となったことで農業者は心をすり減らしている。大幅な転作拡大だけが迫られると、営農意欲の減退を招きかねない。
農業者の高齢化や労働力不足に加え、病害虫や気象災害の頻発などで米作りの環境は厳しい。中国地方では、作り手の不足で米の作付けが減る地域も出ている。耕作が放棄されれば地方の基幹産業である農業が衰退し、地域経済も冷え込む。
水田は地域社会にとっても重要だ。豪雨被害が増え、治水対策の一つに「田んぼダム」が注目される。一時的に大雨を水田に蓄え、下流への急激な水の流れを遮断する。貯水機能を高める取り組みだ。水田の多面的機能の低下は暮らしを脅かす。
国が推進してきた飼料用米や飼料用稲の生産が、トビイロウンカ発生の一因との指摘もある。コストを抑えるため、見回りや防除が不十分になるという。
米価の安定には転作拡大は避けられない。しかし地域の経済・社会を維持するためにも、水田を荒廃させてはならない。米政策を巡る政府・与党の論議が本格化する。主食用米と転作を通じて、安心して水田農業ができる支援策が必要だ。
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2020年10月25日
7
命のインフラ 地域食料システム築け
新型コロナウイルス禍は、安定的な食料生産・流通システムの重要性を改めて国民に突き付けた。災害や感染症などに備え、農業生産や物流が途絶えることがないよう地域の食料システムの構築を急ぐべきだ。
食料システムとは、生産、加工、流通、消費が、相互に関連し合う経済活動を指す。産地と消費地の距離が遠ざかる今、川下から川上をつなぐシステムが機能することが、重要な社会基盤となっている。食料システムは命のインフラと言っていい。
近年、東日本大震災をはじめ甚大な災害が相次ぐたびに、食料、電気、水道などのライフラインが寸断され、生活や産業を直撃してきた。中でも食料のサプライチェーン(供給網)が途絶えることは、命に直結する。
そこにコロナ禍である。感染リスクの高まりと人の移動制限は、人手不足にあえぐ農業生産基盤の脆弱(ぜいじゃく)さを浮き彫りにし、流通も苦境に陥れた。生産・流通現場の人々は、こうした危機にあっても、懸命にわが国の食と農を支えている。だが、「食料パニック」を防ぐには、現場の努力だけでは限界がある。
今回の事態を踏まえ、ナチュラルアートの鈴木誠代表は、日本農業新聞への寄稿で「1次産業から流通・物流・加工などまでサプライチェーンを一体化し、縦割りを超えた構造改革が不可欠だ」と指摘する。
大事な視点は、災害などのリスクを前提に、いかにレジリエンス(回復力)を強めるかだ。そこで参考になるのが、新山陽子立命館大学食マネジメント学部教授が提唱する「地域圏食料システム」構想である。新山氏は、本紙で「地域の状況にあった食料政策の立案、農業政策との結合」を提起。農業サイドだけでなく、食品製造、流通、給食事業者、自治体、生活者など食料システムに関わる全ての関係者が知恵を出し、解決策を探るよう促す。
災害時を想定し、生産から消費に至る流れがどこかで目詰まりしても地域内でバックアップできる仕組みづくりや、多様な応援態勢を、平時から準備しておくことが市民生活の維持には欠かせない。こうした「地域圏食料システム」の構築が、災害からの早期復旧にもつながる。
農水省は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)などの観点から「みどりの食料システム戦略」の検討に着手。野上浩太郎農相は「今後、SDGsや環境への対応が重要となる中、農林水産業や加工流通を含めた、持続可能な食料供給システムの構築が急務」と述べ、来年5月ごろまでの策定を指示した。サプライチェーンの各段階で、技術開発や生産体系の見直しを進める考えだ。食料供給の危機管理としても有効な政策である。
気候変動や感染症などのリスクに備えた食料システムは、今や各国共通の課題である。日本からその先進モデルを発信していくべきだ。
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2020年11月12日
8
種苗法改正案 保護と権利 バランスを
今国会で審議中の種苗法改正案は、優良品種の海外流出を防ぎ、開発者の権利を保護することが目的である。一方で、登録品種の自家増殖に許諾制を導入することには、疑問や異論もある。知的財産の保護と農家の「種の権利」のバランスをどう取り、農業振興につなげるか、徹底審議を求める。
同改正案は先の通常国会に提出されたが、新型コロナウイルス対応などで審議時間が取れず、今国会に持ち越していた。衆院で本格審議が始まったが、改めて論点も見えてきた。
改正の背景には、日本が長年にわたって開発してきたブランド品種の海外流出問題がある。現行法では、正規に販売された種苗の海外への持ち出しは禁じられていない。改正案は、品種の開発者が、輸出先や栽培地域を指定できるようにし、違反した場合に育成者権の侵害を認定し刑事罰を問いやすくする。
こうした市中流通ルートに加え、農家の自家増殖にも許諾制の規制をかける。現在は登録品種であっても農家は原則自家増殖ができる。種や苗を次期作に使うことは国際的にも認められた「種の権利」である。現行法でも自家増殖した種苗の海外への持ち出しは違法だが、なぜ登録品種全般に許諾制の網をかけるのか。農水省は、品種開発者が増殖の実態を把握することで、流出時に適切な対応ができると説明。違法流出の立証が容易になり、刑事罰や損害賠償請求をしやすくなるとも指摘する。あくまでも流出防止のための規制で「種の権利」に対する侵害ではないとの立場だ。
だが、許諾制による管理強化がどれほど流出防止に実効性があるのか、国会審議を通じてさらなる説明が必要だ。欧米では、登録品種であっても主要作物の一部に自家増殖を認めるなど例外規定がある。日本でも柔軟な対応を求めたい。
流出防止の核心は、同省も認めているように輸出国での品種登録だ。海外での品種登録はコストや申請手続きなどハードルが高い。同省は登録経費の支援などを行っているが、海外での育成者権の行使に向け包括的な支援の充実こそ急務だろう。
農家が不安を抱く自家増殖の許諾料について同省は、営農の支障になる高額な設定にはならないと説明する。民間種苗会社も農研機構や都道府県の許諾料水準を参考にすると指摘。品種の太宗はこれまで通り自家増殖ができる一般品種であり、経営判断で選択できるとして不安を打ち消す。
だが企業による種苗の寡占化が進めば、将来負担増にならないと言い切れるのか。許諾料の上昇に対する歯止め規定も検討すべきだ。許諾手続きの事務負担が増えないよう簡素化や団体代行も進めたい。
改正案は「食料主権」に関わる内容を含むだけに、幅広い利害関係者の意見もくみ取りながら、将来に禍根を残さない慎重かつ徹底した審議を求める。
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2020年11月16日
9
SDGsと農業 多様な連携で理解増進
国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて、企業や組織、団体などの間で連携が進む。農業分野では早くから、農業者やJAがSDGsに即した営農や事業を展開。地域ぐるみを含めて連携を拡大し、取り組みを広げよう。
SDGsでは「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「気候変動に具体的な対策を」など、国連が2030年までに達成すべき17の目標を掲げ、16年から推進。目標の17が「パートナーシップで目標を達成しよう」。国や自治体、企業・事業者、団体、個人などさまざまな段階での連携の必要性を強調している。
政府はジャパンSDGsアワードを設け、先進的で優れた活動をする企業や団体を表彰している。昨年、内閣総理大臣賞を受賞した福岡県の魚町商店街振興組合は、商店街として「SDGs宣言」を行い、ホームレスや障害者の自立支援に取り組む。また飲食店などと協力、「残しま宣言」のステッカーを掲示し客に食べられるだけ注文するように求めたり、規格外野菜を販売したりして、食品ロスの削減や地産地消を推進する。
SDGsパートナーシップ賞を受賞した日本リユースシステムは、古着を回収し開発途上国に安価で提供する仕組みを構築した。回収用容器の利用者への発送は福祉作業所に委託する。途上国では選別・販売のための雇用を創出。事業として行うことで継続的支援につなげる。
同アワードの受賞者に限らず連携は進み、農業者と企業の間でも見られる。横浜市で肉牛と乳牛を飼養する小野ファームは、外食チェーンの東和フードサービスから、生パスタの製造で生じる端材の提供を受け、飼料として利用する。同社はコストをかけて端材を処分していたが、この食品リサイクルでSDGsの達成を目指しており、同ファームが一翼を担う。
企業などがSDGsを事業に取り込む背景には「エシカル(倫理的)消費」への意識の高まりがある。社会や環境などに配慮した商品などを購入する消費行動を指し、SDGsと重なる。消費者庁の19年度の調査では、同消費につながる商品などについて「購入経験があり今後も購入したい」「購入したことはないが今後は購入したい」が計81%で、前回16年度調査より19ポイント増えた。そうした商品の提供は企業イメージの向上につながるとの回答も80%で、企業価値を高めることも期待される。
農業分野は以前から、直売所による地産地消などを推進している。企業や団体との連携も進展。JAは、地場産を販売するインショップをスーパーや生協店舗に設置してきた。障害者らが農作業に携わる農福連携や、食品残さを原料にした飼料「エコフィード」の利用も進む。
SDGsの観点で営農や事業を捉え直し、目標達成を目指し拡大、深化させることが重要だ。農業の価値を高め、国民理解の醸成につなげよう。
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2020年12月13日
10
農地所有法人要件 無理筋の緩和を許すな
農地所有適格法人の議決権要件緩和の是非を巡る規制改革推進会議での検討は、期限まで1カ月余りとなった。同会議が意見を聞いた農業関連法人からは、法人買収や農地転用へ懸念が指摘された。同会議には、株式上場の解禁を視野に要件緩和に誘導しようとの思惑が透けて見えるが、無理筋である。
推進会議の検討課題は、農業法人が円滑に資金を調達する方策である。政府が規制改革実施計画に盛り込み、今年度中に検討し結論を出すとした。
同適格法人の要件について推進会議では①2分の1未満としている農業関係者以外の議決権制限の緩和②株式上場の解禁──の是非が焦点化。農外出資を拡大しやすくするのが狙いだ。これらを認めれば一般企業が経営を支配し、農地を事実上取得できるのと同じになる。
農水省の調査では、農業法人の資金調達の主体は融資だった。同省は、出資による資金調達の課題として、農外議決権を2分の1未満まで認めていることと議決権のない株式の活用が知られていないことを挙げる。これは、現行制度の下でも出資を増やせることを示している。
推進会議の農林水産ワーキンググループ(WG)が昨年12月に行った農業関連法人3社からの意見聴取でも、農業は制度資金が充実し、融資で資金を調達しやすいとの見方が強かった。一方、議決権要件などを緩和すると同適格法人が買収され農地が不正転用されるケースが出てくる可能性とその対策の必要性や、外国資本に支配されれば食料安全保障上問題になることなどについて指摘があった。
WGの委員からも質問の形で、敵対的買収で外国企業に買われることや、企業撤退後の農地荒廃への懸念が示された。
しかしWG座長の佐久間総一郎日本製鉄顧問は、意見聴取後に「選択肢として、上場していく道をもう少し整備することが重要」とまとめた。親会議の推進会議でも「(制度資金は)補助金。これは長続きしない、競争力がつかない」と、出資拡大方策へのこだわりを見せた。
国家戦略特区の兵庫県養父市で認めている企業の農地取得特例の全国展開を関係閣僚の慎重論や与党の反対論を無視し、特区諮問会議の民間議員がごり押ししようとしたことと重なる。
われわれは、農家や、農業者主導の同適格法人といった地域に根差した農業経営に農地所有は限るべきだと主張してきた。農地は地域の貴重な資源であり、農地や水の利用調整をはじめ地域と調和し、農業振興や、自らの暮らしの場である農村の維持・活性化への役割発揮が所有者には求められるからだ。
同適格法人の議決権要件などの緩和は、一般企業による経営支配に加え、農地の資産価値に基づく投機の対象化や、実質的経営者が分からなくなることなどにつながる恐れがある。資金調達の方策は、法人の要件とは分けて論議すべきである。
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2021年02月24日