病害虫図鑑

ホウレンソウ萎凋病 連作避けて土壌消毒
特 徴
ホウレンソウ萎凋(いちょう)病は、フザリウム・オキシスポラム分化型スピナシアエという糸状菌によって引き起こされる土壌伝染性の病害だ。病原菌はホウレンソウに強い病原性を示し、根から感染する。
病害はホウレンソウの生育初期から収穫期まで生育期全般で発生するが、高温時に発生しやすいため、一般に夏から初秋に被害が多く、低温期には少ない。感染すると下葉から黄化してしおれ、生育不良となり最終的には枯死する。しおれた株の根の先端部分や側根の付け根部分は、黒褐色に変色する。
防 除
耐病性品種の作付けを基本とするが、土壌中の病原菌密度が高い土壌では、耐病性品種であっても発病するので注意する。
連作で被害が大きくなる。雨よけ栽培など連作が前提の場合は、クロルピクリン薫蒸剤、土壌還元消毒、太陽熱消毒等による土壌消毒を実施する。収穫後の残根は次作の伝染源になるので、持ち出して処分する。
シロザやアカザなどの雑草は、病原菌を保菌している場合があるので、圃場周辺の除草に努める。本病は酸性土壌で発生しやすいので、土壌の水素イオン指数(ph)をホウレンソウ栽培に最適な6.5~7.0程度に矯正する。
(岩手県農業研究センター環境部病理昆虫研究室主任専門研究員・岩舘康哉)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2013/10/30
一覧ペー ジへ戻る
2013年10月30日

チャノホコリダニ 除草に努め早期発見
特 徴
チャノホコリダニの成虫の体長は雄で0.2ミリ内外、雌で0.25ミリ内外、体色は淡黄緑色である。日本全国に分布し、ナスやピーマン類の他、多くの野菜類、花き類などで発生が見られる。
発育は非常に早く、25~30度では卵から成虫になるまでの所要日数は5~7日、1雌当たりの産卵数は50個程度だ。露地栽培では8、9月に多いが、施設栽培では周年発生し、被害発生も露地栽培に比べて多い。成虫は新芽の伸長とともに、生長点や若葉に移動し、葉では裏面に多く寄生する。
ナスでは、寄生を受けると、葉は奇形となり、葉縁が裏側に巻き込み、葉裏は淡褐色に変色し、生長点は心止まり症状となる。果実では加害部がさめ肌状を呈し、灰褐色に変色する。
ピーマン類では、発生初期には展開直後の葉の周辺部がやや裏側に湾曲する症状を呈し、密度が高まると生長点が縮れて新葉の展開が抑えられ、心止まり症状となる。また、幼果が寄生を受けると褐変コルク化し、生育は止まる。
防 除
野外ではスベリヒユ、クローバーなどの雑草が発生源の一つと考えられるので、圃場周辺の除草に努める。圃場内では、最初に一部の株で発生し、管理作業などで拡大していく場合が多い。被害が見られた株の周辺では、外見上健全であっても既に寄生されていると考えた方がよい。
多発後の対策では樹勢回復に時間がかかることから、早期発見に努め、少発生のうちに有効な薬剤で防除を徹底する。
(高知県農業技術センター生産環境課チーフ=昆虫担当・下元満喜)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2013/10/16
一覧ペー ジへ戻る
2013年10月16日

イネごま葉枯病 土づくり中心に軽減
特 徴
イネごま葉枯病は、苗や本田期の葉、穂に発生する糸状菌病害だ。全国で発生が見られるが、問題となる地域は限られている。
本田発病が主体で、葉では暗褐色楕円(だえん)形斑点ができる。穂では穂軸や枝梗(しこう)などが、あめ色に変色する穂枯れ症状となり、最大で20%程度減収する。伝染源は保菌種子や前年の被害稲わら。夏期の高温は病原菌の増殖や稲体の消耗による抵抗力低下を促進して発病を助長する。
窒素やカリ、鉄、マンガン、ケイ酸などの欠乏により発病が増える。特に砂質浅耕土などの「秋落ち水田」では、これらの土壌養分が流亡しやすく、鉄不足により硫化水素の害が軽減されないため、養分吸収が妨げられる。
防 除
土壌条件や栽培管理と発病が密接に関連するため、土づくりを中心とした耕種的防除が重要となる。客土、堆肥施用などで土壌の保肥力を高め、土壌診断に基づいて鉄などの欠乏養分を補給する。また、深耕を進め、適切な中干しや水管理で硫化水素の発生を抑え、根の活力を維持する。常発地では耕種的防除と薬剤防除により被害を抑制する。
(新潟県農林水産部経営普及課農業革新支援担当・堀武志)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2013/10/9
一覧ペー ジへ戻る
2013年10月09日

ハクサイダニ 連作避けて除草管理
特 徴
ハクサイダニは、露地ハクサイで被害が多く見られていたが、近年は福島県内ではビニールハウスのシュンギクに被害が見られている。本種はムギダニ同様、ミドリハシリダニ科のダニだ。
加害植物は小松菜、ハクサイ、水菜などのアブラナ科の他にシュンギク、ホウレンソウなどだ。加害された作物の葉は銀白色を呈する。幼苗期に多数の寄生があると枯死してしまうこともある。
発生回数は年1、2回といわれている。福島県での無加温ビニールハウスでの成虫発生は、1回目が11月中旬から12月、2回目は1月下旬以降だ。2回目の成虫が産んだ卵は休眠卵であり、休眠卵は土壌中で夏を越す、いわゆる夏休みをする。
防 除
防除時期は成虫が発生する12月以降と考えられる。これまでの試験結果では、合成ピレスロイド剤など数種の薬剤で効果が認められているが、適用のある登録農薬はない。
対策には、前年に多発した圃場で連作を避ける。周辺雑草にも寄生するため、これらが発生源とならないように除草管理を実施することが重要だ。
(福島県農業総合センター生産環境部専門研究員・荒川昭弘)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2013/10/2
→ 一覧ページへ戻る
2013年10月02日

トマト褐色根腐病 連作避け根残さ除去
特 徴
トマト褐色根腐病は、病原糸状菌ピレノケータ・リコペルシシによって引き起こされる難防除の土壌病害。トマトだけに発生し、全国で確認されている。
根が褐変し、細い根は腐敗消失して太い根だけとなる。太根の褐変部位は松の根状にコルク化して表面に多数の亀裂を生じる。地上部では着果負担が掛かり始める時期に、しおれや黄化を呈するようになるが、維管束褐変は認められない。本州では病勢が進むと激しい萎凋(いちょう)症状、中段果房の着果不良など大きな被害となる。北海道では枯死に至ることはまれだが、果実が小玉化するなど収量に影響し被害となる。
根部の発病は低温期に進行し、特に生育前半が低温で経過する作型で被害が大きい。
防 除
トマトの連作を回避する。病原菌は被害根残さなどと共に土壌中で生存するため、作付け終了後に根部残さを除去する。
薬剤による土壌消毒の他、土壌還元消毒や太陽熱消毒が有効だ。本病に耐病性を持つ台木品種を利用した接ぎ木栽培を実施する。
北海道では定植10日前までに、ふすまを10アール当たり500キロ、発生程度の低い圃場は250キロ施用することで、定植後2カ月間の発病軽減効果が認められている。ただし、栽培終了時までの発病抑制効果は期待できず、他病害虫への影響は不明。土壌還元消毒直後の栽培には不可だ。
(北海道立総合研究機構花・野菜技術センター生産環境グループ研究主査・西脇由恵)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2013/9/18
一覧ペー ジへ戻る
2013年09月18日

ダイコンアブラムシ 葉の脱色目印に防除
特 徴
アブラナ科の野菜を加害するカメムシ目アブラムシ科の害虫で、日本全国に分布する。ダイコンアブラムシという和名だが、ダイコンよりはむしろキャベツやナタネなどで多い。
春先に繁殖が著しくなり、4、5月ごろに密度が最も高まる。夏季は、キャベツの苗などにわずかに見られる程度で、発生は少ない。秋季にはダイコン、キャベツ、ハクサイなどに見られるようになる。
体は暗黄緑色~濃緑色で、体全体が白粉で覆われている。成虫(羽のない胎生雌)の体長は2.2~2.5ミリだ。キャベツでは葉裏に群生し、葉が黄変し、結球が遅れ、小さくなる。ナタネでは花穂に群生し、花柄や、さやを吸汁加害し、子実の収量が減少する。ダイコン、ハクサイでは葉が縮れる。
防 除
薬剤では、播種(はしゅ)時、定植時に施用する粒剤や、生育期の散布剤などがある。キャベツなどで本種のコロニーが大きくなると葉が端から大きく巻いてしまうため、散布薬剤が直接かからず、浸透移行性のない薬剤の場合、効果が出にくくなる。キャベツでは、コロニーの小さな時期から葉の脱色が生じるので、こうした株を見つけたら防除のタイミングだ。
一方、苗床などでの物理的防除法としては、0.6ミリ目合い以下の防虫ネットが有効だ。この目合いの防虫ネットは、本種の他にも、アブラナ科野菜に発生するニセダイコンアブラムシ、モモアカアブラムシ、コナガやキスジノミハムシなどの対策にもなる。
(農研機構・中央農業総合研究センター病害虫研究領域主任研究員・長坂幸吉)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2013/9/11
一覧ペー ジへ戻る
2013年09月11日

カキ炭そ病 病斑や徒長枝を除去
特 徴
カキ炭そ病はコレトトリカム・グロエオスポリオイデスと呼ばれるかびの一種によって引き起こされる病気だ。この病気は、枝、果実に黒色の病斑をつくる。特に果実に発生した場合は、外観が大きく損なわれるために商品価値が失われるとともに、早期落果を引き起こす。
病原菌は枝の病斑などで越冬し5月以降、胞子によって新梢(しんしょう)への感染が始まる。新梢には黒色の病斑ができ、病斑上に形成された胞子が再び分散し感染を広げる。新梢の病斑は枝が硬くなるに従って楕円(だえん)形、黒色でややくぼんだ、火であぶられたような外観になる。
果実に感染すると収穫期が近づくにつれ、黒色、大型でややへこんだ病斑ができる。胞子は雨とともに分散するので、梅雨や秋の長雨、台風によって発生が助長される。
防 除
新梢にできた病斑が当年の果実に対する伝染源となるため、枝の管理に注意する。すなわち、徒長枝に病斑を見つけた場合にはすぐに除去するとともに、余分な徒長枝は感染を防ぐ目的で随時切除する。剪定(せんてい)時にも注意深く観察し枝にできた病斑の除去に努める。
薬剤は、ジチアノン剤、マンゼブ剤、有機銅剤、ストロビルリン剤、DMI剤など多くの殺菌剤が登録されている。薬剤散布は新梢が伸び始める5月中旬から開始する。果実に対しては8月下旬~9月が重点防除時期となる。
(農研機構・果樹研究所ブドウ・カキ研究領域上席研究員・須崎浩一)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2013/9/4
→ 一覧ページへ戻る
2013年09月04日

マメハンミョウ 耕うん、寄主植物除く
特 徴
マメハンミョウはコウチュウ目ツチハンミョウ科で、本州以南、中国、台湾に分布する。
成虫は植食性で、大豆、クズなどのマメ科、ナス、トマト、イヌホオズキなどのナス科、その他多くの植物の葉や花を摂食する。幼虫は肉食性で、イナゴ、バッタ、ツチバチなどの卵を食し土中で越冬する。このため成虫は夏に水田畦畔(けいはん)や土手、道端のイヌホオズキや雑草に群がる。稲は加害しない。
成虫は年1回、7月後半から9月に出現。成虫は長さ11~19ミリ、幅3~5ミリ。体と脚は黒色、上翅(じょうし)には白い縦筋が入るが、不鮮明な個体もいる。頭部は赤色、複眼の内側と口器の周囲は黒色。触角は黒色で前脚の長さに匹敵し、雄はのこぎり歯状、雌は糸状。卵は楕円(だえん)形で大きさは長さ3ミリ、幅1ミリ、黄白で表面に光沢がある。5齢幼虫は擬蛹(ぎよう)状で6齢を経て蛹化し、さなぎは約15ミリ長、黄白色、複眼黒色。
成虫は日中活動し、午後盛んに活動する。羽化後4、5日で交尾し、土中に70~150卵粒の卵塊を産卵する。卵期は18~21日。成虫寿命は30~35日。暖冬少雨年に多発する。
防 除
防除幼虫が土中で越冬するので冬に数回耕うんし幼虫やさなぎを減らす。土手や畦畔、畑地などで寄主植物のイヌホオズキを見かけたら除去する。
成虫は大豆、小豆、エンドウマメ、インゲンマメ、サヤエンドウ、サヤインゲン、エダマメの葉を食害するので捕殺する。多発例は少ないが、多発時は登録剤のマラソン粉剤をスポット的に施用し防除する。
(東京農業大学客員教授・法政大学兼任講師・平井一男)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2013/8/28
一覧ペー ジへ戻る
2013年08月28日

キュウリ疫病 土跳ねの防止が有効
特 徴
キュウリ疫病は、それほど発生は多くないが、水はけの悪い圃場で地上部の茎、葉、果実に発生する。いずれの部位でも水浸状の病斑が形成、拡大され、乾燥すると病斑部がくぼむ。茎では地際部に発生しやすく、乾燥するとくびれて褐変し、上部が萎凋(いちょう)・黄化する。高湿度条件が保たれると、病斑上に霜状の白色の菌叢(きんそう)を生じる。
病原菌は土壌中の植物残さなどで生存し、水により媒介され、高温多湿時に発生しやすい。病原菌種は2種報告されており、一種は多犯性で多くの作物を加害するが、もう一種はウリ科植物のみに感染する。灰色疫病も同類の病原菌によるものであり、発生の特徴も似ている。
防 除
高畝など耕作土壌の排水を良くすることが有効である。また、かん水、降雨などによる土壌の跳ね上がりを防ぐマルチ、敷きわらなども有効である。
水中を積極的に泳ぐ遊走子により伝染し、大雨で圃場がたん水した場合などには圃場全体に急速に拡がるため、予防に努める。発生が激しい場合には、クロルピクリンを用いた土壌消毒により病原菌密度を下げ、次作での発生を防ぐ。茎葉には、ジチアノン・銅水和剤とマンゼブ水和剤が散布できる。
(農研機構・野菜茶業研究所野菜生産技術研究領域主任研究員・窪田昌春)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2013/8/14
一覧ペー ジへ戻る
2013年08月14日

コアオハナムグリ 発生把握して殺虫剤
特 徴
コアオハナムグリは、体長10~15ミリの小型のハナムグリだ。背面の体色は緑色で白い斑点がある。全国各地に広く分布して、さまざまな植物の花を訪れる。かんきつでも開花に合わせて飛来し、花を訪れた成虫が花粉や蜜を食べる際に、頭部を花の内部に潜り込ませ、脚で子房(果実になる部分)を傷つける。この時の傷が果実肥大後の果皮に線状の傷害痕として残り、外観上の被害となる。
中晩かん類で被害が発生しやすい。4月中・下旬に越冬後の成虫が出現して交尾産卵し、晩春から夏にかけて幼虫は土壌中の腐植を食べて成長し蛹化(ようか)する。8~10月には新成虫が羽化し、短い活動期間の後に越冬する。5月と9月に成虫の発生ピークが見られるが、前者は越冬成虫、後者は新成虫による。
防 除
成虫は、かんきつ園周囲の樹林地等から飛来するため、園内外の白い花を定期的に観察して発生状況を把握する。
防除では殺虫剤を散布する。少発生の時は温州ミカンでは開花初期に1回、中晩かんでは開花盛期に1回散布する。多発生の時は開花初期と盛期に2回散布する。かんきつの開花期にはミツバチも活動しているため、付近の養蜂に注意してミツバチに悪影響が生じないように配慮する。
(農研機構・果樹研究所カンキツ研究領域上席研究員・望月雅俊)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2013/8/7
→ 一覧ページへ戻る
2013年08月07日
病害虫図鑑アクセスランキング
1
ウメ黒星病 開花前早期に薬剤を
特 徴
ウメ黒星病は、病原糸状菌クラドスポリウム・カルポフィラムによって引き起こされる梅の最重要病害だ。本病は主に果実や新梢(しんしょう)に発生し問題となる。
病原菌が感染してから発病するまでに約30日を要するのが特徴で、果実では果梗(かこう)周囲から発病し、果実の肥大に伴って2ミリほどの明瞭な病斑となる。多発すると病斑が互いに癒合して大型病斑となり、果実の商品価値が著しく低下する。
病原菌は枝の病斑部で越冬する。春になり気温が上昇すると越冬病斑部に分生胞子を形成し、これが雨滴と共に飛散して果実に感染する。このため、開花期以降に雨が多い年は多発しやすく、特に注意が必要だ。また、本病に対する抵抗性には品種間差が認められ、「古城」「織姫」「新平太夫」は本病に強く、「豊後」「紅サシ」「南高」は弱い。
防 除
本病の防除には薬剤防除と耕種的防除が必要だ。薬剤防除は開花前の早い時期から石灰硫黄合剤を散布し、その後、新葉が展開し新たな感染が始まる時期から殺菌剤散布を行う。特に4月上旬から5月上旬の幼果期が重点防除時期だ。
また、園内の過密による通風不良や日照不足は発病を助長するため、適正な栽培管理を図る必要がある。冬の剪定(せんてい)作業を通じて罹病(りびょう)した枝を取り除き、伝染源の密度を下げることも大切な防除対策の一つである。
(農研機構・果樹研究所品種育成・病害虫研究領域上席研究員・中畝良二)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2013/6/5
→ 一覧ページへ戻る
2013年06月05日

2
ブドウ黒とう病 発芽前から防除必要
特 徴
ブドウ黒とう病は、エルシノエ・アンペリナと呼ばれるかびの一種が引き起こす病害だ。ブドウ産地で全国的に発生が見られる。一般的に米国系品種よりも欧州系品種で発生が多い。生育期前半が低温、多雨で経過すると発生しやすい。
本病は枝、葉、果実に発生する。組織が若い時期には被害を受けやすいが、硬化すると被害を受けにくくなる。
葉では小さな円形で黒褐色の斑点が葉脈に沿って並んで生じる。病気が進行すると斑点の中心に穴が開き、葉全体がゆがんだようになる。
新梢(しんしょう)には灰色~黒褐色の斑点が並んで生じ、病気が進行すると生育が止まり枯死する。
果実には中央部が灰色、その周囲が赤褐色の病斑を生じる。この病斑は鳥の目に似ていることから、本病は「鳥目病」ともいわれる。
防 除
先に述べたように、本病が問題になるのは枝や葉などの組織がまだ柔軟な生育期前半だ。このため、発芽前からの防除が必要となる。
発芽前にはジチアノン剤、ベノミル剤、TPN剤などを1回散布する。また前年の被害枝や巻きひげを除去する。
生育期には袋掛け前までマンゼブ剤、ジチアノン剤、キャプタン剤などを散布する。被害を受けた新梢は除去する。
伝染源は雨滴と共に飛散することから、ビニールで屋根掛けを行うことも効果的だ。
(農研機構・果樹研究所ブドウ・カキ研究領域上席研究員・須崎浩一)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2013/3/13
→ 一覧ページへ戻る
2013年03月13日

3
ハクサイダニ 連作避けて除草管理
特 徴
ハクサイダニは、露地ハクサイで被害が多く見られていたが、近年は福島県内ではビニールハウスのシュンギクに被害が見られている。本種はムギダニ同様、ミドリハシリダニ科のダニだ。
加害植物は小松菜、ハクサイ、水菜などのアブラナ科の他にシュンギク、ホウレンソウなどだ。加害された作物の葉は銀白色を呈する。幼苗期に多数の寄生があると枯死してしまうこともある。
発生回数は年1、2回といわれている。福島県での無加温ビニールハウスでの成虫発生は、1回目が11月中旬から12月、2回目は1月下旬以降だ。2回目の成虫が産んだ卵は休眠卵であり、休眠卵は土壌中で夏を越す、いわゆる夏休みをする。
防 除
防除時期は成虫が発生する12月以降と考えられる。これまでの試験結果では、合成ピレスロイド剤など数種の薬剤で効果が認められているが、適用のある登録農薬はない。
対策には、前年に多発した圃場で連作を避ける。周辺雑草にも寄生するため、これらが発生源とならないように除草管理を実施することが重要だ。
(福島県農業総合センター生産環境部専門研究員・荒川昭弘)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2013/10/2
→ 一覧ページへ戻る
2013年10月02日

4
ウメかいよう病 防風、病斑除去が有効
特 徴
ウメかいよう病は細菌を病原とする梅の重要病害である。果実、葉、枝のいずれにも発生し、果実では周縁部が赤紫色の小さな病斑と黒色、水浸状で径2~10ミリに達するへこんだ病斑の2種類を生ずる。
果実病斑の発生時期は主に4月中・下旬(果実肥大期)から収穫期まで。発病程度は気象条件に左右され、3月下旬から4月下旬に強風雨を伴う日が多いと果実での発病が多くなる。また、地形や防風施設の有無などの園地条件も発病に大きく影響する。
第一次伝染源は3月上旬から4月上旬にかけて2年生枝に形成される潜伏越冬病斑であり、降雨があると病原細菌が流れ出し、葉や果実に感染する。潜伏越冬病斑の多少は、特に初期の果実発病に影響する。
第二次伝染源は葉や果実の病斑で、形成後21日以上、病原細菌が流れ出し、生育期の果実発病に大きく影響する。
防 除
本病は薬剤以外の防除の重要性が高く、防風ネット、防風垣の設置や潜伏越冬病斑の剪除(せんじょ)などが被害軽減に有効である。
薬剤防除として和歌山県では、発芽前(落弁期)に無機銅剤を散布し、発芽後は10日~14日間隔で3回抗生物質剤を散布するよう指導している。なお、抗生物質剤は強風雨の直前の散布で防除効果が高いため、気象予報に十分注意して散布するとよい。
(和歌山県農林水産総合技術センター果樹試験場うめ研究所研究員・武田知明)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2011/09/28
→ 一覧ページへ戻る
2011年09月28日

5
モモ灰星病 袋掛け前に殺菌剤を
特 徴
モモ灰星病は糸状菌(かび)による病害で、桃だけでなくオウトウ、スモモ、アンズなどの核果類にも発生し、世界各地の桃産地に分布している。
本病は主に桃の花、果実、枝に発生する。花では落弁後にがく全体が褐色に腐る。枝では、ややへこんだ褐色の病斑を生じてヤニを分泌し、新芽が枯れたり、先枯れを起こしたりする。幼果では褐色になって落果したり、ミイラ状に腐って樹上に残り、発病枝とともに翌年への伝染源となる。成熟果では着色期以降に発病することが多く、淡褐色で丸い病斑が数日で果面全体に広がる。出荷後の流通段階の果実に発病することもある。
病原菌は比較的低温(15~27度)を好み、多湿によって繁殖しやすいので、開花時期や梅雨から収穫期に曇雨天日が多いと発病も多くなる。
防 除
発病した花、果実、枝には病原菌が繁殖して伝染源となるので、摘み取って処分する。また、無袋栽培では発生が多くなるので、果実袋を掛ける。
薬剤防除は、花腐れの予防として開花始めから落弁期に、果実腐敗の予防として果実の肥大期から袋掛け前に重点を置いて殺菌剤を散布する。無袋栽培や成熟果の着色促進のために除袋する栽培では、着色期から収穫前の防除も重要だ。モモ縮葉病やスモモふくろみ病の病斑上にも灰星病菌が繁殖して伝染源となるので、これらの防除も併せて行う。
(岡山県農林水産総合センター農業研究所・病虫研究室・専門研究員・井上幸次)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2011/4/21
→ 一覧ページへ戻る
2011年04月21日

6
カンキツそうか病 通風と採光 改善を
特 徴
カンキツそうか病は糸状菌によって引き起こされ、主にミカンとレモン類で発生する。若い葉が感染するとその部分が盛り上がり、いぼ型に変形した病斑となる。成長した葉に感染すると、かさぶたが硬く広がったそうか型病斑となる。
果実は成長の盛んな5月下旬までに感染するといぼ型、7月から8月中旬までの感染ではそうか型となるが、それ以降は発病しない。幼果が激しく感染すると落果する。軽度の発病でも外観が損なわれるため、商品価値が下がる。若い緑枝も感染するが、そうか状病斑だけが形成される。病原菌は葉、枝、果実の病斑中で菌糸の状態で越冬する。3月中旬から分生子を形成し始め、3月下旬以降に活発化する。雨を介して伝染し、4月から6月、9月に分散が多い。
防 除
伝染源となる越冬病斑を剪定(せんてい)時に除去するとともに、窒素の過剰施用を避けて強健な新梢(しんしょう)を育てる。乾燥しにくい条件で多発するため、園の通風と採光を良くする。
薬剤防除は発芽直後の幼芽期、落花期および梅雨期に行う。春先、発病時期が早く発病程度が高いと被害が大きくなるため、葉と果実への感染が始まる直前の散布が重要だ。発生が少ない場合には梅雨期、あるいは梅雨期と幼芽期の散布を省略できる。
(農研機構・果樹研究所カンキツ研究口之津拠点カンキツ調整監・塩谷浩)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2010/1/14
→ 一覧ページへ戻る
2010年01月14日

7
ソラマメ赤色斑点病 残さ処分、排水良好に
特 徴
ソラマメ赤色斑点病は、葉、茎、さやに発生し、チョコレート斑点病という別名がある。3、4月から発生し始め、4、5月に降雨が続くと激増し落葉する。
輪郭が明瞭な1、2ミリの濃い赤褐色の小斑点を多数生じるのが特徴で、斑点の中央部がややくぼんでいる。斑点が融合して1センチ以上の大型の不整形病斑となり、枯れ込むこともある。茎には表皮が裂けたような縦長の条斑が生じ、若いさやや花にも赤褐色の斑点が発生する。
病原菌はボトリチス・ファーバエという不完全菌類の一種で、分生子と菌核を形成し伝染源となる。菌核は立毛中の株には見られないが、収穫後の被害茎葉中に形成され、次作の第1次伝染源となる。分生子は高湿度条件で病斑上や菌核上に形成され、飛散して発病が拡大する。
防 除
収穫後の残さは次作の伝染源となるので、丁寧に処分するか、堆肥化する。低湿地や排水の悪い圃場で多発する傾向にあるので、排水を良好にする。風通しを図り、急激な肥料切れを起こさないように適度な追肥を行う。
毎年発生が多い圃場では、3月中旬から予防的に銅水和剤(クプラビットホルテ)を散布する。
(地方独立行政法人・大阪府立環境農林水産総合研究所・食の安全研究部防除グループリーダー・主幹研究員・岡田清嗣)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2013/7/31
→ 一覧ページへ戻る
2013年07月31日

8
茎枯病(アスパラガス) 雨をよけ通風を確保
特 徴
アスパラガスの栽培では、最も被害が大きい病害で、病徴は主に2種類ある。一般に見られるのが斑点性の病徴で、茎に紡すい形の水浸状病斑を生じた後、拡大して淡褐色の病斑となる。病斑上には黒色の小粒点が無数に見られる。立茎初期に感染を受けたり、多発条件になると全身症状を呈し、茎が枯れて乾燥枯死したり、茎立数が少なくなる。次第に株全体が弱り、欠株となる。
病原菌はホモプシスという不完全菌類の一種で、病斑上に黒色小粒点(柄子殻=へいしかく)を形成し、中に柄胞子が作られる。これらが放出され、まん延する。越冬は主に残存茎上で柄子殻の形で行われ、主要な伝染源となる。降雨は発病を助長する。胞子の噴出、感染、飛散いずれも水分が必要だ。従って梅雨や秋の降雨の多い時に発生が多い。
防 除
耕種的な防除対策として、露地であれば雨よけにすることが最も効果が高い。さらに伝染源除去のため、栽培終了後、発病茎葉を圃場外へ持ち出し、地面に残った残さは焼却する。栽培中も発病茎葉は速やかに除去する。通風を良くするため適正な立茎数を維持し、老茎や枯れた枝などは除去する。
さらに、株の衰弱を招くような過度の収穫を避ける。薬剤散布は、春収穫打ち切り後の幼茎への防除と、梅雨期および秋雨期の防除が重点となる。立茎開始後、3、4回初期防除した後、定期防除するが、特に降雨後はできるだけ早く薬剤防除する。
(長野県野菜花き試験場環境部研究員・小木曽秀紀)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2010/2/4
→ 一覧ページへ戻る
2010年02月04日

9
そうか病 輪作で対応して
特 徴
土壌中に生息する数種のストレプトマイセス属放線菌を病原体とする土壌病害。ジャガイモで被害が多く、日本全土で発生する。ジャガイモの表面に、周辺が盛り上がって中央が陥没し、直径5~10ミリの淡黄褐色や褐色のかさぶた状の病斑、さらに深く陥没した病斑をつくる。
菌種、ジャガイモの品種、土壌水分、土壌pH(水素イオン指数)などの栽培環境により症状は異なる。症状が似た病害に粉状そうか病、亀の甲病がある。ダイコン、ニンジン、カブ、テンサイなどにもかさぶた状の病斑を作る。
多くの場合、土壌pHが低いと発病しにくく、地温が11~30.5度で発病する。適温は20~22度。乾燥土壌でも多発する。
防 除
種芋消毒した無病種芋を使う。ジャガイモの連作を避け、前作に豆類や野生エン麦など、そうか病軽減効果のある作目を選んで輪作する。
土壌pH5.0を目標に、土壌改良資材を施用する。芋ができる生育初期に、かん水して土壌水分を高める。そうか病が発生しやすくなるので、未熟堆肥(たいひ)の施用は控える。土壌消毒、抵抗性品種を作付けするなどの対策がある。
(北海道農業研究センター寒地地域特産研究チーム主任研究員・小林晃)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2008/5/1
→ 一覧ページへ戻る
2008年05月01日

10
ジャガイモ粉状そうか病 冷涼、多雨年に多発
特 徴
塊茎形成初期から感染が起こる。初めに発生する微小褐色斑点が、白色いぼ状の隆起病斑となり、その後塊茎の成熟に伴って病斑組織は崩壊し、周囲に表皮断片がひだ状に残された特徴的な病斑となる。
本病は塊茎形成期以降に冷涼・多雨の年に多発する傾向がある。放線菌によるそうか病と混同されやすいが、本病は病斑からこぼれ落ちる粉状物中の胞子球を検鏡により確認することや、根部のゴール形成によって判別可能だ。本病菌は絶対寄生菌で、ナス科植物以外にも、アカザ科、アブラナ科などの比較的広範囲の植物の根部に感染する。
胞子球は宿主非存在下でも10年以上生存可能だ。本病菌はジャガイモ塊茎褐色輪紋病の原因ウイルス(ジャガイモモップトップウイルス)を媒介する。
防 除
本病の被害を避けるため、無病種いもを使うことと、発病履歴のある圃場での作付けを避けることが肝要だ。また、4年以上の適切な輪作間隔を維持し、本病が多湿条件を好むことから、圃場の排水性の改善も発病低減に効果がある。
国内の主要ジャガイモ品種間には本病抵抗性に差異が認められ、「男爵薯」「キタアカリ」は弱、「メークイン」「さやか」は中、「ユキラシャ」は強である。化学的防除手段としては、フルアジナム剤、フルスルファミド剤の植え付け前土壌混和処理が有効だ。
(農研機構・北海道農業研究センターバレイショ栽培技術研究チーム主任研究員・中山尊登)
注 意
・記事中の農薬は掲載日時点の登録薬剤です。
・筆者の役職は当時の役職です。
・掲載日:2009/7/23
→ 一覧ページへ戻る
2009年07月23日
