生乳需給と指定団体 協同組合原則の真価 元農水省官房長 荒川隆氏

 例年なら夏休みも終盤だが、今年は春先のコロナ休校のせいで休みが短縮され、2学期が始まっている地域も多かろう。児童・生徒も残念だが、酪農・乳業界も大騒動だった。

 コロナ休校で学校給食用牛乳(学乳)向けの生乳が突然行き場を失い、大問題となったのは半年前だ。その時は、酪農・乳業関係者が協力し、学乳向けの生乳を用途変更し、保存性のある脱脂粉乳やバターに振り向け、何とか事なきを得た。

 その後、4月の緊急事態宣言により外食・中食業者が休業し業務用バターや液状乳製品が過剰になる一方、外出自粛を余儀なくされた家庭の巣ごもり需要で、家庭用バターや牛乳が逼迫(ひっぱく)しかけた。

 とどめは、この夏休みの学校給食継続による学乳向け生乳の逼迫だ。ちょうど乳牛の泌乳量が低下する夏場だから、これまでで最も深刻だ。このような短期的な需給変動を辛うじて吸収し、スーパーや学乳の欠品を防ぎつつ生乳廃棄にも至らなかったのは、酪農・乳業関係者はもとよりその結節点となる指定生乳生産者団体の努力のたまものだ。

 酪農は、単に生乳を供給するだけでなく、資源の乏しいわが国で植物からタンパク質を産み出す持続可能な産業であり、国土保全上も重要な作目だ。他方、牛の生理現象を相手にする以上、搾乳量や乳質が人間の都合で自由になるわけではない。だからこそ、酪農の再生産と乳業の健全な発展は、独り酪農・乳業という民間部門の問題にとどまらず、公的な政策対応の対象となっているのだ。

 全国1万5000戸の酪農家から生乳販売の委託を受ける指定団体は、日持ちせず低温での流通が欠かせない生乳を、全国の乳業メーカーに日々滞りなく配乳している。全国の過半を生産する北海道酪農と、各地に点在する都府県酪農から生乳を集荷し、大消費地近くに立地する乳業メーカーに効率的に配乳することは、難しい方程式を解くようなものだ。まして、この間のコロナ騒動を振り返れば、指定団体なしにこの難局は乗り切れなかったろう。

 学校給食や家庭で毎日何気なく飲まれている牛乳の陰には、全国10の指定団体と広域調整を担う全国連合会の存在が欠かせない。これらの団体は、多数の酪農家が協同組合原則の下に糾合団結した農協組織であり、距離の遠近や離島・中山間地などの立地条件にかかわらず、会員・組合員のため黙々と集・配乳を行っている。これにより、酪農・乳業双方の利益が図られると同時に、社会・経済コストの最小化も実現する。そんな協同組合原則に基づく優れた制度に岩盤ドリルで穴が開けられたことは誠に残念だ。農水省も「いいとこどり」を排除するための事例集を示すなどようやく運用改善の兆しも見られるが、そんな心配の無い制度に立ち返ることこそ必要だ。
 

おすすめ記事

コラム 今よみ~政治・経済・農業の新着記事

検索

e農サーチ e農サーチとは