農業の特定技能「派遣」 広がる 短期雇用も柔軟 手続き負担減
2021年01月19日

ジャガイモの選果施設で高田さん(右)に見守られながら働く特定技能の外国人(北海道浦幌町で)
外国人の新在留資格「特定技能」の農業分野で認められた「派遣」が広がっている。農家は直接雇用に比べ事務手続きなどの負担が少なく、雇用期間を柔軟に調整できる。農繁期が異なる北海道と沖縄など地域間で連携した受け入れも進む。派遣に参入する事業者も増え、専門家は「これまで外国人を入れてこなかった家族経営でも受け入れが広がる」と指摘する。(望月悠希)
畑作が盛んな北海道浦幌町の選果施設。次々とコンベヤーで流れてくるジャガイモを段ボール箱に手際よく詰めるのは、カンボジア人のレム・チャントーンさん(26)だ。「将来は帰国してビジネスを立ち上げたい。分からないことも周りに聞くと、よく説明してくれる」と笑顔で話す。
チャントーンさんらは特定技能の資格を得た外国人。道内各地で農業生産・販売の他、作業受託をする「北海道グリーンパートナー」が、人材派遣会社の「YUIME(ゆいめ)」から受け入れた。
8~10月の農繁期には150人もの人手が必要な北海道グリーンパートナーは、YUIMEからの提案で、技能実習生だった特定技能の派遣を2019年に11人、20年に23人受け入れた。
YUIMEの派遣は、夏は北海道、冬は本州や沖縄で働くのが基本だ。ジャガイモの選果など冬場でも仕事がある場合は、道内で通年で働くこともある。
直接雇用では通年で仕事を用意しないと外国人の受け入れは難しいが、派遣なら必要な時期を決めて契約を結べる。北海道グリーンパートナー代表の高田清俊さん(59)は「外国人にとっても、さまざまな農家で働くことで、より豊かな経験を積むことができる」と評価する。
受け入れ側は面接や入国手続きなど事務負担が少ないのもメリットだ。北海道グリーンパートナーに組合員の農作業を委託するJAうらほろの林常行組合長は「人手不足を解消し、付加価値の高い販売に力を入れたい」と期待する。
一定の技能を持ち、即戦力としての労働が認められている特定技能の仕組みは、19年に始まった。農業分野では、農業者が雇用契約を結び直接雇用する方法と、雇用契約を結んだ派遣業者が受け入れ機関となり農家に派遣する方法の、2種類がある。派遣では、繁忙期の違う地域に季節ごとに人材を送り出せる。
農業分野の特定技能は、制度発足から1年半の20年9月末時点で1306人。農業分野の受け入れ事業者が加入する「農業特定技能協議会」のうち、10社ほどが派遣事業者だ。
YUIMEは、農業分野の技能実習生だった外国人を採用。給料や待遇は日本人と同等の扱いで、現場のリーダーになる人材を育てている。住まいは、受け入れ農家に住宅の敷地内にある持ち家などを用意してもらい、YUIMEが借り入れる。
北海道以外でも派遣は進む。アルプス技研は、2019年4月から特定技能の派遣事業に参入。現在は子会社の「アグリ&ケア」が9道県に49人を派遣する。
JA北海道中央会も、特定技能のあっせん・派遣をする新組織の立ち上げを目指す。北海道稚内市の酪農家・石垣一郎さん(39)が経営する「アグリリクルート」は、21年から派遣事業に乗り出す。
入国手続きや労務管理の一部を派遣事業者に任せられるため、家族経営が外国人を受け入れるハードルが下がった。季節雇用、通年雇用問わず、広がっていくことは間違いない。一方で事業者は、各地に移動する特定技能の外国人の心理的な負担を考慮すべきだ。
外国人材 大きな力
畑作が盛んな北海道浦幌町の選果施設。次々とコンベヤーで流れてくるジャガイモを段ボール箱に手際よく詰めるのは、カンボジア人のレム・チャントーンさん(26)だ。「将来は帰国してビジネスを立ち上げたい。分からないことも周りに聞くと、よく説明してくれる」と笑顔で話す。
チャントーンさんらは特定技能の資格を得た外国人。道内各地で農業生産・販売の他、作業受託をする「北海道グリーンパートナー」が、人材派遣会社の「YUIME(ゆいめ)」から受け入れた。
8~10月の農繁期には150人もの人手が必要な北海道グリーンパートナーは、YUIMEからの提案で、技能実習生だった特定技能の派遣を2019年に11人、20年に23人受け入れた。
YUIMEの派遣は、夏は北海道、冬は本州や沖縄で働くのが基本だ。ジャガイモの選果など冬場でも仕事がある場合は、道内で通年で働くこともある。
直接雇用では通年で仕事を用意しないと外国人の受け入れは難しいが、派遣なら必要な時期を決めて契約を結べる。北海道グリーンパートナー代表の高田清俊さん(59)は「外国人にとっても、さまざまな農家で働くことで、より豊かな経験を積むことができる」と評価する。
受け入れ側は面接や入国手続きなど事務負担が少ないのもメリットだ。北海道グリーンパートナーに組合員の農作業を委託するJAうらほろの林常行組合長は「人手不足を解消し、付加価値の高い販売に力を入れたい」と期待する。
各地で参入の動き
一定の技能を持ち、即戦力としての労働が認められている特定技能の仕組みは、19年に始まった。農業分野では、農業者が雇用契約を結び直接雇用する方法と、雇用契約を結んだ派遣業者が受け入れ機関となり農家に派遣する方法の、2種類がある。派遣では、繁忙期の違う地域に季節ごとに人材を送り出せる。
農業分野の特定技能は、制度発足から1年半の20年9月末時点で1306人。農業分野の受け入れ事業者が加入する「農業特定技能協議会」のうち、10社ほどが派遣事業者だ。
YUIMEは、農業分野の技能実習生だった外国人を採用。給料や待遇は日本人と同等の扱いで、現場のリーダーになる人材を育てている。住まいは、受け入れ農家に住宅の敷地内にある持ち家などを用意してもらい、YUIMEが借り入れる。
北海道以外でも派遣は進む。アルプス技研は、2019年4月から特定技能の派遣事業に参入。現在は子会社の「アグリ&ケア」が9道県に49人を派遣する。
JA北海道中央会も、特定技能のあっせん・派遣をする新組織の立ち上げを目指す。北海道稚内市の酪農家・石垣一郎さん(39)が経営する「アグリリクルート」は、21年から派遣事業に乗り出す。
家族経営も 活用しやすい 北海学園大学の宮入隆教授の話
入国手続きや労務管理の一部を派遣事業者に任せられるため、家族経営が外国人を受け入れるハードルが下がった。季節雇用、通年雇用問わず、広がっていくことは間違いない。一方で事業者は、各地に移動する特定技能の外国人の心理的な負担を考慮すべきだ。
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2021年02月20日
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農業の豪雨対策強化 ハザードマップ作成へ 福岡県
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2021年02月25日

[米のミライ](2) 政策フル活用 飼料用軸に安定経営 10アール15万円めざす 青森県五所川原市豊心ファーム
転作の要となる飼料用米は、高収益を実現できるのか──。全国的に飼料用米の生産量が減少する中で、青森県五所川原市で大規模水田農業を展開する(有)豊心ファームは、飼料用米を基幹作物に位置付け、生産を拡大している。
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2021年02月25日
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今シーズンの狩猟期の前半に当たる2020年秋から20年末までに、鹿とイノシシの捕獲頭数の合計が前年より14%増えたことが農水省の調査で分かった。20年度から始めた、重点地域を設定して捕獲への取り組みを強化する「集中捕獲キャンペーン」に一定の効果があったとみられる。鹿の捕獲数は全国的に増えたが、イノシシには地域差もある。対策を一層強化し、捕獲頭数を底上げできるかが課題になる。
半減目標へ強化課題
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2021年02月25日

[米のミライ](1) 低コスト稲作 生産費 60キロで1万円 全面積直播、効率を追求 岩手県一関市 おくたま農産
米の生産費削減は稲作農家に共通する課題だ。持続的な稲作経営に欠かせない。政府は2023年までに、担い手の米生産費を11年平均の60キロ1万6000円から9600円へと、4割削減する目標を掲げている。生産現場では作業方法の見直しや、直播(ちょくは)などの技術を駆使してコスト削減に奮闘する。
岩手県一関市で水稲を約128ヘクタール栽培する農事組合法人おくたま農産は、米の生産費60キロ1万円を達成する。……
2021年02月24日

優良品種 流出防ぐ 知財戦略見直し 農水省
農水省は、品種やブランド、技術といった農業分野の知的財産の保護や有効利用に向け、2021年度からの5年間の戦略を作る。国産農産物の輸出拡大を進める中、日本の優良品種の海外流出対策を柱とする方針。海外に持ち出された品種が日本に入ってきたり、海外市場で競合相手となったりするのを防ぐ。4月の策定に向け、有識者による検討を進める。
同戦略は07年に策定して以来、おおむね5年ごとに見直している。現行戦略は、特定産地のブランドを知的財産として守る地理的表示(GI)保護制度や海外市場での模倣品対策などが柱。今回は3度目の見直しで、有識者による戦略検討会(座長=渡部俊也東京大学未来ビジョン研究センター教授)の初会合を19日に開き、新戦略の方向性について意見を交わした。
新戦略では、日本の優れた品種や家畜の遺伝資源の海外流出対策に重点を置く方針。政府は農林水産物・食品の輸出額を30年までに5兆円とする目標を掲げるが、輸出がさらに増えれば、優良品種の流出や日本産の模倣品が出回る可能性も高まると同省はみるためだ。
具体策として、4月に一部施行される改正種苗法や、昨年に施行された改正家畜改良増殖法や家畜遺伝資源の不正競争防止法による優良品種や和牛遺伝資源の保護を盛り込む方向で検討。制度開始から5年間で104産品の登録にとどまるGIの一層の普及、スマート農業技術の保護、知的財産に関わる人材の育成なども盛り込む方針だ。
検討会の初会合で委員からは、現場の農家にも施策の重要性を理解してもらえるよう、戦略の周知にも重点を置くべきだとする意見が出た。
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2021年02月24日

林・福 連携で需要を喚起 障害ある人が木工品作り 国産材で小物から家具まで
林業の労働力不足解消と障害のある人の就労促進を目指す「林福連携」が注目を集めている。障害者が木工品などの加工に携わり、国産材の需要を喚起することで、障害者の社会参画につながっている。林野庁では2021年度に初めて予算を確保するなど、取り組みを後押しする。(宮浦晃希)
経済循環、就労促進も
埼玉県深谷市の社会福祉法人幸仁会・川本園では、知的障害を持つ40人が働く。加工する木は地元の森林組合から丸太で仕入れ、ティッシュペーパーケースなどの小物から家具といった大物まで、注文に応じた木工品を生産する。売り上げは法人全体で年間7000万円を計上する。
「どう工夫すれば、障害を持っている彼らが仕事をできるようになるのかを常に考えている」と話すのは、同法人の田中初男理事長。現場では一人一人に仕事の持ち場があり、責任感ややりがいにつながっているという。地域の木材を使うことで「地域経済にも良い循環が流れ、林福連携の効果を実感している」という。
木材加工を通じて、通所者の行動にも変化が表れた。施設への通勤には電車を使い、作業場と休憩所が分かれている場所で働くことで、社会性が身に付いたという。
地域での林福連携の認知も広がっている。これまでの注文は行政中心だったが、ここ数年は個人からも注文が来るようになった。田中理事長は「木を通じて、良い商品を作り、彼らが活躍できる場をつくっていきたい」と力を込める。
東京都日の出町の就労継続支援B型事業所「就労日の出舎」で働く20~80代の通所者25人の多くは、身体障害者だ。同事業所でも木工品を作っており、加工する木材の9割は地元多摩産のヒノキを使う。
「一人一人の長所を生かした人員配置に力を入れている」と話すのは、同事業所の加藤圭介支援課長。「木工品には穴開けや磨きなどさまざまな工程があり、障害の種類や程度に応じて、個々の長所を生かすことができる」と林業に携わるメリットを話す。
ニーズに応じた生産にも力を入れる。今年度は、新型コロナウイルス感染対策の飛沫(ひまつ)防止パーテーションの木枠を200台作り、病院などに納品した。ノベルティー資材なども大量生産できるよう設備を整えているという。
こうした工夫で、自治体や企業などの取引先からは「福祉施設でここまでできるのか」と驚く声が寄せられるという。福祉の力が徐々に社会に知られるようになってきたと手応えを感じる。
加藤支援課長は、「ヒノキの良い香りが通所者の精神安定にもつながっているのではないか。将来は林業の一端を担える人材の育成を目指していきたい」と話す。
林野庁が来年度予算化 製品開発を支援
林野庁は、2021年度に700万円を投じ、優れた木材製品の開発をソフト面から支援する計画だ。国産材需要の拡大に力を入れ、障害者の雇用拡大を後押しする。
具体的には①優れた地域材製品の開発②情報発信──を想定し、2、3課題を選ぶ予定だ。国産材を使って福祉関係者や林業・木材産業者、デザイナーなどが連携し、優れた木工品の製作を進め、ウェブサイトなどで周知することを要件としている。
同庁によると、国産材の需要喚起が課題。同庁木材利用課は「優れた木工品を作ることが、国産材の良さを広め、福祉の働く場の創出にもつながる」と林福連携の取り組みを後押ししていく方針だ。
多様な人材が活躍
JA共済総研の濱田健司主席研究員は「林福連携は、モデルをつくり、これから広げていく段階。連携を通じて、林業で地域を元気にし、障害者の経済的な自立支援にもつながる。生活困窮者や高齢者など多様な人材が活躍できるきっかけにもなる。障害者に対するイメージの変化が今回の予算確保につながったのではないか」と分析する。
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2021年02月24日

20年産サツマイモ収穫量 過去最低 基腐病拡大が深刻 農水省が対策予算拡充
2020年産のサツマイモの収穫量が68万7600トンとなり、農水省が統計を取り始めて以来、最も少なくなったことが分かった。4年連続の減少で、前年比では6万1100トン(8%)減。主産地の鹿児島や宮崎でのサツマイモ基腐病の拡大が影響した。同省は20年度第3次補正予算で同病への対策を拡充し、生産継続を後押しする。
鹿児島の収穫量は21万4700トンで全国1位だったが、前年比では4万6300トン(18%)減。同4位の宮崎は6万9100トンで、1万1500トン(14%)減った。同2位の茨城は18万2000トンで、1万3900トン(8%)増えた。
全国の作付面積は3万3100ヘクタールで、農家の高齢化に伴う作付け中止や品目転換があったが、前年より3%減にとどまった。
一方、全国の10アール当たり収量は前年から5%減の2080キロで、27年ぶりに2100キロを下回った。鹿児島は1970キロで同15%減、宮崎は2310キロで4%減った。
鹿児島や宮崎での収穫量の減少について、同省は生育期間の日照不足に加え、サツマイモ基腐病の拡大があったためだとする。
同病は、サツマイモに寄生する糸状菌が原因で、発病すれば根やつるなどが腐敗する。18年に沖縄で初確認後、鹿児島、宮崎、福岡、熊本、長崎、高知、静岡、岐阜の9県に広がっている。
被害の拡大を受け、同省は20年度第3次補正予算の「甘味資源作物生産性向上緊急対策事業」で、農家への支援策に20億円を確保。鹿児島県全域と宮崎県串間市を対象に、昨年の畑の被害率が3割以上なら10アール当たり2万円、3割未満なら同1万円を支払う。20年度当初予算だけでは足りず、補正で積み増して対応する。
同事業は、JAや複数の農家でつくるグループを対象とする。①病害対策を実施した上で今年もサツマイモを作付けする②焼酎、でんぷん工場など、加工業者と植え付け前に販売契約を結ぶ③市町村やJAから収入保険の説明を受ける──ことが条件。交付金は「20年度内に支払えるようにしたい」(地域作物課)という。
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2021年02月24日
米の主産県 転作独自支援広がる
2021年産米の需給安定に向け、主産県で独自の転作支援策を講じる動きが広がっている。主食用米の作付面積が多い上位10道県のうち7県が、都道府県と同額を上乗せ助成する農水省の新たな支援策を活用し、独自支援に取り組む方針だ。飼料用米などに転作を拡大した分の助成を手厚くし、農家の転作意欲を高める。
国の上乗せ活用“深掘り”後押し
同省は、転作助成金に当たる水田活用の直接支払交付金に、21年産から「都道府県連携型助成」を新設する。……
2021年02月23日
消費拡大へ国民運動 SNSや交流催し 農水省
農水省は2021年度から、農業・農村への理解を広げ、国産農産物の消費拡大につなげる新たな国民運動を官民で始める。昨年改定した食料・農業・農村基本計画を受けた取り組み。地域で頑張る農家の姿や農業の魅力をインターネット交流サイト(SNS)で発信し、消費者との距離を縮める交流イベントも開く。応援団として消費者に国産品を積極的に選んでもらい、食料自給率向上にもつなげたい考えだ。
「国民運動総合推進事業」として、20年度第3次補正予算、21年度当初予算案で計11億1400万円を確保した。基本計画には「農産物・食品の生産に込められた思いや創意工夫などについての理解を深めつつ、食と農とのつながりの深化に着目した新たな国民運動を展開する」と明記。これを具体化する格好だ。
同省はこれまでも、地域の魅力ある農産品の発掘・表彰などを通じ、国産農産物の消費拡大を呼び掛けてきた。新たな国民運動では、消費の呼び掛けよりも、日本の食や環境を支える農業・農村の重要性を理解してもらうことに重点を置く。「生産者の頑張る姿を見てもらうことで、国産農産物を買って農業・農村を支えていこうという機運を高めたい」(政策課)。
同事業では、SNSやテレビなどを通じ、子どもから大人までの幅広い世代に、頑張る農家の取り組みを発信する。具体的には、地域の農産物を使った加工品やメニュー開発、農業現場に障害者や高齢者雇用を受け入れる「農福連携」などを想定する。
地域の農業・農村の価値や農産物の魅力を伝える交流イベントも実施する。オンラインの収穫体験や、農村に滞在して農業体験などを行う農泊、農産物の販売フェアといったイベントを想定。消費者と農家の距離を縮めることを目指す。こうした取り組みは、JAや食品関連企業などとも連携し、官民で進める。
事業では、取り組みの人件費や広告費、イベント開催費など支払う。20年度内に事業実施主体を公募し、採択した民間団体に業務を委託する。
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2021年02月23日
自立支援に農業“有効” 生活困窮者 自然触れて汗流し 8割「好影響」 会話力改善も 共済総研調査
生活困窮者の自立支援で、農作業を体験してもらうと、心身の状況やコミュニケーション力が改善したとの調査結果を、JA共済総合研究所がまとめた。厚生労働省の就労準備支援事業を受託する社会福祉法人やNPO法人などに、支援を受けた人の変化を質問。精神の状況が良くなったとの回答が8割に上るなど、農業の効果が高いことを裏付ける結果となった。
事業は引きこもりや障害などを抱える生活困窮者の就労に向けて、自治体や社会福祉法人などが就労体験の場を提供し、基礎的な能力の習得を支援している。調査は、この事業を受託する201件に行い、このうち活動に農業を取り入れた77件に支援を受けた人の変化を質問。中間集計として取りまとめた。
農作業をして良くなったとの回答が最も多かったのは、精神の状況で77%を占めた。この他、体の状況が65%、生活リズムが64%で続いた。コミュニケーション力も58%と多く、生活困窮者の自立支援に農業の効果が高いことが分かった。
調査した共済総研の濱田健司主席研究員は「農業は自然に触れながら、育てた作物が成長し、販売される過程を体験できることが良い影響を与えるのだろう」と話す。共同作業が多いため、コミュニケーション力も習得できると指摘する。
栽培する品目は野菜が中心で、作業は収穫や草取り、苗植えが多い。形式は作業請負や自主運営する農園か、その両方を組み合わせている。今後の意向では、現状維持(48%)や拡大したい(34%)と、前向きな回答が多かった。
一方、農作業などの活動を79件が「取り組んでいない」「取り組むつもりはない」と回答した。その理由としては技術がない(43%)、農地などの確保が困難(39%)、施設や機具がない(38%)ことが挙がっている。
生活困窮者の自立支援で農作業をしてもらう取り組みを広めるため、濱田主席研究員は「現場の人材育成や生活困窮者と農業をつなぐ組織への政策支援が必要だ」と指摘する。
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2021年02月21日