大学院時代には、主にたんぱく質の研究をしていました。牛乳などに代表されるカゼインという動物性たんぱく質、蜂の子から取った昆虫性のたんぱく質、それと大豆由来の植物性たんぱく質。3種類のたんぱく質をネズミに与えて健康がどうなるか、そのネズミが生んだ子供たちがどうなっていくかを研究したのです。母体のネズミが取ったものが、子供の代謝疾患などに関連するという結果を得られました。
その研究を始めて5年ほどたった今、私は妊娠中です。私が食べたものが、胎児の体調に、生まれてきた子供の健康に関係する。自分が食べたものがこの先永遠につながっていくと思うと、食べるということの責任をより一層実感しています。
たんぱく質、炭水化物、脂質のバランスが大事ですが、マグネシウムやカリウムなども気をつけて取る必要があります。カリウムもマグネシウムも豆類や海藻類に多く含まれます。昔ながらの日本食なら十分取れるのですが、私は不足気味でしたので、食生活を変えました。
私が蜂の子のたんぱく質を使って実験を始めた頃というのは、ちょうど昆虫食がはやり始めた時期。
自分で調理して食べた最初の昆虫は、セミです。飼っていた犬がセミが好きでよく食べていたんです。夏になるとセミを探し歩くくらい。この犬と私は、共に焼き芋が好きだったり、ミカンの糖度による好き嫌いが似ているなど、食べ物の好みが合っていたんですね。私は犬の味覚を信頼していましたから、一人暮らしを始めたのを機に、セミを料理して食べてみたんです。
これがおいしくて。エビの味にカシューナッツのような植物性の甘味が加わったような感じなんです。エビチリではなくてセミチリのように、エビ料理をセミで作ってみれば、なんでもおいしく食べられます。
テレビの番組で、タイの昆虫食を取材したこともあります。カメムシと唐辛子をすりつぶしてペーストにし、調味料として使っていました。カメムシはパクチー味だと思っていたのですが、そのペーストは爽やかなミント味。種類によって味に違いがあるんですね。
私は多くの昆虫を食べてきました。これまで食べた中で圧倒的に一番おいしかったのは、オオスズメバチの前蛹(ぜんよう)。さなぎになる直前の幼虫で、皮が柔らかい。それをしゃぶしゃぶにしてポン酢で食べるんです。上品で淡白ながら、うま味が詰まっている。フグの白子と張り合えるほどですね。幼虫から成虫に体を作り変える重要な時期のエネルギッシュな滋味が、全部詰まってるんじゃないかと思います。
私が昆虫が好きなように、父がはまっているのがドリアンです。昆虫とドリアン。ゲテモノといわれている食べ物に縁がある親子です。
会社を経営している父はもともと農業に関心があったこともあり、7年前からマレーシアでドリアン栽培を始めたんです。2年前から石垣島でも栽培を始めました。ドリアンの栽培北限はベトナムとされているので、もし成功すれば北限が書き変わるプロジェクトです。結果が出るのは3年先ですが、市場に並ぶ日が来るといいですね。
中国ではドリアンがブームで、輸入果実の総重量も総金額も一番なのだそうです。キワモノとしてではなく、愛される食べ物として、昆虫もドリアンも広く認識されていけばうれしいと思います。
しのはら・かをり 1995年、神奈川県生まれ。幼少の頃より生き物を愛し、ネズミ、タランチュラ、フクロモモンガ、イモリ、ドジョウなどさまざまな生き物の飼育経験がある。慶応義塾大学SFC研究所上席所員を務めるかたわら、「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンター、「嗚呼!!みんなの動物園」の動物調査員などテレビ出演も多い。「恋する昆虫図鑑~ムシとヒトの恋愛戦略~」など著書も多数。