基本法の見直し作業は今国会の会期中に大きく進展した。自民党は食料安全保障検討委員会(森山裕委員長)が5月に提言を決定。農産物の適正な価格形成に向けた仕組みづくりや、食料や生産資材の輸入依存脱却などを盛り込み、岸田首相に提出した。
農水省の基本法検証部会も5月末に中間取りまとめを決め、野村哲郎農相に提出した。輸入リスクの高まりを踏まえ、食料や生産資材の国産化を重視する姿勢を示した。
検証部会は、各地での意見交換会などを経て、さらに議論を重ねる。野村農相が重視する国民的な合意が得られるかが問われる。
岸田首相は21日の記者会見でこう言い放った。だが、基本法見直しの指針となる「食料・農業・農村政策の新たな展開方向」に投資促進の記述はない。
唐突な発言に一部では、今国会で見送った農地所有適格法人の規制緩和との関連を疑う見方も出ている。
同法人は現在、農業関係者以外の出資比率を50%未満に制限されている。今国会では、企業に農地所有を認める特例を盛り込んだ改正構造改革特区法が成立する一方、同法人の出資規制の緩和は見送った。
同法人の要件緩和は政府の規制改革推進会議が求めていた経緯があるが、政府が今月閣議決定した規制改革実施計画には関連する記述はなかった。ある自民党農林幹部は、首相発言の真意が分からないとしつつ、食品産業などとの連携の必要性を述べたのではないかとみる。
農水省が特に重きを置くのが、スマート農業に関する予算だ。高齢化などで農家が急速に減ると見込まれる中、先進技術の現場実装が喫緊の課題となっている。
スマート化を後押しする新法の制定も予定される中、同省幹部は「法制化を見越した予算要求をしないといけない」と指摘。産官学による技術開発の加速や、先進技術に対応した産地形成に向けた予算となりそうだ。
新たな展開方向は他に、食料安全保障の確立などを柱に据える。政府はこれを踏まえ、輸入途絶などの不測時を想定した体制整備などでも新法の制定を検討する。ただ、予算総額は限られ、今後編成される可能性がある補正予算も焦点となる。