具体案まとまらず
「関係者間で丁寧に合意形成を進めることが必要。(法制化は)いつと明確になっているわけではない」――。宮下一郎農相は10月下旬の閣議後会見で、法案の国会提出時期が未定だと述べた。食料・農業・農村基本法改正案と同じ次期通常国会への提出は事実上、見送りとなる。
政府は、生産コストを踏まえた価格交渉を義務付けるフランスのエガリム法を参考にしてきた。ただ、岸田文雄首相は国会で、日本は中小の小売業者が多いなど同国とは状況が異なると強調。「消費者の理解を前提とし、わが国の実態に即した価格形成の仕組みづくりを進めたい」と述べた。
具体化には、関係業界が一堂に会する農水省の協議会での合意が鍵となる。ただ、同省は「結論ありき」との反発を警戒。取りまとめ時期や仕組みの案を示さず、価格交渉の実情やコストのデータの議論を提案するにとどまっている。
コスト高、現場深刻
生産現場では価格転嫁への期待が大きい。ウクライナ危機などによる生産コストの高騰に対し、農産物販売価格の引き上げが追い付かないためだ。
同省によると、生産資材価格は、2021年以降に続伸。20年を100とする農業物価指数は、21年に106・7、22年に116・6となった。23年は120超で高止まりし、直近の9月には、120・9。肥料や飼料、光熱費の上昇が目立つ。
一方、同時期の農産物価格の指数は、上昇しても生産資材価格より小幅。下落し100を割り込む月もあった。23年9月は113で、前月から10・2%上昇。ただ、要因は高温で不作が目立った野菜の急騰などだ。
農産物価格は主に需給で決まり、作柄の変動が大きい野菜の指数は乱高下。米は近年80~90台で推移する。
消費減退 懸念強く
農水省が、適正な価格形成の仕組みづくりへ作業部会を設けたのが、牛乳と豆腐・納豆。共に流通構造が単純との理由からだ。JA全中の馬場利彦専務は協議会の会合で「全品目で、再生産に配慮した価格形成の仕組み」が必要だとした。
一方、牛乳の作業部会で各業界が課題に挙げるのが、値上げによる消費減退だ。初会合で、乳業メーカーからは「需給過剰の場合は(生産者)所得のセーフティーネットが必要。乳価だけで補償するのは限界」(雪印メグミルク)「緊急事態には国家が支援するのが本来の形だ」(森永乳業)など、価格転嫁の限界を指摘する声も出た。
中央酪農会議は、牛乳の需要が減少すると乳製品向けの生乳の供給が増え、影響を受けるのは乳製品の産地やメーカーだと指摘。「オールジャパンの需給調整もセットで」考えるべきだと提起した。
同省幹部は「段階を踏まなければ、すぐには難しい。まずは議論を尽くす」と話す。