[ニュースアイ]水田政策議論の難航必至 転作拡大し予算膨張
「将来にわたって安定運営できる政策を確立する」
政府は27日の食料安定供給・農林水産業基盤強化本部(本部長=岸田文雄首相)で決めた基本法見直しに向けた一連の政策文書で水田政策について、こう宣言した。
文書では、2027年度までに、ブロックローテーションや畑地化を「集中的に推進」と明記。一方、27年度以降の水田政策については、25年春に今後10年間の農政指針となる食料・農業・農村基本計画を策定するのに合わせて、検討するとした。
議論の方向として、①米・麦・大豆などの生産性向上②主食用米の需給調整を効果的に推進――を示したが、それ以上は「白紙」(農水省幹部)。議論の行方は予断を許さない。
交付金財源で攻防
現行の水田政策の柱である「水田活用の直接支払交付金」。政府の24年度当初予算案には3015億円を計上した。畑地化の進展を見込み、前年度に比べ35億円減らした。
同交付金は、麦や大豆などの転作作物の作付面積に応じて交付する仕組みだ。必要となる予算規模は、転作が拡大すれば膨らみ、畑地化で交付対象水田が減ったり、交付単価を下げたりすれば圧縮される。
国の金庫番である財務省は、予算膨張に厳しい視線を注ぐ。16年の予算執行調査では、あぜがないなど米が生産できない農地や、米以外の作付けが続く農地にも交付金が支払われていると問題視し、除外基準の明確化などを求めた。
これを受け、農水省は21年12月、今後22~26年の5年間に一度も水を張らない農地を交付対象から除外する方針を決めた。
畑地化推進にもかじを切り、累次の補正予算で約1000億円を計上。23年産で3・5万ヘクタール、24年産で1万ヘクタール超が畑地になり、同交付金の対象から外れる見通しとなった。
一方、農水省にとって“誤算”だったのは、交付単価が高い飼料用米の作付けが想定以上に進んだことだ。現行の食料・農業・農村基本計画では生産努力目標として30年度に70万トン(面積換算で9・7万ヘクタールに相当)を掲げる。だが、22年度で既に14万ヘクタールを超え、歳出が膨らんだ。
財務相の諮問機関である財政制度等審議会は、飼料用米に偏重した転作の状況を批判。主食用米よりも所得が高いケースがあるなどとして交付単価の見直しも提起した。
農水省は、24年産から一般品種の飼料用米の交付単価を引き下げ、多収品種に誘導する方針だ。
綱引きの農水省内
1970年代に生産調整が本格化して以降、農水省は毎年、転作奨励金などとして数千億円規模の予算を充当。時代に応じて形を変えつつも、財源は「先祖の財産」(同省関係者)として今の水田活用の直接支払交付金に引き継がれている。
自民党も選挙公約などで水田フル活用の予算を「恒久的に確保する」と約束してきた。同省は今後もこの財源を維持し、有効利用したい考えだ。
ただ、米の需要は毎年約10万トンずつ減少。需要に応じた生産には単純計算で毎年2万ヘクタール程度の転作拡大が必要となる。農水省は人口減に伴い、この傾向は今後も続くとみる。今の予算規模を前提にすれば、同交付金の見直しは避けられない。
一方、米の需要が減る中、省内でも水田対策への風当たりが強まる。特に当初予算は固定的な経費が多く、新基本法で新機軸を打ち出しても「使える予算が少ない」(同省幹部)ため、財源を巡る部局間の綱引きもある。