米国やフランス、オーストラリアなど、世界中から訪れた観光客が小松菜のトンネルがけの作業に汗を流す。
「これはどういう効果があるんだろう」という問いかけに、英語を交えて「虫が野菜の葉を食べるのを防ぐんだ」と説明するのは、町内で新規就農して2年目の若手農家、小川貴志さん(39)。覚林坊からの依頼で、自身の畑の一部で農業体験を受け入れる。
参加したフランス人男性は「日本では、こんな細かい作業を黙々とやるんだね。自分の国では見たことがないよ」と目を見張った。
覚林坊の利用客の9割近くは外国人。政府が2022年10月に新型コロナウイルスの水際対策を大幅緩和して以降、客足が戻る中、4月から農業体験を新たに始めた。
女将(おかみ)の樋口純子さん(54)は「ここは自然豊かな町。せっかく来てくれるなら土にも触れてほしい」と農業体験を企画した狙いを話す。宿坊に食材を納入している小川さんに指導役を打診。快諾を得た。
町内の50アールでトマトやレタスなどを有機栽培する小川さんは「収穫体験ツアーも企画したい」とインバウンド需要の取り込みを見据える。
より多くの外国人に来てもらえるよう、覚林坊は海外向けのホームページを運営。交流サイト(SNS)も活用し、写経や精進料理、お茶など宿坊ならではの体験にとどまらず、朝取れ野菜や農作業風景も投稿。これらを見て農作業にも興味を示し、来訪を決める人もいるという。
覚林坊では、ワーキングホリデーで来日した外国人を従業員として採用。スペインやドイツ、チリなど多様な国籍の人が宿の運営に携わる。
女将の樋口さんは「さまざまな国籍の人が集まり、にぎわいが生まれてきた。これからも多くの人を受け入れ、地域を元気にしたい」と意気込む。