イチゴ生産量でトップを走る「いちご王国」栃木県。1969年に県農業試験場でイチゴの育種を始め、以来50年以上の歴史を持つ。県育種品種の「女峰」が開発され、その後継の「とちおとめ」は今や全国各地で栽培されている。2020年産(19年10月~20年6月)から一般栽培された「とちあいか」は、今後の同県イチゴの代表となる期待の品種。
大玉で輸送性に優れるため、22年産からJA全農とちぎでは試験輸出に取り組む。生産量の拡大に呼応して、海外も視野に入れた市場の拡大を目指している。
「とち」ぎの「愛」される「果」実という思いを込めて、20年に名付けられた「とちあいか」。
22年産は栽培面積45ヘクタールで約2500トンを出荷。来年産は約90ヘクタールまで増えると予想され、倍の5000トンを見込んでいる。
人気の「とちあいか」には、倍増の理由がいくつかある。収量が「とちおとめ」より多く、平均果重も20グラムと「とちおとめ」の16グラムに対して大きいこと。草勢は強く、厳寒期の生育が盛んなこと。果汁に富み糖度は「とちおとめ」並みで、酸味が少なく食味が良いこと。果皮硬度が硬いこと。萎黄病に対して高い耐病性を有すること──などだ。
JA全農とちぎでは、「とちあいか」の販路拡大に向け、22年産から試験輸出に取り組んでいる。
大玉のため1段のみの平パックで流通するので擦れづらく、果皮が硬めで傷みにくいため、長距離輸送に適していると判断。特に海外では大玉が好まれる傾向にあり、甘味が際立つ食味なのも現地のニーズに合っている。マーケットイン(初めに顧客ありき)に基づき、海外市場から求められる産品を輸出していこうという戦略だ。
全農とちぎでは県産梨「にっこり」で、マレーシア、カンボジア、シンガポールといった東南アジアや香港に向け輸出実績を重ね、定着してきている。「とちあいか」も、その販売先をメインに出荷した。航空便で輸送し、現地の店頭に並ぶ。
現地で購入するのは富裕層が中心だ。イチゴは韓国産や東南アジア産が競合するが、日本産は「価格は高めだが味は良い」という評価だという。昨今の円安を背景に、輸出は追い風基調といえる。
今回の試験輸出では、昨年12月から今年3月末までに3.6トン、約1万3000パック(1パック280グラム)を送り出した。来年産では、10トンの輸出を目指す。
一方で輸出には課題もある。トラックでイチゴ以外の農産品と混載して送られるため、春先の暖候期には鮮度保持には気をつかう。イチゴはデリケートなので、特に慎重に扱う必要がある。コールドチェーンなどの体制が求められるが、物流コストの上昇も踏まえ国や県など行政の支援も必要だ。また量が増えてくれば、品質の維持も難しくなる。
海外のバイヤーの厳しい目に応える日本産の品質を保ち続けるのは、決して容易なことではない。
全農とちぎ総合販売企画課の手塚浩司課長は、「輸出により販路を拡大することで、イチゴ全体の販売価格を底上げし、生産者の所得向上につなげたい。生産者とともに日本一のイチゴ産地を守っていきたい」と意気込む。