東京都中央卸売市場2021年のイチゴの入荷量は前年比107.3%、価格は同97.8%、金額では105%(図1)と伸びを見せている。果実類の金額シェアでは18.9%と一位で売り上げの柱となっている。人気の背景にはスイーツの高級化があり、イチゴはますます欠かせなくなっている。
この半世紀近くの品種の変遷をたどると、平成に入り「女峰」と「とよのか」の二大品種の時代となり、「ダナー」や「宝交」が中心だった昭和50年(1975年)代からわずか数年の内に品種が一新され、まさに時代を画する品種の出現となった。春に出回る果実から、12月にピークとなったのである。その後両品種を内容でも大きさでもさらに上回る「とちおとめ」「あまおう」の二大品種の時代が長く続いている。甘くて大きいというコンセプトで品種が育成され、特長に差がなくなることは新たに懸念すべき点である。
市場関係者に二大品種について感想を聞くと、「とちおとめ」はイチゴの食味の理想形で、加工筋が圧倒的に支持しているという。甘酸適和は、プロ好みの味だ。「あまおう」は東南アジアでの人気が絶大であり、特に赤色の輝きが好まれる理由だ。特に女性層に根強い人気があるのは、まさにこの品種の真骨頂と言える。
独立行政法人農畜産業振興機構の資料によると、統計開始以来イチゴの反収は伸び続けている。(図2)
この理由について各JAの指導部門に聞くと、栽培技術が洗練されてきているとのこと。新設されるハウスは高設の養液栽培で、生産性が向上している。さらにかん水や温度管理などの制御が完全自動まで近づきレベルが高くなっている。その一番の理由は新しく選抜される品種が、収量性に優れていることである。取り始めと、取り終わりをきっちり管理し、できるだけ長く取るようにしていることも収量アップの要因との声も聞かれた。
JAみやぎ亘理では、震災から10年を経て震災前の半分を超えるまで回復した。圃場(ほじょう)のほとんどが高設栽培施設に一新され、養液土耕栽培が中心になってきた。主力品種は県の開発した「もういっこ」で、「女峰」「さちのか」の良いところを引き継ぎ十数年続いている。
JAほこたでは、中心品種は農家の選定で長く作り込んでいる「とちおとめ」、大果形で食べやすく箱数が増す「やよいひめ」、果形が優れる「いばらキッス」に三分される。JA常陸では「とちおとめ」を完熟栽培し、「バインベリー」と商標登録して市場でのマーケティングに成功している。
JAはが野では、主力の「とちおとめ」が中心であるが「とちあいか」が面積を伸ばしている。この新品種は酸味を抑えた甘味の強さが特徴だ。さらに大果形で労力軽減に貢献すると思われる。低温伸張性についても、わずかに旧品種を上回っている。しかし、甘酸適和の旧品種がなくなることはない。
JA遠州夢咲では、「べにほっぺ」中心の体制で、一部「章姫」となっている。JAによっては新品種の「きらぴ香」に切り替えていて、香りの良さが評価されている。「章姫」は観光農園での人気が根強い。
JAふくおか八女では、2023年産についても「あまおう」で、作付けについては微減を予想しているが、新規にイチゴ栽培に挑戦する農家もいる。東南アジアで絶大な人気を誇るが、輸出については市場経由である。
JAさがでは、一部「さがほのか」が残るものの、ほぼ「いちごさん」中心である。この品種に切り替わったのは、花数が多くスソ玉まで大きくなり収益性にかなうからだ。
JAたまなでは、県下で栽培される品種は7種類あり、現状は「ゆうべに」が中心品種になりつつある。特長は甘味が強く香りが良好だ。まあ、収量性が高く、反収では旧品種の1.5倍は取れるとのこと。その他新品種では「恋みのり」も有望となっている。
JA島原雲仙では、「恋みのり」を中心に「ゆめのか」の二品種の組み合わせで、長所を生かす栽培である。「恋みのり」は大玉の発生比率が高く、摘果作業がほとんど要らないことなど省力化栽培できる。「ゆめのか」は早出しと後半に引っ張れる点が評価されている。