[論説]大震災の教訓 農業復興へ支援続けよ
大震災、原発事故の爪痕は今もなお大きい。復旧・復興作業は進むが、2万9328人(2月時点)が避難生活を送っている。帰還困難区域は福島県内で7市町村あり、原発事故で被災した同県12市町村の人口も、事故前の6割にとどまる。
農業復興も道半ばだ。岩手、宮城2県の生産農業所得は震災前とほぼ同水準に回復したが、福島県は717億円(2022年)と、震災前の1047億円(10年)と比べて落ち込んだまま。23年産の福島県内の水稲作付面積は震災前の24%、原発被災地を含む相双地域の牛の飼養頭数は4355頭と震災前の26%にとどまる。政府は引き続き農業復興を支えていくべきだ。
風評被害も続く。農水省によると、七つの国・地域が福島県などの農水産品の輸入規制を続けている。昨年8月の処理水放出を受け、中国向けのホタテなど魚介類の輸出も止まっている。政府は引き続き、粘り強く輸入再開を働きかけていく必要がある。
日本農業新聞は「未来へのバトン」と題し、農業に希望を抱く被災地の若者たちを取り上げた。福島県浪江町で農業を再開した女性は避難時に、慣れ親しんだ家に戻れないもどかしさ、福島県産への風評被害も悔しかったという。今は「なんとかして事故前のなりわいを取り戻したい」と前を向く。人口流出に直面する被災地に希望の芽が育ちつつある。こうした若者の挑戦を、官民挙げて後押ししたい。
年明けには能登半島地震が発生し、気候変動が加わり、毎年のように甚大な災害が頻発する。東日本大震災の教訓を風化させず、次世代に伝える努力も欠かせない。
岩手県一関市の一関市立南小学校は、毎年3月11日に給食の代わりに、児童が手作りした「おにぎり給食」に取り組む。同市は震災当時、ライフラインが止まり、物資が不足した。被災時を疑似体験し、食の尊さを体感してもらうのが狙いで、同校の金野邦彦教諭は「東日本大震災は今の6年生が生まれる前に発生した。食の大切さを再認識するとともに、災害に備える意識を高めてほしい」と語る。防災教育の参考にしたい。
震災はいつ、どこで発生するか分からない。東日本大震災の教訓は、能登の被災地に生きているだろうか。優良事例を横展開し、復興への歩みを止めてはならない。