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岩手県のJA新いわて八幡平営農経済センター管内は、特産の雨よけホウレンソウやリンドウなど多品目の農産物を産出する。岩手山麓地域は朝晩の寒暖差が大きく、夏秋野菜栽培に適している。トマト専門部には10人が所属、夏秋の大玉トマトを栽培する小規模産地だ。若手も定着し生産量は増加傾向、新規就農も着実に進んでいる。
じっくり育つ八幡平トマトは、くせが少なく食べやすいのが特徴。甘酸バランスが程よく取れた滋味深い味わいだ。
6月から11月まで、10人のトマト専門部員が373アールのハウスで生産。今年の販売実績は、1億225万円、出荷量385トン(10月25日現在)だった。
生産者が粗選別した大玉トマトは、コンテナで大更トマト選果場に出荷。ベテランの検査員の手により、県の検査基準の3等級・5階級に選別され、予冷庫に入れた後、翌朝には主に東京市場へトラックで出荷される。
八幡平市の新規就農者支援事業が功を奏し、トマトでは毎年1~2人が就農する。また若手が雇用労働力を確保、出荷量の安定に努めている。
その若手の一人、田村和大(たかひろ)さん(41)。トレードマークの金髪は10代から。農家の長男だが、東京で職に就き父の後を継ぐ気はさらさらなかった。ところが2007年、父が膝に大けがをした。動けない父に代わり、実家でトマト栽培を助けた。父の回復を待って東京に戻るつもりが、その後、父は3年連続でけがに見舞われる。これを節目に、結果として就農することになった。田村さんは当時を振り返り、「父が言ってました。『おれはからだを張って息子を残した』って」と苦笑する。6年前に父から経営を委譲され、その翌年に父は他界した。
当時のハウス面積は2400平方メートル。その後、段階的に増棟し、今は8000平方メートルほどになった。平均的な10アール収量は12トン、多いときは14.5トンをあげる。
6月から11月まで出荷するため、作型は3つに分散。種まきは、2月15日、3月3日、5月5日。定植は、4月中旬、5月1日、6月1日。収穫は、早ければ6月10日、6月25日、7月下旬~11月。2回目までの定植時期は5月の連休前後で、この地域では遅霜の危険がある。そのためボイラーはもとより、ダルマストーブを20台以上用意し備える。
一部のハウスで、かいよう病が発生。土壌消毒の徹底や接ぎ木苗を購入したが、思うように病気を抑えられない。そこで今年から6棟16アールで、「うぃずOne」システムを導入した。発泡スチロール箱の栽培槽を使った隔離床養液栽培で、据え置き式の養液栽培システムに比べ安価なのが特徴だ。開発したJA全農によると、20年の導入実績は全国で220件1318アール。岩手県では主にミニトマトで135アール導入。JA新いわて管内では、ミニトマトで普及が進む。
田村さんは、土壌から隔離されるため土壌病害にも有効と考えた。「対策しても病気が出るなら、若干収量が減っても病気を抑えられた方がいい」。また断熱・保温性が高いため、早植えに向いているという。来シーズン以降も、カスタマイズしながら使っていくつもりだ。
田村さんが最も力を入れるのが雇用の維持だ。現在9人いるスタッフを通年雇用するため、トマトと時期のかぶらない冬の促成アスパラガスを栽培。作業が少ない時期は、作業場などを手作りする。休みは自由。昇給、賞与もある。一緒に働いてくれるスタッフへの感謝の思いは人一倍強い。「人がいなけりゃ回せないのに、人件費が高いと言うのはおかしい。きちんと報酬は出す」。真面目な経営者の素顔がのぞく。
今年、新規就農したいと来た見学者が、「来年は田村さんのところで研修したい」と言い残していった。産地のバトンはつながっていく。