病害虫と防除対策

冬春トマトの主な病害虫と有効な防除対策

農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域
生物的病害虫防除グループ長 窪田昌春

黄化葉巻病の病徴

冬春取りトマトでは、施設暖房による過湿で灰色かび病が発生しやすい。春季に気温が上昇し始めると、うどんこ病に加えてコナジラミ類によって媒介される黄化葉巻病や黄化病がよく発生する。また、夏秋定植から翌年の夏前まで収穫する作型では、その後、梅雨期に入ると、再び灰色かび病や葉かび病などが発生しやすい。この時期には栽培末期となり、樹勢が弱くなっていることもあって、防除を怠るとこれらの病害がまん延することがある。

微小害虫によって媒介されるウイルス病のうち、タバココナジラミによって媒介される黄化葉巻病の被害が大きい。また近年、タバココナジラミとオンシツコナジラミによって媒介される黄化病の被害地域も広がってきている。黄化葉巻病では、葉が上方に巻き上がったり、頂芽の異常や葉の黄化が生じたりする。黄化病では、栽培後期に下葉から葉脈を残して葉が黄化する。

これらのウイルス病の防除には、コナジラミ類によるトマトからの吸汁被害を防ぐよりも、さらに媒介虫の密度を下げなければならない。開口部のネット展張などにより媒介虫の施設への侵入を防ぎ、栽培期間中には農薬、天敵などによる防除を行う。栽培終了後は植物残さ処理や夏季の施設蒸し込みなど、施設からウイルス保毒虫を拡散させない作業を地域全体で行う必要がある。


病害虫と防除対策

タバココナジラミの防除

農研機構 植物防疫研究部門 基盤防除技術研究領域
海外飛来性害虫・先端防除技術グループ
主席研究員 水谷信夫

(上)タバコカスミカメ
(下)タバココナジラミ
※写真は安部順一朗氏(農研機構)提供

2021年の秋から22年の春にかけて、全国のさまざまな産地でタバココナジラミの発生が多く、防除に関する情報の発信に加えて一部では注意報が発令されている。こうした産地では、タバココナジラミの発生に注意して適切な防除を行うことが必要だ。

最近、これまでのような「殺虫」ではなく、「忌避」すなわちタバココナジラミをトマトに定着させない薬剤が使用され始めている。これらの薬剤には、忌避効果に加えて黄化葉巻病などのウイルス病の媒介を抑制する効果も認められている。価格が比較的高価な点や定期的な散布が必要な点などコスト面が今後の課題だが、既存の殺虫剤の有効性を保つ観点からも、作用の異なる薬剤を防除体系に取り込んでいく必要があるのではないだろうか。

また、昨年7月に天敵タバコカスミカメが発売された。現在、施設栽培のトマト、ミニトマトのタバココナジラミが対象とされている。天敵は持続可能で有望な防除手段だが、適切な方法で使用しないと十分な効果を得られない。これから天敵を導入する場合は、天敵に関する知識や経験のある指導員などと相談しながら、有効に活用していただきたい。


病害虫と防除対策

トマトキバガの発生動向

農林水産省 消費・安全局 植物防疫課 国内防除第1班

トマトキバガ成虫(植物防疫所 原図)

トマトキバガは、チョウ目キバガ科に属する体長約10㍉の小型のガであり、主にトマトの害虫として知られている。本種は南米原産であるが、2006年にスペインへの侵入が確認された後、ヨーロッパ、アフリカ、東南アジアなどに分布を拡大し、21年5月までに中国、台湾といった近隣地域においても発生が確認された。

わが国では、本種の近年の分布拡大を踏まえ、国内への侵入を警戒していたところ、21年10月に熊本県で初めて確認された。それ以降、22年3月末までに、宮崎県、鹿児島県、大分県、福岡県および長崎県において確認されており、引き続き、発生状況を調査することとしている。これまでのところ、本種による農作物への被害は確認されていないが、各県においては、被害を防止するため、植物防疫法第29条第1項に基づき、チョウ目害虫に効果のある農薬による防除の指導が行われている。また、本種がわが国に侵入した要因については、これまでの状況から海外の近隣地域からの飛来の可能性が考えられるが、引き続き検証が必要だ。

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