「輸出促進特集」 国の支援事業を活用 大規模産地の形成へ

 



 農水省は2023年度、輸出に特化した産地づくりを後押しする「GFPフラッグシップ輸出産地形成プロジェクト」に乗りだした。初年度は都道府県・JA・地域商社などで構成する12の協議会を輸出産地モデルとした。輸出先国での需要開拓や規制への対応、生産・流通体制の整備を支援する。輸出の重点品目の一つ、リンゴでは、青森の「アスノツガル輸出促進協議会」をモデルに認定した。海外のマーケットニーズへの対応や、持続可能な産地形成に向けた取り組みを紹介する。





 青森県内のリンゴ生産者約300戸が参加する「アスノツガル輸出促進協議会」。同協議会で中心的な役割を担うのが農業生産法人㈱REDAPPLEと、農業スタートアップ企業の㈱日本農業だ。

 ㈱REDAPPLEは青森県弘前市で4代続くリンゴの生産団体。協議会の一員として輸出向けリンゴを生産・出荷しながら、収量増、省力化につながる新たな栽培方法の試験に率先して取り組み、技術を広める役割を担う。㈱日本農業は協議会の事務局を務め、農産物の輸出をはじめ生産・流通・販売を一気通貫で行う。


 コンテナ・ 集荷方法を見直し省力化 生産に注力


 同協議会の23年度の輸出額は、22年度比161%の19億5000万円に上る見込みで、日本全体のリンゴ輸出を大きくけん引する。一方、高齢化や人手不足といった課題もあり、作業効率の向上、省力化は不可欠だった。㈱日本農業青森事業統括の松本康平さんは「農家さんの生産活動以外の作業負担が深刻だった」と振り返る。




 協議会では今シーズンから、木箱よりも軽く、扱いやすいコンテナを6万5000箱導入し会員に貸し出した。さらに、収穫したリンゴをほ場まで集荷に回る「庭先集荷運搬サービス」を導入。生産者はメッセージアプリで集荷を依頼できる。一人一人が集荷施設に持ち込む労力を削減することで、本来の生産活動に集中できる環境を整備した。



輸出向け大玉リンゴの選果

輸出専用のパッケージ

 
 輸出商社として成長してきた㈱日本農業が強みを生かし、海外マーケットごとの要望をつかむ。それらを商品づくりに反映するため、独自の選果施設やパッケージングセンターを開設した。輸出専用商品の規格を設け、専用のパッケージで出荷する。生産から流通・販売まで一貫した体制を整えた。


トラックいっぱいに積まれるリンゴ



 増産に向け高密植栽培に挑戦 安定供給で単価もアップ


 集荷方法の見直しによる効率化やマーケットインによる販路拡大が好調に進む一方で、㈱REDAPPLE取締役の吉川和亨さん(30)は、「生産量は増やしたいが、人手が足りず頭打ちだった」と産地の課題を指摘する。

 そこで着目したのが、イタリアで主流のリンゴの高密植栽培だ。長野県などでも普及する栽培法で、苗木を植えてから収穫可能になるまでの期間が短く、高収量が期待できる。同社は21年ごろから高密植の試験栽培に取り組んだ。「増産と産地維持につながる」と普及に努める。

 安定供給できるようになったことで輸出先での認知度や評価が上がり、単価の上昇にもつながった。


高密植V字栽培に挑戦する㈱REDAPPLEの
赤石淳一代表㊧と㈱日本農業の松本さん 


 国の支援事業を活用 仮説検証で先頭切る


 同協議会は、輸出産地モデルに採択されたことでコンテナの導入費用など、国からのサポートを得た。その他、より良い産地づくりに向けた、さまざまな仮説の検証に事業を活用する。松本さんは、「新たな手法を試してそれを検証できれば、同じようにリスクや費用をかけてもやってみようという人も増えてくる」と同事業のメリットを挙げる。

 ㈱REDAPPLEと㈱日本農業は次のシーズンに向け、苗木をV字に定植することで本数を2倍にし、さらに収量を増やす高密植栽培の試験も始めた。

 産地のフロントランナーの挑戦が加速する。







日本農業新聞からのお知らせ

プレスリリース


e農サーチ