手作り漬物 ピンチ 改正法で「要設備」→出荷者減 直売所も影響「郷土の味消える…」
福島県下郷町にあるJA会津よつばの直売所「藤の郷よらっしぇ」。店を取り仕切る渡部陽子さん(56)は「郷土の味が消える様を肌で感じる。店の将来も心配」と肩を落とす。
同店には、農家ら50人が梅干しやみそ漬けなど15種類の漬物を出荷する。生鮮野菜が減る冬場の人気商品だが、既に出荷者4、5人が撤退。経過措置終了後も続けるのは2、3人で、品ぞろえは少なくとも3割減るとみる。
富山県砺波市にあるJAとなみ野の「農産物直売所となみ野の郷」には、ダイコンの一本漬けなど約25品の漬物が並ぶ。法改正を機に営業許可を取った出荷者の商品に限ると、品目数で約1割減った。小矢部市から毎週通う篠岡麗子さん(70)は「種類が減って残念」と嘆く。
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広島県のJA福山市の「FUKUYAMAふくふく市」は、はりはり漬けが売りの直売所だ。管轄する福山市保健所などは出荷者向けに制度変更の説明会を開くが、周知が進んでいないのが実情だという。
同保健所は「漬物業者への制度改正の周知は済んでいたが、個人出荷者には早く伝えられなかった」と話す。改修が必要な箇所を助言する方針だが、あと半年ほどで工事が完了するかも不透明だ。
同店の松岡俊明店長は「共同の作業所があっても、長期間熟成が必要な古漬けは個人で味付けが違うし、責任を持って保存するのが難しい」と指摘する。
東京家政大学大学院の宮尾茂雄客員教授は「漬物は郷土の豊かな食文化の指標。浅漬けや減塩タイプの漬物以外では、食中毒も起こりにくい」と指摘。「衛生面を担保した伝統食を保護する制度など、国は文化の継承と農家の意欲が保てる支援を検討すべきだ」としている。(木村泰之)
<メモ>
2021年の改正食品衛生法施行で漬物製造業は、加工場と生活場所を明確に区分けすることや水回り設備の設置など、衛生基準を満たした施設を整備して営業許可を取得することが必要になった。法改正前からの製造者は24年5月末まで経過措置で販売を継続できるが、それ以降は営業許可がないと販売できなくなる。