被災者の気持ちに寄り添うあまり、自分も同じ苦しみを受けていると感じ、さらには手助けできない自分を責めてしまう──。新潟青陵大学大学院の碓井真史教授(臨床心理学)は、「共感疲労」をそう説明する。
テレビで戦争の映像が克明に映し出されるようになったウクライナ危機後に目立つようになった。
碓井教授は対処法として、「テレビやSNS(交流サイト)に触れる時間を減らして」と促す。そうすると次第に改善することが多いという。
もう一つ、碓井教授が有望視するのが、被災地の農産物などを積極的に利用する「応援消費」だ。「離れていても『応援ができている』と実感でき、気持ちが和らぐ」とみる。
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実際、応援消費で心は落ち着くのだろうか。記者は、石川県産の農産物を利用した人を取材してみた。「食べて応援しようと思って実際にやってみたら、自分の心も楽になった」。そう話すのは東京都大田区に住む20代女性。
石川県に直接的な縁はないが「ぐしゃぐしゃになった街の様子をテレビで見るたび心が苦しくなって。何もできないつらさは感じていた」と吐露する。
同店のご飯は、2月から全て石川県産のブランド米「ひゃくまん穀」に切り替わっている。その女性は「自分も楽しみながら、東京からでもエールを送れる」と顔をほころばせながら、箸を進めた。
3歳の娘にも感想を聞いてみると、はにかみながら「おいしい」と答えてくれた。
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「#応援消費」。能登半島地震後、SNSのX(旧ツイッター)上でそんな投稿が目立つ。千葉市の50代男性も、石川県産品の購入を発信した一人だ。「石川県産米を買いました」。記者は2月上旬、Xでそう発信した千葉市の50代男性に話を聞くことができた。地震発生後、テレビやSNSで被災地の映像を見続けるうちに「日常生活でも気分が落ち込むようになった」という。
そうした中、石川県産米を取り寄せて食べたことで「心が軽くなった。少しは復興に貢献できたかな」と男性は話す。
心に負担、農家も注意を
碓井教授は「共感疲労」に特に注意してほしい人に「高齢者」と「農家」を挙げる。
高齢者は、人生経験が豊富な分、無意識に自分の過去のつらい経験と被災地を重ねてしまいやすい。
農家は、農地や農道が傷つき、営農再開が危ぶまれている能登半島の状況に対し、「長年守ってきた農地の痛ましい姿を見るのは、さぞ苦しいだろう」「同じ状況に置かれたら自分はどうなってしまうだろう」と自身の立場と重ね、共感疲労になる恐れがある。
住宅の倒壊によって、地域外への避難などを余儀なくされ、それまでの暮らしが一変した農家も少なくない。そうした状況に心を痛めた別の地域の農家が、共感疲労になる可能性もある。 共感疲労になると①不眠②食欲不振③理由もなく涙が出る――などの症状が出る。碓井教授はテレビやSNSと距離を置くことに加え、「何もできない」と自分を責めず、できることを探して行動することを推奨する。
その一例に「応援消費」を挙げる。「離れていても被災地に貢献でき、自分もおいしい食事などを楽める。ポジティブな支援方法」と位置付ける。
能登半島地震に伴う応援消費の機運を高めようと、石川県は「応援消費おねがいプロジェクト」と題して複数のロゴマークを作成。ホームページで無料公開している。県産品を扱う全国の飲食店などに活用してもらい、店頭で応援消費を意識するきっかけにするのが狙い。取材で訪れた全農の「みのる食堂」の三越銀座店でも活用されていた。
記者は相談を寄せてくれた宮城県の女性に、一連の取材内容を伝えた。
女性は「共感疲労なんてことがあるんだ」と驚きながら、「被災地に心を寄せることは大事。でも自分の心もしっかり守らないとね」と実感していた。「私も応援消費で前向きな支援をしていきたい」
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