欠かせぬ働き手
山形県鶴岡市。花きを露地とハウス合わせて約1ヘクタールで栽培する佐藤瑞起さん(31)は昨年、約200人以上の1日バイトを受け入れた。父母やパート従業員と、通年でトルコギキョウやキンギョソウ、アスターなどを出荷。出荷が多くなる盆や彼岸前は特に人手が必要で、佐藤さんは「1日バイトは欠かせない働き手になっている」と話す。
任せる仕事は種まき、収穫、花の長さをそろえる調製などさまざま。佐藤さんは1日バイトに働いてもらうときは「農家の当たり前はみんなの当たり前でない」ことを意識しているという。
佐藤さんが利用するのは、農業向け1日バイトで代表的なアプリ「デイワーク」。鎌倉インダストリーズが運営する。農業に特化し、年々利用者が増加傾向にある。
佐藤さんはデイワークの募集をかける投稿には、作業がイメージできるように詳しく書き込む。例えば、「花の定植作業」だけでなく「しゃがみ仕事あり・定植作業」と表記して人材のミスマッチを防ぐ。
草刈りなどの経験者を求人するときは、「終日草刈り作業を3日以上やったことのある方」などと書き込み、しっかり作業ができる人かを見極める。
実際に1日バイトの人が来たら、名札を着けてもらい朝礼を実施。自己紹介をして、1日でどんな作業をするか口頭で説明する。
その後、一緒に農地に移動して作業を実演。1日バイトの人に試してもらい、正しく作業できているか確認してから仕事を任せるようにしている。
働く環境を整えるために、小まめに休憩を促し、作業場には専用トイレを備え付けた。定時で帰ってもらうことも徹底。「家族だときりのいいところまでやってしまおうとなりがちだが、しっかり時間を管理している」と話す。こういった徹底もあり、佐藤さんの募集にはリピーターも集まりやすく、すぐに募集定員数に達するようになったという。
指導向け動画も
1日バイト募集に役立つ動画もある。北海道の十勝22JAを会員とする、とかちアグリワークは参加希望者向けの動画をユーチューブで公開する。ジャガイモ、ナガイモ、キャベツなど主要な品目ごとに動画を作成し、作業の流れを解説。各動画の冒頭では、必要な持ち物を、現物を見せながら紹介する。
動画には、農家に向けたものもある。「働きたい農家、働きたくない農家あなたはどっち?」がタイトルの動画では、アルバイトがまた来たくなるような農家像を説明。①募集から採用までの連絡を早くする②指示系統は統一③定期的に休憩を促し、トイレの案内をする──などだ。
「厳しい口調で接する」「許可なくたばこを吸う」などやってはいけない対応も伝える。
全国で2万人超
デイワークを通じて2023年に1回以上働いた人は全国で約2万人に上った。行政やJAと連携して各地で説明会などを開き、農家、アルバイト双方の利用者を増やしている。北海道のJAさらべつ経営相談部長で、とかちアグリワーク会長も務める大野勝広さんは「動画を見ると、アルバイトは事前に作業がイメージしやすく、農家も流れを理解した人材に来てもらえるため、好評だ」と話す。
デイワークだけでなく「おてつたび」「タイミー」など、短時間で農家と働き手をつなぐマッチングアプリは近年増加傾向にある。大野さんは「農家は1日バイトの人を農業初心者だと意識して、丁寧に接することが大切。楽しく働いてもらえば、次の募集も集まりやすい」と実感する。
<取材後記>
鶴岡市の佐藤さんは1日バイトに名札を着けてもらい、バイトを名前で呼ぶことを徹底している。「1日働いてくれるだけでも私にとっては大切な働き手。また働きたいと思ってもらえる職場でないと」という佐藤さんの言葉が印象に残った。
佐藤さんは今年、手作業を1日バイトにお願いし、今年は新しい品種や作型への挑戦も視野に入れる。新しい形の雇用をうまく使うことが、これからの経営には必須になるのでないかと感じた。