行事の活発さ目安
「消防団や祭りの練習など、地域行事が結構ある。中にはそれをおっくうに感じる移住者もいる」と言うのは、3年前に移住就農した20代のトマト農家だ。「移住する前に、行事がどの程度ある地域なのか教えてもらえると、ミスマッチが減るのではないか」とみる。
愛媛県久万高原町では5年間で15人の移住者が就農し、ほぼ100%の定着率を誇る。
町内は、行事が活発で地域のつながりが濃い、プライベートが確保しやすい──など、さまざまな地区がある。同町は各地区の特徴を知ってもらった上で移住者の希望を調査。移住後も、JAや県の指導員が定期的に巡回し、地区の篤農家も相談役に就くことで、就農者の不安を解消している。
宮崎さんは、自身の経験から「農家になることと同じくらい、地域を担うことも前もって真剣に考えることが大事」と言う。「就農前は農業のことばかりを考えがち。でも、現実には地域から求められることが多々ある。心構えができているか否かで、受け止め方は変わる」と指摘する。
同世代いない孤独
同世代の少なさに孤立感を抱くケースもある。就農3年目の20代のシイタケ農家は「周囲のほどんどが70代で、シイタケ作り以外の話ができる人が少ない。同世代がいてくれたら」と打ち明ける。
就農7年目で40代のかんきつ農家も「人との距離感が、上の世代は異なる。また、地域の農作業の仕方に従う・従わないでちょっとしたトラブルに発展したことがあった。似た境遇の人に話を聞いてもらえる場がないと、つらい」と振り返る。
互いに歩み寄りを
若年層の農業者教育に長年携わるファームサポーターズ・ラボの岡部由美子代表は「何でも相談できる人や、地域内もしくは外にロールモデルを持つと、『一人じゃない』と励まされて頑張れることが多い」と話す。
また、「若年層は否定的な言葉に敏感で、萎縮してしまう傾向がある」と指摘。「受け入れる地域側が、若者の意見に『なぜそう思ったのか』と興味を持って接することで“共育ち”できる良い関係を築きやすくなる」とみる。
移住者が新しい風をもたらす事例もある。親元で就農した30代の米・和牛肥育農家は「移住者の考えは新鮮。移住者がバーベキューインストラクターの資格を取得するのを見て、自分も同じ資格を取った。自分の作った肉と米を、最高の状態で沢山の人に食べてもらいたいという夢もできた」と話す。
<取材後記>
今回話を聞いた全員に共通したのは、「農業は楽しい」、そして「周囲に悪気のある人は一人もいない」ということだった。私も東京から四国に来て1年、農村部へ行けば、うれしそうに話してくれる人ばかりだった。だから、記事を見て「移住はやめよう」とは思わないでほしい。
若者は移住先で頼られることが多いが、若者も周りに頼っていいのではないかと思う。前述の宮崎さんと同じ地区に住む川崎幸男さん(75)は「本当にいつもありがたいと思っている。自分たちだって(宮崎さんを)助けるのは当たり前だ」と話す。地域は若い人を歓迎し、力の限り助けたいと思っているのではないか。