冬季の畜舎火災に警戒を 高過ぎる代償、誓った安全 50頭犠牲、北海道別海町の農家
北海道別海町で酪農を営む加藤博さん(52)は、あの日を忘れたことがない。 9年前の12月1日、午前3時ごろ。「ドカーン!」というすさまじい爆発音で目を覚ました。自宅のすぐ前にあったつなぎ牛舎には真っ赤な炎が立ち上っていた。加藤さんは慌てて牛をパドックへ逃がしたが、火の手は牛舎の半分まで迫っていた。
本格的な冬に備え、搾乳牛や育成牛、子牛など90頭全頭をつなぎ牛舎で管理し、火災でうち50頭が犠牲となった。搾乳機器を管理する処理室の焼け具合が最もひどく、出火原因は処理室横の事務所内に設置していた灯油ストーブだった。灯油ストーブは新しく取り換えたばかりだった。丸焦げになった牛が何頭も並べられ、きつい臭いが漂った。
加藤さんはあまりのショックで3日間ほど寝られなかった。「今でも火が怖いと感じる。たまにフラッシュバックも起きる」と明かす。火災発生後、跡形もなくなった牛舎を見て離農を考えた。
しかし、牧場の跡取りとして農業大学校に通っていた娘の瀬菜さん(27)の熱意に押され思いとどまったという。
火災発生から4カ月後。希望に沿った離農跡地が見つかり、「(株)粋な搾り屋」として瀬菜さんと妻の美香さん(51)の3人で再起した。
今、牧場には消火器を設置する。灯油ストーブにはタイマーをセットし、牛舎を去る時は火の元となる箇所の確認を欠かさない。
家族3人で新しく始めた牧場には、現在も火災で生き残った牛が1頭だけいる。背中の毛は焦げ、耳も溶けてしまったが、10歳を迎えた今も懸命に生きている。加藤さんは溶けて丸くなった両耳を見て「ミッキーちゃん」と名付け、共に歩んできた。
加藤さんは「やっぱり牛が好き。それに限る。二度と繰り返さないよう火の管理に気を付けたい」と気を引き締め続ける。
乾燥+強風で延焼しやすく 3月発生が最多
総務省消防庁によると、2022年の建物火災の発生件数は2万167件で、全火災の月別出火件数は3月の4107件が最多となった。冬季は乾燥しやすく、そこに強風が加わると、炎は燃え広がりやすくなり、被害も大きくなる。
この時期は住宅だけでなく、畜舎など農業関連施設の火災被害も相次いでおり、同庁は厳重な警戒が必要だとする。
根室北部消防事務組合別海消防署は毎年、近隣の3JAと連携し、農家に向けた火災への注意換気を促すチラシを全組合員に配ったり、同町広報誌に農家に向けた火災予防に関する記事を作成したりと、火災に注意を促す。日頃から農家が意識して、対策を取ることが肝要だ。
同消防署は「農家には電気配線の確認や牛舎の小まめな清掃などを心がけてほしい」と呼びかける。
4月以降も、牧草地や森林、牧草ロールなど燃えやすいものが多く、たばこやごみ焼き、溶接など火の取り扱いに注意が必要だ。