食料・農業・農村基本法の制定から四半世紀、わが国の食と農は歴史的な危機にある。しかし、提出された基本法改正案は、本当にこの危機を正面から捉えているのか。疑問を抱かざるを得ない。
最大の問題が、現行の基本法で唯一の目標としてきた食料自給率の向上を、いくつかの指標の一つに格下げしていることだ。自給率の目標をなぜ達成できなかったのか、なんら検証されていない。まともに追求することを放棄したと言える。
一方で、政府は歯止めのない輸入自由化を進めてきた。農産物の価格は市場任せにし、安い外国産との競争に無防備でさらしたままでは、国内生産の増大は難しい。
大規模化・効率化一辺倒の農政が、担い手の激減を招いたにもかかわらず、その反省もない。改正案は、農業者の激減が続く前提で、規模拡大を進める生産者に支援を一層、集中するとした。これでは、農業の持続的な発展や農村社会の振興とは相いれない。
持続可能な生産を可能にするためには、価格保障や所得補償の拡充が不可欠だ。市場任せの政府の姿勢を転換させ、本当に苦境にある農業経営を政治の責任で支えることを、強く求めていきたい。
食料の輸入途絶時などに芋の作付けなどを強制する食料供給困難事態対策法案は、言い換えれば戦時食料法だ。いざとなったら作付けを強制し、従わなければ罰金を科すとは、戦時を彷彿(ほうふつ)させる。平時から農業を振興して食料を増産し、自給率向上に力を尽くすことが、政府の責務ではないか。
基本法について、国民が参加して意見を述べられる場所をもっと作るなど、十分な議論が必要だ。そのままの形で成立させるわけにはいかない。