[論説]24年産米の概算金 持続可能な価格今こそ
産地にとって今年の概算金設定は難しい。全面上げの展開が予想されるが、肝心なのは「落とし所」だ。民間在庫量は5月末時点で前年比22%減の145万トンと過去10年で最少ペースにある。猛暑による等級低下で精米の歩留まりも悪化、さらには食料品の高騰が続き、値頃な米が再評価され、消費が堅調なことも概算金上げの背景にある。
作付けは、主食用米を前年産実績より増やす意向の産地が一部である。転作からの揺り戻しが将来的に進む懸念は残るが、ただちに需給が緩和する状況ではなさそうだ。
そうした中で早期米産地は24年産米概算金の設定を進める。JA関係者によると、鹿児島や宮崎、高知は前年産から4、5割上げる設定が中心。市中の不足感を捉え、早い時期に出回る米の需要が高まり、金額を大きく上げた。
一方、関東や北陸、東北などの後続産地が、同様の大幅上げにつながるかは不透明だ。短期決戦の早期米産地と違い、主力産地は通年の供給が求められる。新米の出回りが進めば、現状の不足感は一定に落ち着く可能性がある。
再生産可能な米価水準を探りたい。直近の統計を見ると、米の生産費は60キロ当たり1万5273円(22年産)で、5ヘクタール以上は1万1000~1万3000円程度、1ヘクタール未満は2万円強になる。近年は資材価格が上昇基調にある。
稲作は収益性が低いとして若手の参入は少ない。高齢化が加速し、西日本では、適正水準に実際の作付けが届かない産地も多い。米卸の業界団体は、稲作基盤の弱体化が進んで、30年代には国内の需要量を国産米で補いきれなくなるとの試算を示し、警鐘を鳴らす。産地からは「将来への投資ができる米価水準を目指すべきだ」との声が強い。
一方、注視が必要なのは消費への影響だ。物価高騰で消費者の節約志向は根強い。急速に価格を上げれば、需要が減る可能性もある。過去に概算金水準を見誤り、共同計算で赤字に陥った産地があったことを念頭に置きたい。
それだけに、消費者に向けた生産現場からの発信が鍵となる。稲作の実情を分かりやすく伝え、理解を促したい。減農薬・減化学肥料の栽培や生き物に配慮した米作りなど環境配慮の取り組みをアピールし、適正価格につなげよう。水田を守り続けるために、米価と向き合う時にしたい。