関西生まれの私は関東に住んだことはありましたけど、東北は行ったことがありませんでした。見知らぬ地で初めて気象キャスターとして仕事をする。すごく印象深かった2年間でしたが、それは食の部分でも同様でした。
東北は食材が本当に豊かです。米どころだし、海の幸は新鮮。海のない奈良県で生まれ育った私は、魚介類のおいしさにびっくりしました。局の近くの定食屋さんで食べたカキフライは、それまで私が持っていたカキのイメージを覆してくれました。その定食屋さんが出す煮魚、焼き魚全てがおいしくて、毎週3、4回通っていました。たぶん5回通った週もあったと思います。
仙台で一生過ごしたいと思ったくらい。いい時代でしたねえ。
特に印象に残っている食べ物は、亘理町のはらこ飯とほっき飯。はらこ飯とは、サケとその腹子をのせた魚版親子丼というんでしょうか。ほっき飯はホッキ貝がバーっと敷き詰められたものです。あれを食べた時の感動は忘れられません。サケ、腹子、貝自体もおいしいんですが、ご飯もそれぞれのだしで炊いてあるんです。ちょっと茶色っぽくて魚介の風味がするご飯が本当においしくて。何回か食べに行きました。
米にも思い入れがあります。
キャスターとして初めて赴任したわけです。知識や経験もありませんから手探りでした。でもNHKは天気の尺(放送時間)が結構長くて、何かしら毎日ネタを探してやらないと埋まらないんです。
私ともう一人の気象予報士、同い年の女性と2人で赴任したんですけど、その子もそんなに経験があるわけではありません。そこで2人で相談して、シリーズもののネタを作ることにしました。米農家さんのところに毎月通わせてもらって、自分たちが田植えなどを体験しながら天気との関係を伝える。米作り体験リポートをやろう、と。
そこで迫町(現・登米市)の農家さんを紹介していただき、4月の種まきの時期から稲刈りの9月まで、月1回ペースで通わせていただきました。作業も手伝わせていただきながら、農家さんから天気と米作りの関係をいろいろと教わりました。
「やませ」という風があります。東北の太平洋側の海から入ってくる冷たい風で、これが吹くと気温がすごく下がり、農作物が影響を受けるんです。知識としては分かっていたんですけど、私たちが体験した時に「やませ」が吹いた時期があって、いもち病が出るなどの被害を目の当たりにしました。農家さんも研究されている方で、「やませ」についていろいろ教えてもらいました。
その農家さんは私たちと同じくらいの娘さんがいたからか、すごく親身になってくださいました。牛も育てていて、たまに「ご飯食べていきなさいよ」と言ってくれて。そこの牛の肉がものすごくおいしいんですよ。なんでも東京に高級肉として卸しているそうで。おいしいご飯に焼き肉の夕食をいただいたわけで、これは幸せでしたね。
その農家さんは取材が終わってからも米を送ってくださいます。今でも続けてくださるんですが、一つ変化がありました。米の品種が「ひとめぼれ」から「つや姫」に変わったのです。「ひとめぼれ」は寒さに強い品種として開発され、私の仙台時代には多くの農家さんが作っていました。でも最近は、暑さに強い「つや姫」に切り替える農家さんが多いそうです。送っていただく米で、地球温暖化を実感しています。
いまむら・りょうこ 奈良県出身。1999年に気象予報士資格取得。「スーパーJチャンネル」(テレビ朝日)で気象キャスターを務め、今年で19年目。前職は損害保険会社に勤務していた。天気に興味を持ったきっかけは、子どもの頃「雨女」だったこと。気象予報士になってよかったことは、取材で飛行船に乗れたこと、群馬の大水上山に登り利根川の源流まで行けたこと。趣味はトレッキング、ダム巡り。