15歳で名古屋に出るまで、私は昆布締めを特別好きだったという自覚はありませんでした。というのも、あって当たり前のものだったからなんですね。富山を離れて昆布締めを食べる機会がなくなって、すごく恋しく思うようになったんですよ。お刺し身もおいしいんですが、昆布の味がすごく染みた魚は、また全然違った感じの味わいになるんです。
高校時代は寮生活で、平日は寮母さんが作ってくれる食事を食べるんですが、休みの日は自炊なんです。それで、スーパーで白身魚のお刺し身を買ってきて、実家から送ってもらった昆布で締めていました。結構渋いですよね、高校生で昆布締めを作って食べるなんて。
そういえば富山にいた頃は、釣ってきたイカを家で昆布締めにして食べていました。中学の頃、父親と一緒にイカ釣りをしたんですよ。平日の朝3時くらいに起きてイカを釣って、6時くらいに家に帰り、それで学校に行ったりしていました。大き過ぎてもあまりおいしくないし、小さ過ぎると作るのに手間がかかるので、適度な大きさのイカを昆布締めにして食べていたんです。釣ったばかりのイカですから新鮮ですし、本当においしかったです。
ところでレスリング選手は、大会に向けて減量をしないといけません。高校の頃はあまり苦労しなかったんですが、大学、社会人と進むにつれて減量が大変になっていきました。肉を食べる時は脂身の少ない鶏ムネ肉や豚ヒレ肉が多いんですが、薄切りのヒレ肉も昆布締めに合うんですね。肉を昆布でくるみギュッとラップに包んで2、3日くらい冷蔵庫に入れておくと、これまたおいしいんですよ。
私は大会前の1カ月で、7キロくらい落としていました。その間は炭水化物は減らしてタンパク質中心の食生活。炭水化物は、エネルギー摂取のために練習の前だけ取る感じでした。ですから大会が終わった後、普通の食事に戻って食べるご飯のおいしさ。あれは最高でしたね。
大会前の最後の数日は、飲まず食わずの状態になってしまいます。当時は試合の前日に体重測定があり、それが終われば食べていいんです。少しでもたくさん食べて体重を戻した方が、試合では有利になる。そのため、いっぱい食べないといけないという感じで食べました。
こういう時は、意外とご飯が食べにくいんです。どちらかというと、麺類の方がおなかに入っていきやすい。そのため麺類を本当にたくさん食べたんです。
現役時代は、試合の前日、寝る前に必ず食べる大切な験担ぎの食事がありました。カップうどんです。
というのも、それまで7回か8回やって一度も勝てなかったライバルがいたんですが、ある試合の前の晩に、カップうどんを食べたところ初めて勝てたんです。本当にうれしくて、それ以降はその試合前にやったこと全部をルーティンに取り入れたんです。ですから試合前日の晩には、必ず食べるようにしました。もちろん海外でも変わらずに食べられる点が良かったです。
おかげでそれから3年半、一度も負けることはありませんでした。
負けた試合は、敗因がはっきりしていました。減量のやり方を変えたことで力が入らなかったんです。カップうどんのせいじゃないです。ですからその後も、リオでも、カップうどんを食べました。
とうさか・えり 1993年、富山県生まれ。元選手で国体優勝経験のある父の勧めで、小学3年からレスリングを始める。至学館高校時代に全国高校女性選手権で2連覇を果たし、至学館大学に進学。2013年、14年、15年と連続で世界選手権を制した。16年のリオ五輪でも金メダルを獲得。日本レスリングチームでの金メダル第1号となり、女子レスリング史上最多となるメダルラッシュに弾みをつけた。