[論説]集落調査の行方 拙速に方針を決めるな
農山村を支援する研究者や実務家らでつくる中山間地域フォーラムは2月上旬、従来の農業集落調査を継続できないとする同省の根拠が不明確だとして、提言を発表。十分な情報の開示を求めた。
具体的には、①なぜ実施できないかの説明を具体的な資料で明確にする②集落調査の農村政策における位置付けを明確に説明する③調査の歴史性を重視しつつ、農村コミュニティーの実態をどのように捉え、未来の農村政策を展望し議論する──必要性を提言した。
同省が、有識者でつくる「農林業センサス研究会」の場で同調査の廃止方針を明らかにしたのは昨年7月。自治体の個人情報保護条例で情報が得にくくなっていることや調査に携わる人手不足などが理由だ。
集落の寄り合いや、農地・水路の保全活動の実施状況などを把握してきただけに、調査の廃止に異議を唱える声が広がり、10を超す学会などが廃止方針に反対、1200人超の署名が集まった。
これを受け、同省は廃止提案を撤回。昨年12月までに2回、代替案を提示したが、複数の研究会委員から「統計の精度を保てない」などとして批判の声が上がっている。
同省は、従来の調査ができないと結論付けた背景について、プロセスも含め明らかにする必要がある。調査に協力している自治体は全体の7割を超えている。どうすれば全自治体の協力を得られるか、知恵を絞るべきだ。
センサス研究会メンバーで明治大学農学部の橋口卓也教授は同省の対応について、「従来調査ができないことを貫こうとするあまり、理由を二転三転させ、反対する委員に異論を言わせないよう働きかけるなど不誠実な対応だ」と指摘する。研究者や農水省OB、自治体関係者らの不信感は広がっている。
同省は2月下旬の次回研究会で、調査の方針を決定する予定だ。同フォーラムの会長で福島大学農学群食農学類長の生源寺眞一氏は「次回の2025年調査は従来形式を継続し、次々回の30年に向けて課題を検討してはどうか」と提起する。傾聴すべきだ。
農村コミュニティーの基礎統計ともいえる同調査の行方を政府の都合で拙速に判断しては今後の農村政策に禍根を残す。同省はまず説明を尽くし、時間をかけて調査の在り方を議論すべきだ。