[論説]基本法の見直し 農村の意義を狭めるな
5月末に示された基本法の中間取りまとめは、基本理念に「食料安全保障」を据え、農村政策についての深掘りはされていない。産業政策と農村政策が両輪であるべきだとした現行の基本計画や、過去の計画の検証もないまま、資材高騰を背景に「不測時の食料安全保障」が強調された。
これに対し、NPO法人中山間地域フォーラムが7月に開いたシンポジウムで、生源寺眞一会長や野中和雄副会長らは「中間取りまとめは食料安全保障が大前提となり、農村の意義が狭められている」として疑問を投げかけた。
農村は、食料安全保障のためだけに存在するのではなく、金額で換算できない尊い価値がある。関係人口や「半農半X」など多様な人材を受け入れる農村が存在しているからこそ、中長期的な食料安全保障につながっていく。
不測時の食料増産対策としてだけ農業や農村を位置付けるのではなく、経済的に算定しにくい文化や助け合いなど「草の根」の価値を改めて評価する必要がある。
明治大学農学部の小田切徳美教授は、日本農業新聞への寄稿で、中間取りまとめの中の「食料安全保障の観点から以下のように基本的施策を追加、又(また)は現行基本法に規定されている農村に関する施策の見直しを行うべきである」との記載について、「農村政策は食料安全保障のためにあるべきだと読める」と指摘した。その上で食料・農業・農村基本法ではなく、食料安全基本法であると批判し、「そこに農村を巻き込むべきではない」と提起した。
北海道酪農地帯のJA幹部は「このままの議論では、食料さえ確保できれば輸入でも良いという意味になりかねない。農村は食料安全保障のためだけにあるのではない。全国に多様な農村があるからこそ、結果的に食料安全保障が成り立つ」と懸念する。基本法を巡る議論は、過去の検証が乏しく、農村や農業政策の位置付けが弱いとして、深掘りした議論を求める。
検証部会は、各地での意見交換会などの声を反映し、案を固める考えだ。現場からは「離農のスピードが速く、今の担い手だけではいずれ農地を受け切れなくなる」など危機感を訴える声が続出している。
あるべき農業・農村の姿を考え、農業者の意見を丁寧にくみ上げる必要がある。