[論説]アフリカ豚熱の阻止 旅行者の意識啓発が鍵
「そこまできています」。農水省が作成した、アフリカ豚熱の侵入阻止を呼びかけるポスターからも緊張感はみなぎる。韓国・釜山の金海国際空港からは北海道や千葉、大阪、愛知、愛媛、福岡各空港への直行便が行き交う。感染したイノシシは金海空港から10キロ以内で見つかっている。
車などを運ぶ同国のフェリー乗り場からは大阪、福岡の他、山口県下関市や長崎県対馬市にも便が出る。フェリー乗り場から5キロ以内では感染したイノシシが確認された。釜山から対馬市までの距離はわずか50キロ。感染の脅威はすぐそこまで迫っている。
政府は、同国からの全ての船舶、航空便で家畜防疫官が検査し、フェリーでは乗船前に全車両を消毒するよう船舶会社に依頼、畜産関係車両は入国時も消毒している。
日本の水際対策は既に強化されてはいるが、旅行者の理解を促すためには、もう一段の対策が必要だ。
国際便の機内では、アフリカ豚熱の侵入阻止へ協力を求めるアナウンスをし、国内に畜産物を持ち込まないことや靴底の消毒を求めている。日本への到着後も、上陸審査場では数多くの注意喚起ポスターや消毒マットを配置。入国した全員がそこを通ることで、基本的な対策ができる仕組みになっている。
一方、なぜ、これほどまで日本政府が家畜防疫に神経をとがらせているのか、旅行者に対して現状をより深く、広く知ってもらう必要もあるのではないか。政府広報オンラインでは、アフリカ豚熱の侵入防止を呼びかける2分ほどの動画を掲載。解説ページでは、肉などの畜産物や靴に付着したウイルスが、野生動物を介して豚に感染する恐れがあることを紹介している。こうした情報を、旅行者が行き交う主要な駅などでも積極的に発信してはどうか。
家畜伝染病がいったん国内に侵入すれば、撲滅が難しいことは、2月に栃木県内で発生した豚熱が物語っている。2018年に26年ぶりに豚熱が国内で発生して以来、国内で通算90例目の発生となった。ワクチンを駆使してもなお、感染が収まらない。今一度、飼養管理を徹底しよう。
これからは卒業旅行などで海外に出かける若者らが増える時期だけに、海外から肉や肉製品を絶対に持ち込まないよう一層周知し、アフリカ豚熱の侵入を食い止めよう。