[論説]新たな環境直接支払い 展望描ける具体策急げ
新たな直接支払い制度の導入は、昨年12月に開かれた政府の食料安定供給・農林水産業基盤強化本部で示した、「食料・農業・農村政策の新たな展開方向」に基づく施策の工程表を踏まえた。どのような名称になるかは未定だが、「環境負荷低減に取り組む農業者による先進的な営農活動を支援する仕組み」を国会の場で約束したものといえる。
しかし、これに先立ち24年度から、補助事業の申請時に適正な施肥や防除、生物多様性などの取り組みの意思を確認するチェックシートの提出
が農家に求められる。環境負荷低減の取り組みを補助事業の要件とする「クロスコンプライアンス」の一環で、みどり戦略の推進に向けて、まずはこうした取り組みを軌道に乗せることが大前提となる。
政府が示した工程表では「先進的な営農活動」としているが、どこまで徹底した環境負荷低減の取り組みが求められるのか。動機付けとして、農家はどの程度の交付金を受け取れるのか。新制度の具体化を急いでもらいたい。
対応できる農家がごく一部にとどまれば、50年までに農林水産業の温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指すという目標は、宙に浮きかねない。政府によるきめ細やかな誘導策が必要となる。
新品種や農業用機械などの技術開発も、農業の将来展望を描く上で重要となる。病害虫の画像診断や、人工知能(AI)による土壌病害診断、AIで雑草と野菜を識別できる除草ロボットなどは、既に実用化・普及に動いているが、それだけでは到底、化学農薬の使用量半減や、有機農業の100万ヘクタール拡大につながらない。みどり戦略には、脱炭素でさまざまな技術を持つトヨタ自動車など、幅広い分野の企業が参入している。これらの英知を結集し、できる限り早い段階で、実用化の道筋を示すことが求められる。
新しい品種や農機の開発、普及、導入などに膨大なコストが生じるようでは現場に浸透しない。環境調和型農業の実現に向けた、思い切った助成措置が必要だ。
みどり戦略に限定したことではないが、生産現場で新しい技術を使いこなせる多様な人材を十分に確保できるかも、持続可能な食と農業、地球環境の未来に直結する。
人、農地、技術、施策、全てがそろってこそ、みどり戦略は完結する。