[論説]ユニバーサル農園 多様な農業者 育む場に
ユニバーサル農園は、多くの人が農に携わることで、農業の持つ多面的な機能を実感できる。土に触れ、体を動かすことで体力もつく。誰もが農業に関わる場を設けることで耕作放棄されていた農地を有効活用でき、援農にもつながる。農業・農村の課題を解決し、理解が進む可能性がある。生産者、消費者という垣根を低くしたい。
こうした農園は各地で誕生している。JAが運営するのは、東京都杉並区の「すぎのこ農園」だ。区がJA東京中央に管理・運営を委託、野菜の生産を通して、障害者や高齢者の生きがい創出や、食材提供を通した障害者施設の運営支援、地域の環境保全、防災スペースの確保、都市農地の保全などの多様な役割を果たしている。区民に農業体験を提供することで、都市農地が持つ多面的機能への理解を深めているという。これを機に“JA版ユニバーサル農園”を広げよう。
農都共生総合研究所(東京都文京区)は、同農園の手引書を作成し、優良事例を紹介している。同研究所によると、各農園で共通しているのが「理念の共有」が浸透していることだという。
一方、課題は財政面だ。運営組織の多くは、行政からの支援で成り立っている所が多い。理念の共有と並行して、収益をどう確保するのかが重要となる。持続可能な取り組みにするためには、運営側と利用者の双方が対等な利益を得られる関係性を築きたい。
神奈川県は、農園利用者の心の変化を数値化し、分析する効果検証を始める。2024年度当初予算で「都市型ユニバーサル農園推進事業」(973万円)を新設。秋に試験園を開設し、農園を利用する障害者や引きこもりの人らの行動がどう変化するか、大学や研究機関に調査を依頼する。利用者の精神や健康状態に与える効果を可視化し、農福連携への新規参入を促す。
人間関係に行き詰まり、生きづらさや働きづらさを感じたり、うつ病を患ったり、引きこもりになったり、酒やギャンブルなどの依存症を抱えていたりする人もいる。ユニバーサル農園がこうした人々の居場所となり、最終的に多様な農業者を育てる受け皿となることを期待したい。
同農園への理解者を増やし、あらゆる人たちを排除することのない包摂的な共生社会を目指そう。